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狂言のすすめ狂言のすすめ
(四世)山本東次郎

玉川大学出版部 1993年03月

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 「剛直」と評されることの多い狂言・山本東次郎家の現当主による狂言論です。

 東次郎師はまず、特に能との対比で語られる「狂言はとても分かりやすい」という意見に「待った」をかけます。狂言は能と比べて「話の筋が分かり、演じている動作、仕ぐさの描く意味が理解」し易いというだけで、「本当のなかみ、隠された本質がわかたたわけではない」と断じます。

 狂言の登場人物はあくまで普通の人間であり、普通の人間ならきっとどこかで無意識のうちに何らかの笑われるようなことをしています。そうした人間の持つあらゆる恐ろしく醜いものを他愛なく面白おかしく告発し示唆してしているところに狂言の真価があるのです。

 もっとも正直、東次郎師の主張が時々強烈過ぎると感じたり、深読みのし過ぎだと感じることもないではないです。しかし、ここまで徹底して厳しい姿勢を貫くことは演者として大切なことだと思いますし、狂言には特定の時代に縛られることのない普遍性が見えることには私は素直に賛成したいのです。

 先日、狂言『萩大名』を見に行った時、後ろの席の人がふとこう呟いてました。「和歌が読めない大名なんていたんかいな」 『萩大名』の大名は、別に大名だから和歌が読めないわけではありません。大名が和歌が読めない方が際立って面白く仕上げられるから大名に設定しているだけなのです。

 和歌的素養のない人、例えば現代人はほとんどそうですよね。私もです(^^;) もし私があの大名の立場になって突然和歌を詠むことになっても無理です。案内してくれた太郎冠者が予め作っておいてくれていても、普段から和歌に慣れぬ身ではどうしても不安で、失敗してしまうかもしれません。狂言はそれを設定や演技で大げさに見せているだけで、基本的には誰にでもある人間の本質を描いていると言っても良いのではないでしょうか。

 狂言は短く素朴ですが、決して底の浅い芸能ではないのです。

(2004/10/29)

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