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扇は能に欠かせない道具です。シテ方の舞の型はほぼ全てと言って良いほど扇を必要とします。私がシテ方のお稽古を受けていた時には、扇は体の延長であって体から離れてしまってはならない、と散々に言われました。場合によってはシテが長刀や太刀、杖、狂い笹といった扇以外のものを手に持つこともありますが、それらもあくまで扇の応用としての扱いをします。これはワキ方にも同様のことがいえます。 狂言でも間狂言を含め、ほとんどの役が扇を持ったり腰にさして登場します。狂言の中でそのまま扇として何かをあおぐ時もありますし、小舞を舞う時はもちろん、酒を注げば徳利で、受ければ盃、『盆山』ではのこぎりと言った様に実に多彩に使用されます。また立方(シテ方・狂言方・ワキ方)に比べると目立ちませんが、囃子方も舞台に出る時は常に決まりの扇を腰に差しており、座った時には抜いて舞台に置いています。 この様に能・狂言と実に深い関係にある扇にテーマを絞った本がこの『能を彩る扇の世界』です。意外にも面や装束に比べると刊行物が少ないので結構貴重かも知れません。 最初にシテ方各宗家に伝わる扇の名品のカラー写真とインタビュー。扇にも各流の芸風が反映しているかのように思えるのが面白いです。各流『道成寺』の扇や曲目による決まり扇(これは観世流が主)が続き、仕舞で使う鎮扇、狂言扇(茂山千五郎家)、扇の歴史、扇を使った仕舞の型、観世舞扇調進所の伝統を伝える十松屋福井の取材と盛り沢山。間には杉本苑子さん・山崎有一郎さん・脇田晴子さんによるエッセイも入ってます。 (2004/11/08) |
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