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昭和中期から現在に至るまで能楽界全体に影響を与え、カリスマ的ですらあった故・観世寿夫師の様々な文章を集めて編纂された『観世寿夫著作集』全4巻から、22篇を取り出して再編集したものがこの『観世寿夫 世阿弥を読む』です。 元々の本の分類通り、「(一)世阿弥の世界」「(二)仮面の演技」「(三)伝統と現代」「(四)能役者の周辺」と銘打って章分けされていますが、本来が一冊の本にすることを目的に書かれていない文章が多いので、一応の目安にしか過ぎません。同じ主張が繰り返し登場したりするのも、もともとの文章が全く違う媒体に向けて書かれたものだからです。 いろいろな会のパンフレットや能関係の書籍に寄せた文章が多く、寿夫師が弟の観世静夫師(後の八世観世銕之亟師)たちと共に発行を始めた機関誌『銕仙』からの収録も多いです。学生で能をやっている私としては「関東観世流学生能楽連盟」や「早稲田大学能楽連盟」といった学生団体が主催した会のパンフからの収録もあることを見て、羨ましいとともに当時、関東の学生の活動がいかに積極的だったのかを感じたりしてます。 この本は偶然、私の手に入ったものでしたが、この本を読む以前と以後でかなり能に対する考え方が変わったのは間違いないです。それぐらい深く衝撃的な内容を持つ本だと言えます。「観世寿夫」の名が出てくる能・狂言関係の本を探すのはそれほど難しいことではありません。それだけ多くの人に影響を与えたためだからでしょう。 観世寿夫師が亡くなられたのは1978年であって、私が生まれるより前の話です。そして、寿夫師の活動の中心であった銕仙会は東京で活動しているので、そういう意味での思い入れは全くありません。私のある先輩などは「銕仙会は理屈が先行し過ぎる」と、批判めいたことを仰ることもあります。しかしそういうものを超えて、この著作集はまさに「天才」を感じさせるだけの内容をもっている、と思います。 (2003/11/14) |
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