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狂言三人三様 茂山千作の巻狂言三人三様 茂山千作の巻
(二世)野村萬斎、土屋恵一郎/編

岩波書店 2003年09月

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 野村萬斎師と土屋恵一郎さんによる狂言役者本三冊セットの中の一冊で、茂山千作師がテーマの巻です。

 特に約100ページにも渡るインタビュー記事「千作独言」は凄いです。「独言」といいつつも、次男の七五三師が補助のように、付け加えていることも多いですが。谷崎潤一郎が先々代と先代の千作師のことを書いた『月と狂言師』の話から始まって茂山千五郎家の昔の話、千作師の若い頃の話、テレビへの出演、間狂言の話、新しいことへの挑戦、狂言の演じ方など盛り沢山。読むとその言葉の裏から千作師の演技力が滲み出てくるかのようで、今すぐにでも千作師の狂言が見に行きたいという気分になってしまいました。

 続いての「狂言三人三様」は書名にもなっているもので、狂言の曲をいくつか取り上げて、茂山千作師・野村万作師・野村萬斎師がそれぞれ思い入れを語るもの。茂山千五郎家と野村万作家の違いが見えるだけではなく、万作師と萬斎師でも少しイメージが違ったりと一曲一曲が多角的に見えてきて面白いですね。

 その他は千作師と関わりのある人々による文章ですが、中には千作師自身と言うよりは茂山千五郎家に関する文章もあり、少しテーマがボヤける部分もあるように感じました。とはいえ「茂山千作」という稀代の狂言役者をここまでのボリュームで多角的に描いた本は他にないでしょう。


 ところで、千作師の弟である千之丞師の文章の中に「僕はそういう能と一緒に野垂れ死にはしたくない(笑)」とあったのが大変ショッキングでした。千之丞師御自身に関しては、狂言の芸力だけでも本当に能から離れても何も困らないぐらい活躍できるものを持ってらっしゃるから、なおさら重い。ましてや千之丞師は役者として以外の実力も持ってらっしゃいますし。

 私は今の茂山千五郎家の方向が最上とは思いませんが、能は時に素晴らしい舞台がある一方で、つまらない時は拷問にも等しいです。それでもお金を取って舞台に出ることもあります。大半の場合、能は純粋な興業ではないんですよね…。もちろん、お金を取れることが芸として素晴らしいかどうかは別ですし、危機感を持っていろんな活動をなさっている能楽師の方も多いのですが…改めてはならないことと改めねばならないことをしっかり押さえた上で、能もまた変化せねばならない時が来ているのではないでしょうか。

(2004/11/01)

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