若手能大阪公演

ようやく今年初観能ができました! 若手能大阪公演を第一部・第二部通しで拝見してきました。…とは言ってもすでに1週間前の話。完全に旬を逃しています(^^;)

ただし…やっと能が見れる!と前日から興奮しすぎ、完全な寝不足でした。とっても面白かった『萩大名』でも、大名の「床机を持て」のセリフから、太郎冠者の「(庭の亭主が)そこへ出ました」のセリフまで意識が飛んでました(苦笑) あとで台本で確認したら数行なので、ほんの一瞬だったわけですが、どれだけ最悪な体調で能を見に行っているのでしょう。本末転倒です。

狂言『萩大名』でこんな有様ですから、他は言わずもがな。特に宝生流舞囃子『龍田』は神楽で完全に沈没…。石黒実都師、好きな方なのに残念です。

というわけで、改めて教訓。能・狂言を見る前日はしっかり休みましょう(笑)

そんな沈没ばかりの中で必死に見たのが和泉流狂言『鶯』。和泉流にしかない曲で、初見。私はともかくも知識を増やすことに喜びを見出すタイプなので(笑)、興味津々で拝見しました。

ある男が稚児に献上するために鶯を取ろうとして失敗するという話で、上品で、最後に語りがあったりと芸力を見せる部分もありますが…いま一つ、まとまりきっていない感じを受ける狂言でした。ただシテの、厚板を羽織って下袴(大名などが相撲をとる時にはいている袴)に騎者笠という格好が、いかにも侍といった感じが出ていて面白いな~と感じました。

それから観世流の能『田村』。シテは代役の斉藤信輔師で、少々演技が荒いな~とは感じましたけれど、思いっきり舞っているという感じで、好ましい印象でした。あまり今まで見たことない方ですけれど、また見てみたい方です。

第二部にうつり、大蔵流の狂言『萩大名』。私は善竹隆平師はどちらかというと理知的な役が多いイメージなんですが、今日は少しおとぼけで愛嬌たっぷりの大名でした。こういう隆平師も良いですね。太郎冠者役の忠亮師や亭主役の隆司師はわりとイメージ通り(笑) まあ、シテがおとぼけ役を演じる分、かっちり演じるのがアドの役割なのかもしれませんが。

最後の観世流の能『紅葉狩』。割と人気曲ですが、私は後場がどうも苦手です。シテとワキが取っ組み合いをしてしまうと、能の表現としてはどうなのだろう?と思ってしまうのです。もう少し違う演出はないものでしょうか。前場の、ワキ維茂が寝入ったのを確認するために中之舞がテンポダウンして、それから一気に急之舞に変化する演出は大好きなだけに、前と後のバランスが悪いな~と感じてしまうのです。「鬼揃」などの小書が付いたものや、観世流以外の『紅葉狩』を見たことがないので、なんとも言えませんが…。

それにしても、今回のワキ方の配役。ワキ(平維茂):福王知登(弟) ワキツレ(従者):福王和幸(兄) ワキツレ(勢子):福王茂十郎(父・宗家)。普通なら逆に配役されるべきところですよね~。このメンバーが橋掛りで並んでいるのを見た時に「今日ってまさに若手能だな~」と感じたのでした。それにしても、ワキツレをしている福王茂十郎師って初めて見ました(笑)

あと、ワキ方といえば江崎敬三師を久しぶりに拝見しました。今回は福王家の中に単独で混ざってのご出演。イメージでは大臣出立(いわゆる勅使の姿)なので、今回『菊慈童』にてイメージ通りの登場で、嬉しかったです。『紅葉狩』のワキ後見もしてらっしゃいましたね。

ともかくも、久しぶりに見れた能はやっぱり面白かったです。だからこそ寝てしまったのが残念で…。次回の観能時は前日はしっかり休んで万全の状態で挑みたいものです。反省。

若手能 大阪公演
◆2007年1月27日(土)於・大槻能楽堂
[第一部]11時~
★観世流能『嵐山』
 前シテ(尉)/後シテ(蔵王権現)=大西礼久
 前ツレ(姥)=久保信一朗
 後ツレ(子守明神)=前田和子
 後ツレ(勝手明神)=山下麻乃
 ワキ(勅使)=福王和幸
 ワキツレ(従臣)=永留浩史・喜多雅人
 アイ(末社ノ神)=善竹忠亮
 笛:竹市学 小鼓:上田敦史 大鼓:原岡一之 太鼓:上田慎也
 地頭:吉井基晴
★和泉流狂言『鶯』
 シテ(梅若殿の家来)=小笠原匡
 アド(鶯の持主)=山本豪一
★宝生流舞囃子『桜川』
 シテ:辰巳大二郎 地頭:和久荘太郎
 笛:斉藤敦 小鼓:荒木建作 大鼓:森山泰幸
★観世流能『田村』
 前シテ(童子)/後シテ(坂上田村麻呂)=斉藤信輔(代役)
 ワキ(旅僧)=大日方寛
 ワキツレ(従僧)=梅村昌功・野口能弘
 アイ(清水寺門前の者)=善竹隆司
 笛:藤田たかひろ(代役・漢字が分かりません) 小鼓:久田陽春子 大鼓:辻雅之
 地頭:寺澤幸祐
[第二部]15時半~
★観世流能『菊慈童』
 シテ(慈童)=立花香寿子
 ワキ(勅使)=江崎敬三
 ワキツレ(従臣)=中村宜成・指吸亮佑
 笛:八反田智子 小鼓:高橋奈王子 大鼓:佃良太郎 太鼓:田中達
 地頭:武富康之
★大蔵流狂言『荻大名』
 シテ(大名)=善竹隆平
 アド(太郎冠者)=善竹忠亮
 アド(庭の亭主)=善竹隆司
★宝生流舞囃子『龍田』
 シテ:石黒実都 地頭:和久荘太郎
 笛:野口亮 小鼓:荒木建作 大鼓:守家由訓 太鼓:上田慎也
★観世流能『紅葉狩』
 前シテ(女)/後シテ(鬼)=長山耕三
 前ツレ(侍女)=林本大・井内政徳・山中雅志
 ワキ(平維茂)=福王知登
 ワキツレ(従者)=福王和幸
 ワキツレ(勢子)=福王茂十郎・永留浩史・喜多雅人
 アイ(供女)=小笠原匡
 アイ(武内の神)=中本義幸
 笛:斉藤敦 小鼓:吉田知英 大鼓:山本哲也 太鼓:三島卓
 地頭:上野雄三

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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7件のフィードバック

  1. yukino より:

     若手能私も二部見てきました。
     萩大名、私も面白かったです。普段は狂言と言えばくすっと笑いな感じなのですが、初めて大笑いしてしまいました。今日の善竹さん達は本気で笑いを取りに来てる、と感じたは私だけでしょうか?
     龍田は本当に美しかったです。女性能楽師の舞は初めてみたのですが、こんなに美しいものとは思いませんでした。
     二部の行列に並んでいた時にシックな洋服を着た石黒実都さんが案内に出られていたのでびっくりしたのですが、自分の出番がこれからまだあるにも関わらず、案内にわざわざ出て来られた事にちょっと感動してしまいました。本当に手作りなのだなぁ、と。
     その石黒実都さんなのですが、背筋がまっすぐ伸びていて、佇まいや仕草の全てが美しかったです。舞をしているわけではない普通の状況であれ程美しい佇まいの人がいるのですね。
     本当はサインでももらいたい気持ちだったのですが、能楽師の方にサインなどを求めてしまってもいいのか?となんとか踏み止まりました(汗)能楽師の方が目の前に居られた場合、てどうしたら良いものなのでしょうか?皆さんこういう場面てどうされていますか?
     私は紅葉狩けっこう面白かったです。ぶつかった所、ああいう場面は初めて見たもので。総じて紅葉狩、男性的な感じがしました。演者・囃子方ほとんどが男性だった事も大きかったのでしょうか。迫力ある能に思いました。

  2. 美歌 より:

    代役ってありますけど何かあったのですか?

  3. ★yukinoさん
    コメントありがとうございます。
    感想はそれぞれあって当然だと思うので、まあ、見方の一例とでも
    思ってください。好みだって人によって異なりますしね。
    『萩大名』は面白かったですが、「笑いを取りに来てる」というと
    少し違和感が。「頑張って笑いをとろうとする狂言」というのは
    あまり良い狂言だと思いませんので。…偉そうですね、私(反省)
    『龍田』は…沈没していたのが残念なばかりで。
    石黒師は、宝生流ということもあってあまり拝見する機会はないですが、
    結構好きな方なんです。でも、ほとんど意識がなかったです。
    神楽の舞の小鼓の、プ・ポ・プ・ポとずっと同じ音を繰り返す演奏に
    やられたのではないかと個人的には思ってます(笑)
    石黒師、ロビーでずっと案内をされていましたね~。
    能楽師へのサイン…あまり一般的ではないようにも思いますが、
    どうなんでしょう。私は引っ込み思案なほうなので、好きな能楽師が
    近くにいても、お声もかけられずに終わることが多いですので…。
    最初にも書きましたけれど『紅葉狩』の取っ組み合い、私は苦手です。
    『紅葉狩』を見るのは2度目ですが、前も同じ感想をいだいたので、
    演出自体が苦手なんですね。
    私は能や狂言の魅力には、それぞれの演者の「力」のぶつかり合い
    というのが大きな部分を占めていると思ってます。しかし、直接
    取っ組み合うのとは全然違うと思うのです。どんなに激しい動きでも、
    あくまで舞を基本にした洗練した動作があってこそ、と思うのですが、
    取っ組み合ってしまうと、舞を基本とした動きや、それによって
    作られてきた空気が崩れてしまう、そんな気がするのです。
    もっとも好みの問題だという気もしますのが…。
    ★美歌さん
    シテはご病気だったそうで、代役でした。
    笛の方は理由はアナウンスされてましたっけ…?
    能楽師の方々も人間ですので、
    時に代役ということもあるんです。

  4. ありよ より:

    5月ごろにチケットの件でお世話になったありよです。
    拙ブログにTB頂きましてありがとうございます!!
    まさか、こんなブログにTB頂けると思ってなかったのでめっちゃビックリ!
    というか、拝見いただいたということに驚いちゃってます☆
    はぁ~。ありよのミーハーぶりがバレてもーてるんやろうなぁ…なんて。
    ゆげひさまの文章にお付けするのもおこがましい限りなのですが
    こちらからもTBさせて頂きたいのですが、なんせ機械音痴のありよ。
    TBできておりましたら、よろしくお願いいたします。m(_ _)m

  5. 若手能!第二部☆秋の章

    ……さっき。
    キーを押し間違えて。全てが消えてしまいました(T-T)
    いいもん。もう一回書くから。
    === 若手能・第二部 ===
    == 観世流能・菊慈童 ==
    {{{
    シテ(慈童)立花香寿子 ワキ(勅使)江崎敬三 ワキツレ(従臣)中村宣成&指吸亮佑
    笛・八反田智子 小鼓

  6. 柏木ゆげひ より:

    ありよさん、こんにちは。
    TB&コメントありがとうございます。
    拝読させていただいて、能をとっても素直に
    楽しんでらっしゃるな、と感じました。
    私はどうも理屈っぽくて….。
    またこれからもよろしくお願いいたします。

  7. 山下孝夫 より:

    まさに、形骸化して「取っ組み合い」にしかなってなく、武術の技に達していないので、芸術感動が起こらないのです。たとえば何回も刀を抜きかけるなどという馬鹿なことがありますか。体をかわせてもいません、あれじゃ死にます。練達の武道家の技は美しく静かで、能の達人の仕舞と比肩でき、江戸時代にはそういう観客がいたので、もっとうまくやったのではないでしょうか。狂言の人にも感じます。立ち回りだけではないしぐさの共通事項ですが。多くの人は型だけになってます。それだと上海雑技団です。能の武術は格闘術ではないのです。詳しくは、たとえばフォーサイスを指導している日野晃のサイトでもどうぞ。