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社伝では、反正天皇の時代に浪花津(今の大阪湾)に黄色い船に乗った女神が現れ、「われは玉依姫(神武天皇の母神。海神の娘。神の霊が依るの意で、巫女のこととも)なり、この船の留まるところに社殿を建てて、そこの神を大切に祀らば国土を潤し、庶民に福運を与えん」と告げて、淀川・鴨川を遡って水源の地である現在の貴船に至り、そこに社殿を建てたものだとされています。 現在の貴船神社には本宮・結宮・奥宮があって、本来の社は奥宮だったそうですが、貴船の谷の一番低い所であり、しばしば水の害に遭ったので、天喜3年(1055)に本宮を現在の地に遷したそうです。 京都鴨川の水源地であり、平安京の水の神として信仰されたといいます。結社には和泉式部が詣でて夫との復縁を願ったと言う伝説もあり、縁結びの神社としてのアピールもなされています。 しかし、能ファンとしては能『鉄輪』で、夫に捨てられた妻が丑刻参りに来た神社、というイメージが強いので、縁結びというよりは、縁切りの神社な気がします。 恋の身の浮かむ事なき賀茂川に沈みしは水の青き鬼 能『鉄輪』では日々詣でる女に対して、貴船の社人が霊夢を見たと告げます。「身には赤き衣を著。顔にハ丹を塗り。頭にハ鉄輪を戴き。三つの足に火を灯し。怒る心を持つならば。忽ち鬼神と御なりあろうずるとの御告げにて候」 そして女はその通りの出で立ちをして、鬼と化すのです。 結社の祭神は磐長姫。記紀神話では、天孫の瓊々杵(ニニギ)が山神の娘である磐長姫・木花開耶姫の姉妹を娶る時、磐長姫が「凶醜」(『古事記』)だったので返し、木花開耶姫だけを召したといいます。結社の説明板では「磐長姫は大いに恥じて、『我長くここにありて縁結びの神として世のため人のために良縁を得させん』と言われてこの地にお鎮まりになりました」とありましたが、普通なら瓊々杵を恨むだろう、ましてや「世のため人のために良縁を得させん」なんて考えないだろう…なんて思うのは私だけでしょうか?(^^;) 実際、『古事記』でも父親の山神が怒って「磐長姫を娶れば、天孫の命は岩の如く磐石になっただろうに、ひとり木花開耶姫を留めたので、天孫の命は花の散るが如く短くなるだろう」と呪いのような言葉を吐いています。 まあ、神話ですし、いろいろな要素が背後にはあるのでしょうが(京極夏彦の小説『絡新婦の理』でも、この神話に関連するなかなか面白い解釈が載ってましたけど)、そういうのはあまりよく分からないので、私は単純に、貴船神社の結社は能『鉄輪』といい祭神といい、縁結びというよりは縁切りに効果ありそう、とか思っています(笑) ところで、貴船神社は境内の霊泉に浮かべると文字が浮かんで見えてくる「水占おみくじ」(右上写真)があります。水の神社ということでですね。なかなか面白いなと思い、普段はおみくじなんて引かないんですけど、今回は引いてみました。200円。ツレは「大吉」で喜んでました。私は「末吉」だったんで、ちょっと悔しかったんですけど。 (2003/11/21) |
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