|
天下の岩波書店がおくる能・狂言に関する総合解説書が「岩波講座 能・狂言」ですが、その第一冊目に当たるのが、この「能楽の歴史」です。 私は日本古代史を専攻している史学生ですから、能楽の源流になった散楽・猿楽といったものに最近興味を持っており、そのために手にとってみたのですがこれが意外に読み易い。「講座」であって研究書ではないのですから、相手に分かりやすいように書かれているのでしょうけど、「岩波」の名を恐れて(笑)今まで全然手にも取ろうとしていなかった本なんで、とても意外でした。 全体は六章に分けてあって、 1.「能楽史概説」(座を中心に見た全体の概観) となっています。 歴史好きで、同時に能・狂言ファンな私にはたまらない本でしたが、特に面白かったのは二章の「能の変遷」ですね。このサイトの「世阿弥の能本」で書いた世阿弥本なども取り上げてあって、例えば『難波』(世阿弥本『難波梅』)では多少の詞章の順番の違いはあるものの現行曲とほぼ同じである一方、『弱法師』では妻や天王寺の僧が出る形になっていることや、『雲林院』では後場を二条后の兄である藤原基経が鬼の姿で現れる鬼能であるという話が載っています。 (ちなみにこの世阿弥本に沿った演出は時々演じられているそうです。私は未見ですが(汗)) ほかに室町時代や江戸時代は今よりもっと短かったといわれる演能時間を、史料を基に具体的に計算している箇所もあります。こういう考証作業って面白いですよね。ちなみにその計算の結果では現在の演能時間をを100%とすると、室町中期50%・室町後期60%・江戸中期70%・幕末90%・明治期以後は今とほぼ同じという話です。 能楽というと大成された室町前期からほぼ変化がない、みたいに解説されたりすることが多いですが、こうやって考えていくと、世阿弥の説いたように、時代に合わせて変化していく部分と、変化しない部分とあるのが分かってきました。 (2003/11/14) |
|
|||||