|
平安時代の恋物語を元に作られた能のあらすじを読み物として楽しめるように編纂した本。収められているのは『道成寺』『通小町』『井筒』『砧』『羽衣』『芦刈』『葵上』『野宮』の8編。…『羽衣』などは平安時代以前のような気もしますが、違和感はないのでOKです。 読み易いですし、例えばシテが登場してワキとの対話が始まる以前に謡う部分がうまく言葉を取捨選択されて、あらすじ文に含まれているのが良いです。 その部分には周りの景色などを感情と絡めつつ謡われる情景文であり、省いてもあらすじとしては成り立つので、入門書や事典類ではほとんど省かれますけれど、実際の能の味わいはこういった部分にも多く含まれているわけであって、それを上手にあらすじに取り入れてあるのが、とても良かったです。 特に『芦刈』は「笠之段」と呼ばれる謡や舞の見どころを現代語訳したものは、読みながら一種のテンポすら感じられました。 それぞれのあらすじの後には、その能の登場人物から女性を一人取り上げて「ひとりごと」が語られています。この本の創作部分ですね。『道成寺』の少女が、鐘入の部分を「はじめてあなたとふたりきりになれた闇の中」と語るのは、暗くなまめかしく面白い表現だと感じました。 発売当初はまた「妙な本が出たのか?」と否定的に思ってましたが、実際に読んでみると思いのほか、面白い本でした。宣伝文句の「これは能の小説化」というのも、あながち外れではありません。変にひねらず、読みやすく、しかも深みもあるので。 (2004/10/19) |
|
|||||