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能に関する今昔の話題を、それぞれテーマ立てて、10ページ以内で軽く読み物とした本です。著者は宝生流の機関紙『宝生』の編集者を長年つとめられていた方だそうで、多少宝生流に関する記述に偏っている感じも受けますが、詳しいから記したまでだと思います。ほかは概ね公平に書かれているのではないでしょうか。 私が特に面白いと感じたのは、II(近世)の9に取り上げられた「川柳から見た謡講」。謡講というのは、謡仲間が集まってそれぞれの自宅や貸座敷などで謡を謡いまくる集まりのことで、夏目漱石の日記などにも登場しますから、明治時代までは存在していたみたいです。夏には「歌仙」と言って、三十六歌仙に因んで素謡三十六番!ということもあって、それに全部参加すると賞品が出るということで楽しんだりしたそうです。 ・ 地謡はひょこりひょこりといつかふえ 師匠の素人さんたちがする夏の浴衣会とかそうですけど、地謡は飛び入りだったのでしょうか。 ・
謡講程なく堀へ着きて候 「堀」とは廓、吉原のこと。それらはしばしば町の北にあったので「北方金剛夜叉明王」なのですね。謡講を口実に家を出て、多少は謡うのでしょうけど、最後はそちらに流れて行ったりした様子が伺えます。「程なく堀へ着きて候」などは、能の道行(場所の移動を謡う箇所)の直後のセリフにも通じますね。 と、謡が庶民文化として定着して、それを楽しんでいた様子が知れるのが面白いのです。 (2003/11/14) |
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