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世阿弥を語れば世阿弥を語れば
松岡心平

岩波書店 2003年12月

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 書名の通り、能楽の大成者・世阿弥をテーマにした対談集です。松岡心平教授との対談の相手は能と関わりが深いものの、専門の研究者以外が多いのが特徴でしょうか。

 中には難しい用語が飛び交い、読んでいても全然意味が分からない部分もありました。特に編集工学の専門家である松岡正剛氏と松岡心平教授によるダブル松岡対談なんて、編集関係のカタカナ語と能楽の専門用語が飛び交い、ほとんど意味が読み取れませんでした(苦笑)

 ともかく世阿弥がテーマだけにある程度、世阿弥の著作に関する知識が必要なのです。…とはいえ、世阿弥の著作を全部読む必要はないと思います。読んだ方が理解し易いのは間違いないですが、例えば私は『風姿花伝』の一部ぐらいしか読んだことはありません。あとは『観世寿夫 世阿弥を読む』で覚えた知識です。

 面白いのは世阿弥をテーマにした本でありながら、世阿弥をただ礼賛している本ではない、という点ですね。世阿弥の素晴らしさを否定しているわけでもないのですが、例えば「世阿弥の能は素人には退屈な部分がかなりありますね」(多木浩二氏)とか、「『井筒』なんて、話としてはつまらないじゃないですか。田舎の女が業平とどうしたとかこうしたとか、どうでもいい世界ですよ」(土屋恵一郎氏)とか、世阿弥と聞けば間違いなく素晴らしいという思いがあった私には、かなりショッキングな発言もありました。

 もちろん、これらは世阿弥を「崇拝」といっても良いような状況である現在の研究に対しての大げさな物言いであって、世阿弥の全てを否定しているわけではありません。でも、正直私も『井筒』の良さはまだ分からない。『鵺』『敦盛』『野守』といった好きな作品もありますが、『清経』になると、少々貴族趣味に過ぎるかと感じることもあります。

 なんといっても私が今までで一番感動した能は観世元雅作『角田川(隅田川)』ですし、能が綺麗に整う以前の、問答による見せ場がある『国栖』『自然居士』『卒塔婆小町』などは謡本を読んでいるだけで面白いですし。ショー的だと否定的評価が与えられることが多いですが、観世信光『船弁慶』はサイトのURLに"http://funabenkei.daa.jp/"と入れるぐらい大好きな曲です。

 要するにこの本は世阿弥をいろいろな面から語って、もっと客観的に世阿弥を評価しなおす本なのです。今までの無批判の世阿弥崇拝ではなくて、もっと裸の世阿弥を見つめる本なのです。

 なんだか、新しい世阿弥観、能・狂言観を教えられました。

(2004/10/16)

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