さて、「五人囃子の会」の感想、お囃子篇です。五人囃子というわりに、3月3日からは結構ズレているなぁ…と思っていると、この時期こそが旧暦の桃の節句だそうです。
雛祭りの五人囃子が、能楽の囃子方(笛・小鼓・大鼓・太鼓)と謡方であることは能楽ファンなら周知のことですが、一般にはあまり知られていないようで、時々、太鼓方が笛をつかんでいたり、小鼓と大鼓が逆の五人囃子を見たりすることもあります。
学生のころ、3月初めに能楽部の合宿をしたところ、利用させていただいた民宿が玄関に雛人形を飾られており、それをご覧になった師匠が「おお、きちんとあってる」と感心なさってましたが、逆に言えばそれだけきちんとした五人囃子を見る機会が少ないんですよね。
そんなわけで、最近は雛人形を見ると、五人囃子を一番熱心に見てしまいます。京都国立博物館で毎年春に催される雛人形展などは大好きで、古い雛人形には、お雛様が天冠(能『羽衣』などの天女がかぶってるアレ)を被っているものがあったり、また囃子が雅楽の楽器で、しかも五人より多いものもあったりして楽しいものです。
法然院は浄土宗の開祖・法然上人ゆかりのお寺だそうで、哲学の道のすぐ東側、風格のあるお寺でした。咲いた桜の花びらが風に吹かれて舞う哲学の道を歩いて向かうだけで、もう嬉しくなってしまいました。
会場は大書院。最近、能楽の歴史に関する本を読んでいるだけに、昔、お大尽が自邸に役者などを呼んで演じさせた「座敷能」などをイメージして、ちょっと悦に入ってました(笑) 奥にはお雛様とお内裏様の人形。その前に「生」の五人囃子が並ぶという趣向なんですね。人形自体は古いものではなくて、法然院の梶田真章貫主の娘さんのものなんだそうですが。
囃子の演奏の前に、前京都府立文化芸術館館長の石沢誠司さんによる、「お囃子と五人囃子」という話がありました。雛人形の様々な飾りが何を表しているのか、という話で、男雛と女雛の間に置いてある桃花酒など、具体例を挙げながら、宮中の三月三日の節会の様子なんだ、ということには納得。左近の桜・右近の橘など、宮中をイメージするモチーフ満載ですものね。
でも、私も前々から疑問を持っていた五人囃子が雅楽ではなくて能楽である理由に関しては、「町入能などで、雅楽より能楽のほうが町方にも親しみがあったから」というのは、ちょっと弱いなぁと思いつつ。宮中行事を模すこと自体、そんなに町方に親しみのあることとは思えないし、親しみでいうなら三味線も入った歌舞伎の囃子でも良い気がしてくるので。より説得力のある説を知りたいな、と欲求不満です(笑)
演目はまず、桃の節句にちなんで『西王母』下リ端~中之舞~キリ。そして一調『桜川』をはさんで、浦田保親師の舞囃子『融-酌之舞』。あまり広くない座敷なので、囃子方は壁ギリギリまで下がって、それでも舞のスペースは狭いです。でも、そこで思いっきり大きく舞われる保親師。もともと大好きなシテ方の一人ですけど、能舞台でいえば脇正面の一番前にいたので、常座で扇を翳すと、ぶつかってしまうかもと心配するぐらい、近くて迫力満点でした。囃子自体も緩急自在な酌之舞ですが、囃子のグッと締まるところでシテの動きもピタッと合う。これがたまりません。そこから流シ(小鼓・大鼓・太鼓の連打)の手が来たら、もう「来たぁっ!」と思ってしまう私は、だいぶ囃子に毒されてますね。
ただ、演者が近いだけに能舞台以上に、汗だくで舞われている様子もよくわかって(苦笑) 保親師は先週ブログにインフルエンザにかかったと書かれていましただけに、体調大丈夫なのかな、と要らぬ心配もしてしまいました(苦笑)
休憩をはさんで、後半は成田達志師の小鼓と大江信行師の謡による一調『放下僧』。クセのアゲハ謡~小歌。『放下僧』のこの部分は、舞台で大鼓を打たせていただいたことのある曲なので、親しみはあるのですが、当たり前ながら「同じ曲が、こんなにも違うのか」とショックを受けるぐらい、成田師の小鼓によるリズムの伸縮自在さが心地よくて、楽しくて。
「げにまこと。忘れたりとよ」とカシラ(「イヤー」と掛け声をかける部分)が連続で打たれたときとか、「代々を重ねて。打ち治まりたる」と、ポポンと謡を刻み込んで打たれたときとか。もう成田師、最高です。正直なところ、今まで一調を面白いと思ったことはあまりないのですが、今回の『放下僧』は良かったです。こんな楽しい一調なら、もっとたくさん拝見したいものです。
最後は演者が裃に着替えての居囃子『望月-古式』。「古式」は羯鼓の前に「吉野龍田の花紅葉。更科越路の月雪」と謡が入って、敵討ちの部分にワキとシテ・子方の問答が入る形。居囃子なので、問答はありませんでした。
能では子方が舞う羯鼓は、「中之舞」のカカリから「羯鼓」独自の部分に入って最後は「男舞」へと次々に変化するのが楽しくて大好きな囃子です。そこから更に「乱序」を経て「獅子」へ。謡の部分も太鼓入りの大ノリから「この年月の怨みの末」と大小平ノリに変化する部分は聞いていて楽しい。変化満載な居囃子でした。
当日配られてた冊子に、「五人は語る」と題して載っていた、それぞれの演者の聞き書きも良かったです。本を読んでも分からない、演者ならではの実感のこもったもので、面白く拝読させていただいきました。
法然院、ちょっと遠かったですが、それだけの価値のある楽しい会でした。
五人囃子の会
◆4月14日(土)18時半~ 於・法然院大書院(京都市左京区)
★お話「桃の節句に」梶田真章(法然院貫主)
★お話「お雛様と五人囃子」石沢誠司(京都府立文化芸術館長)
★観世流居囃子『西王母』
謡:浦田保親 笛:杉信太朗 小鼓:成田達志 大鼓:河村大 太鼓:前川光範
★一調『桜川』
謡:浦田保親 大鼓:河村大
★観世流舞囃子『融-酌之舞』
シテ:浦田保親 地頭:田茂井廣道
笛:杉信太朗 小鼓:成田達志 大鼓:河村大 太鼓:前川光範
★一調『放下僧』
謡:大江信行 小鼓:成田達志
★一管『真ノ名乗笛』杉信太朗
★一調『小塩』
謡:田茂井廣道 太鼓:前川光範
★観世流居囃子『望月-古式』
謡:浦田保親 笛:杉信太朗 小鼓:成田達志 大鼓:河村大 太鼓:前川光範
なにはともあれ、いつもお仕事で観能予定を犠牲にされている管理人さんが、久々にお囃子を満喫されたご様子、お慶び申し上げます(^_^;)
法然院といえば、谷崎潤一郎のお墓のあるところですね。墓石の脇に一本桜の木があって、ちょうど見頃だったのではないでしょうか……?
谷崎潤一郎の墓があるんですか!
全然知らなかったです。
ちょっと出る前に、バタバタしまして、
到着が開演ギリギリになり、また終わりも
バスの時間などの関係で急いで帰ったものでして。
もっとゆっくり回れたら良かったですね。残念。