せぬひま公演

せぬひま公演に行ってきました(^^) 「せぬひま」は世阿弥の著書『花鏡』にある

このせぬひまは何とて面白きぞと見る所。是は油断なく心をつなぐ性根なり。舞を舞いやむひま、音曲を謡ひやむ所、そのほか言葉、物まね、あらゆる品々のひまひまに心を捨てずして用心を持つ内心なり。此内心の感外に匂いて面白きなり

に由来する名前です。間(ま)と間のあいだの「せぬひま」。それは能・狂言においては無ではなく、能や狂言の魅力の源とも言える部分なんですよね。世阿弥の至言だと思います。去年から始まった公演で、今年は二回目です。

で、今回の公演ですが、実に面白かったです。しかし、全部感想を述べると長いので…特に心に残ったもののみを書かせていただきます。ところで、京都の夜の公演に初めて行きましたが、やっぱり帰るのが大変です。すぐ「今日中には帰れる…かな?」って気持ちで(^^;) 実際帰宅したのが11時50分でした。ギリギリ(笑)

★一調『勧進帳』
目を瞑ると弁慶が勧進帳を読み上げているのが、目に浮かぶかのよう。吉阪一郎師は実に「ここ」と思う場所にしっかりと打ち込まれますよね。片山清司師の謡と相俟って、力強くそして爽快な一調でした。

★大蔵流間語『姨捨』
能『姨捨』の間狂言の語り。能の本文では、捨てられた老婆の生前の姿はほとんど語られず、老婆の魂は人間社会を超え、月の光の中に消えていくかのような澄んだ世界が描かれるそうです。その分を補完する意味合いからか、間狂言では、老婆が、育てた甥に捨てられる人間社会を様子をリアルに語ります。

紋付袴姿の茂山千作師が舞台中央に座られ、手に扇を持つと「さるほどに…!」 それを聞いた瞬間、顔の毛が逆立ちました。それぐらい迫力。「微笑ましい」「可愛らしい」などとよく語られる千作師の、別の面を見せつけて下さいました。

語られる男が育ての親である伯母を山に捨てたあと、「ものがなしく、次第次第に寂しくな」った辺りから涙腺が刺激され、「はらはらと涙を流し」た時には一緒に流しそうになりました。力強く、かつ、物悲しい語り。今はほとんど間狂言を勤められない千作師ですが、まさに「狂言方の能楽師」としての迫力でした。これがなかなか見れないのは、勿体ないです、本当に。

★観世流舞囃子『石橋』
前場にあるサシ・クセから最後までの舞囃子。『石橋』は「獅子」の舞以降だけを半能な形で上演されることが多いですが、前場で語られる石橋の描写があると、獅子以降の豪快さがより効いてくるなあ、と感じました。

あと獅子の舞では「獅子ってこう舞うのか!」と。能だと装束に隠れて見えにくい体の動きが、紋付袴姿の舞囃子なので実によく分かりました。だからといって真似できるようなものではありませんが…シテ方の稽古を通して鍛え抜かれた体があってこそ。獅子は何度聞いても、囃子方の気力十分で派手な曲ですね。

2005年5月20日(金)19時開演 於:大江能楽堂
★一管『乱曲』森田保美 ★一調『勧進帳』片山清司・吉阪一郎 ★一調『橋弁慶』味方玄・河村大
★一調『船弁慶』河村晴道・前川光範 ★大蔵流間語『姨捨』茂山千作
★観世流舞囃子『善知鳥』
 シテ=河村隆司 地頭=片山清司
 笛=森田保美 小鼓=吉阪一郎 大鼓=河村大
★観世流舞囃子『石橋』
 シテ=片山清司 地頭=河村隆司
 笛=森田保美 小鼓=吉阪一郎 大鼓=河村大 太鼓=前川光範

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. こっこ より:

    千作さんの間語、本当によかったですよね。
    曲は違いますが、昨年の大槻での粟谷菊生さんの「鬼界島」の舞台を思い出してしまいました。
    今日は大槻でのお素人会で千之丞さんが「花月」の間でしたがこちらもよかったですよ!
    (途中ちょっとうつらうつらしたのですが千之丞さんのいいお声で起こされました!)

  2. こんにちは、こっこさん。
    そうですよね、去年の粟谷菊生師にとって大阪最後の演能となった
    『鬼界島』も、珍しくアイを茂山千作師がお勤めでしたものね。
    ワキの宝生閑師ともあわせて、素敵な舞台でしたよね。
    『花月』のアイは、シテと恋の小唄を一緒に歌う
    ちょっとアヤしげな役ですよね(笑)
    茂山千之丞師の演技も、最近ちょっと見ていないので見たいものです。

  3. 挿頭花 より:

    「せぬひま」公演にいらしてたんですね。(探してみればよかった・・・て、分かるはずもないですが。)
    あんなに演者と見所の間の空気が緊密に感じられる公演は、他に知らないです。
    自分が舞台にあがるかのように、公演前は変に緊張して胃がきりきりしていました。
    そして一曲終わるごとにほぅっと息を吐くのでした。
    ほんと、疲れる公演ですよね。(それも心地よいのですが。)
    千作先生て、いまはアイを滅多になさらないんですか?
    またぜひいつか能の中での千作先生を観たいものです。

  4. こんにちは、挿頭花さん。
    確かに、「せぬひま」は心地よい緊張感のある舞台でしたよね。
    茂山千作師は、ほとんどアイをされません。
    それこそ、前は去年の『鬼界島』以来、
    千作師がアイを勤められた、という話は聞いていません。

  5. 『せぬひま 第四回公演』@大江能楽堂

    なぜかお気に入りに入っている「せぬひま」のサイト
    いつこのサイトを知って、いつからお気に入りに入っているのか謎です・・

    そのいつのまにか私のお気に入りに入っていたサイトで告知されてい
    るのが、今月行われる「せぬひま 第四回公演」
    しかも、サブタイト

  6. びいすと より:

    こんにちは。
    過去の記事ですが、リンク・TBさせていただきましたので、
    こちらでご報告させていただきますm(_ _)m
    不都合がありましたが、お手数ですがご連絡ください。