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野村萬斎師が自分を媒介に狂言に近付いていく人たちに向けて書かれた本で、書名通り、萬斎師の1999年時点までの自伝のような内容となっています。 狂言の家に生まれ、狂言の道に生きることを選び、狂言以外の演劇に触れ、そして今に至る。その中で折に付け、狂言への思い、父であり師である万作師への思いが繰り返し語られます。古典芸能の名の上にただ楽にいるのではなく、積極的に他の芸との交流を行い、またそれを狂言に還元することを萬斎師は目指しているのです。 黒澤明監督の『乱』、シェイクスピア作品、NHK大河ドラマ『花の乱』、イギリス留学、NHKの朝ドラ『あぐり』など狂言以外の演劇・演技に関しても以後の萬斎師の本に比べると詳しく書かれていますが、その度にあくまで萬斎師自身は狂言師であるということを主張され、『あぐり』についての箇所では「狂言とは異次元である『趣味』の部分だけがうまくなってもしようがないわけです」とあるほどです。 あとがきにも「まわりの要求が、『狂言師・野村萬斎』ではなくて、『野村萬斎』であるということを、つくづく感じるようになってきました」と書いてらっしゃるように、萬斎師自身はあくまで狂言師・狂言方として今までもあり、またこれからもあろうとしているわけですが、周囲はそうは受け取ってはくれない。だからこそ、この本では狂言師として生きるその決意を表明しているのでしょう。 (2004/10/29) |
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