河村能舞台

初めての河村能舞台

京都の河村能舞台に、今日、初めて行きました。河村定期研能会を見るためです。同志社大学のすぐ北にありました。

このあたりって、同志社に進学した中学以来の友人宅に泊まり込みで遊びに行くたびに、彷徨い歩いていた場所なんですが(笑)、ここに能舞台があるって全然気付きもしてませんでした(^^;)

見所は畳で、古き良き能楽堂という感じ。橋掛かりの欄干の曲がり具合は山本能楽堂に似ているかな。初めて行く場所だしと早めに行ったら、一番前の席が取れてしまいました。

関西で定期的に能会を開いている能楽堂・能舞台を、これでやっと制覇しました(笑)  もっとも、嘉祥閣とか、堺能楽会館だとか、有馬能楽堂を名乗っているステーキレストラン・三田屋本店にある能舞台だとかはまだ行ったことがありませんが。

河村定期研能会。演能の直前に入る、能役者による解説がとても良かったです。分かりやすく、でも、能楽初心者向けの当たり障りのない解説ではなく。十分深く突っ込んだ内容をこう上手く話すというのは凄いなぁと。番組の裏に印刷された解説も、「能役者にして文学博士」の味方健師が書かれた、超詳細なものでした。

演目は能《遊行柳-青柳之伝》馬野義教師、狂言《鬼瓦》茂山忠三郎師、能《安達原》河村和重師。もっとも《安達原》は番組に書かれていなかったものの、「長糸之伝」「黒頭」「急進之出」の小書演出が行われました。

《安達原》は何度も見ている能ですが、後シテが出てきた時に、柴を持っているのを見ると、ホント悲しくてたまりません。

今日の舞台では、ワキ・ワキツレが足にまかせて。逃げて行くと謡っている時に、囃子も何もなしに幕が開いていて、その向こうからシテがワキたちを見ていました。その、どこか呆然としているような様が、私の胸にぐっと来て、思わず目頭が熱くなる。

続いての早笛、そして山伏との攻防である祈リの囃子が、激しければ激しいほど鬼女の内面の悲しみ辛みが表出しているようで、たまりませんでした。使用されていた面が「蛇」のような、普通の般若より生々しい表情をしているものだっただけに、ますますそう感じたのだと思います。前シテも唐織に中年女性の面という出立ではなくて、老女のような出立でした。

ここまでぐっと来た能は久しぶりです。…人の心変わりについて、いろいろ思った時期だというのもあるのですが。

たっぷり度120%の河村家の地謡

それにしても河村家の地謡、たっぷり度120%(観世流内部比)って感じで。とても聞かせる謡でした。もっと謡の文句をしっかり覚えてから行けば良かったと思いました。

河村定期研能会

◆2007年9月16日(日)12時半~ 於・河村能舞台(京都府上京区)
★観世流能《遊行柳-青柳之伝》
 シテ:馬野義教
 ワキ:森本幸冶 ワキツレ:広谷和夫・是川正彦 アイ:安東伸元
 笛:赤井啓三 小鼓:荒木賀光 大鼓:辻芳昭 太鼓:中田弘美
 地頭:河村博重
★大蔵流狂言《鬼瓦》
 シテ:茂山忠三郎 アド:枡谷雄一郎
★観世流能《安達原》
 シテ:河村和重 ワキ:原大 ワキツレ:小林努 アイ:山口耕道
 笛:斉藤敦 小鼓:曽和尚靖 大鼓:井林清一 太鼓:中田弘美
 地頭:味方健

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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5件のフィードバック

  1. もと より:

    能楽堂制覇おめでとうございます(^^)v
    私も大好きなお舞台です。
    解説もいいでしょう!
    この前のTTR能でも、晴道ワールドを堪能できましたよ♪

  2. とうとうたらり より:

    今回の解説は晴道師の兄上、晴久師でしたが、
    お二人とも解説がお上手ですね。
    晴久師は英語もご堪能だそうで、カナダ大使館で
    行われたお能の実演と英語による解説が良かった、
    というような記事を大倉源次郎師の日記で
    拝見したことがあります。

  3. yukino より:

    久し振りに能の感想が出ててちょっと嬉しいです
    安達原ってとてももの悲しい能ですね
    どうやっても悲しい展開にしかならないというのは・・・
    いっその事、見るなと言われたのに盗み見た狂言の人が山姥に食われたら良かったんじゃなかったのですか?と思わずには言われない(超感情的見解ですが)
    能て何とも言えない余韻が残るストーリーが多いですね

  4. とりあ より:

    河村能舞台は学生時代によく行きましたよ。
    京都外大の能楽部の自演会は河村能舞台でしたし、連盟の自演会や申し合わせで行くことも多かったです。
    また初めて笛の会に出させていただいたのも、河村能舞台でしたっけ。
    見所と近いのがすごく特徴的な舞台で、舞台に上がってあまりの近さに緊張が増幅されたことを思い出します。

  5. ★もとさん
    能楽堂制覇…と書いてみたものの、
    大津市伝統芸能会館を忘れてました(苦笑)
    定期公演はありませんが、時々会が催されてますよね。
    とうとうたらりさんが書かれてますように、
    解説は河村晴道師ではなく、晴久師だったのですが、
    芸以外に、「解説のファン」になってしまいました(笑)
    ★とうとうたらりさん
    さっそく大倉源次郎師のブログを「河村晴久」と
    検索かけてしまいました。
    うーん、日本の伝統芸を仕事とされながら、
    英語も堪能だとは…格好いいですねぇ。
    私は英語はからっきしなのでますます(^^;)
    ★yukinoさん
    『安達原』の部分だけだと、
    どうしても鬼女の悲しみが強いですよね。
    それでも、彼女の本性は道行く人を喰らっていた鬼女であって、
    だからこそ、最後に調伏されてしまう前提がありますよね。
    でも前場の語りから言っても決して望んでやってる感じも受けません。
    今回のアイにはなかったように思いますが、アイの台詞に
    「見るな」と言われたから見たくなる、というのもありますよね。
    それも人間心理として、当然のように思うのです。
    普通、主人の留守中に閨なんて覗きませんよ。
    それを招いたのは、他ならぬ鬼女自身の「見るな」という言葉。
    それが余計に悲しくなるんでしょうけれどね。
    能の余韻、大好きです。
    ★とりあさん
    学生自演会に使われそうな感じしました(笑)
    桟敷が出たら、舞台のすぐ真下にまで座れそうですね。
    客席が近いって緊張しますよね。
    もう閉鎖されますが、大阪府豊中市にあった「ゆやホール」で
    催された狂言の素人会に、仕舞で賛助したとき、
    思いの外客席が近くて、緊張しました。
    客席側からはそうは見えないんですけれどね(^^;)