狂言の山伏の歩き方

初めて見た和泉流の山伏狂言

話は前後しますが、1日に山本能楽堂へ定期公演「たにまち能」を見に行きました。感想はいろいろありますが、狂言《蟹山伏》での、小笠原匡師の足運びに驚愕したというのが第一でした。

というのも、和泉流では山伏の役は摺り足ではなく、一歩ごとに足を上げて歩くのです。「鬼足」というそうです。一応、本で読んで知識はあったのですが…実際に見るのは初めてでした。

関西の狂言は大蔵流が圧倒的に多く、和泉流は小笠原匡師(野村万蔵家)がいらっしゃるだけ。来演の多い野村万作家を含めても、和泉流の狂言はあまり拝見したことがありません。…といっても観能メモを見直して数えてみると、20番ぐらいは見ているはずなのですが、その中で、今まで山伏狂言には一度も出会わなかったのですね。ちょっと意外。

しかし鬼足、インパクトが強すぎて、もうただ驚きました。正直なところ、演技の感想以前に違和感が先に立ってしまいました(^^;) 良し悪しではなくて、単に「足を上げて歩く山伏」を見慣れていないだけなんですが。

大蔵流でも江戸時代までは「鬼足」で歩いていたそうで、今でも名残として、幕の中で行っていると聞きました。幕が覗き込めるような位置に座れば、大藏流の鬼足を見ることも可能だとか。といわれたら、次は実践するしかありませんね(笑)

私が違和感なく鬼足の演技を見られるようになるまで、どれぐらいかかるのでしょうね~。でも、それぐらい多くの舞台を見ていきたいとも思っています。もっとも能『猩々乱』で多用される「流れ足」ほか特殊な足使いも、初めて見たときは違和感たっぷりだったのが今では普通に見れますから、そう遠くない話かもしれませんが。

《安宅》の間狂言と鬼足

そういや、どなたの文章だったか忘れたのですが、能《安宅》のアイも山伏の従者である強力なので、山伏の内だということで鬼足で演じたところ、シテ方からやめてくれ、と言われたなんて話を読んだ覚えがあります。ズラーッと並ぶ山伏たちの最後に、足を上げて狂言方が出てきたら、それだけで完全なコメディ。能の雰囲気が壊れてしまうことでしょうね。

…私、一度だけ和泉流のアイで《安宅》を見たことがあります。2003年3月13日に東京渋谷の観世能楽堂にて拝見した「観世文庫自主公演」能《安宅-勧進帳・延年之舞・貝立》で、シテは観世清和師。アイは三宅右近師の息子さんお二人で、和泉流でしたが…やっぱり普通に摺り足でした(当然)

…そういえば三宅右近家の狂言ってこの時に見たっきりです…。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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3件のフィードバック

  1. 寂昭 より:

    なるほど、大蔵・和泉で、違うんですか。
    あまり気に留めておりませんでしたので、
    へぇへぇへぇ(古っ!)。
    して方でも、流儀によっては「天狗が化けた山伏」の場合、
    大股にズイッ、ズイッと運びます。
    自分は、そっちに馴染んでいたんで、
    観世流さんの天狗物で、前シテの山伏が、
    普通の摺り足で歩いているのを拝見したときは、
    軽いカルチャーショックでした(普通と逆?笑)。

  2. 日向 より:

    私は和泉流の狂言を拝見する機会が圧倒的に多いせいか、山伏の歩き方に違和感を感じたことはないです。
    大蔵流と和泉流の山伏の歩き方は違うと、誰かに説明していただくまで歩き方が違うことに気がつかなかったくらい…。
    その誰かに~
    大蔵流の山伏は初めの一歩は鬼足で大きく出て、山を下りたことを表現している。そして、そのあとは摺り足。
    と、教えていただいた記憶があるんですが…。
    誰に何処で説明してもらったのか覚えてないんですよね。

  3. ★寂昭さん
    寂昭さんがご存知でないとは意外。
    いやーびっくりしました。
    和泉流でも派によっては、足を上げて歩かない場合もあるようです。
    天狗物の能は、私は観世流でしか見たことがないですね~。
    大股で運ぶ流派のものも見てみたいものです。
    この日、最初が書生さんの『車僧』でして、
    ショックを受けた『蟹山伏』と併せて、
    山伏の多い日だな~と思って見ていました(笑)
    ★日向さん
    狂言の演技自体がリアルではないわけですから、
    私が山伏の歩き方の対して感じた違和感は、
    完全に「大蔵流に慣れきってるから」のためですね。
    ただ関西では、和泉流は「見ようとしないと見られない」状態だったので。
    小笠原師が奮闘なさっていて、定期能などでの出演の数も
    増えていらっしゃいますが、それでも圧倒的に大蔵流が多数ですからね。