TTRライブ能in細野ビルヂング

細野ビルヂング

レトロビルでのライブ能

神戸女子大学古典芸能研究センターを出た後は急いで大阪へ。能楽囃子方ユニット・TTR能プロジェクト主催のライブ能へ参るためです。今回の会場は「細野ビルヂング」。大阪・西長堀にある、昭和11年に建てられたというレトロなビルでした。

入り口で配られたプログラムには素囃子《五段次第》、連吟《高砂-初同》、舞囃子《高砂-八段之舞》…などとあるので、1つ1つ切られるのかと思いきや、ノンストップ。力強く勇壮な次第で一気に引き込まれて、そのまま力強い連吟が続きます。そして連吟を謡ったシテ方3人の内、出端の次第で立ち上がったのはキレのある動きならこの人、浦田保親師! まさにライブ能で、一番迫ってきた時は数十センチも離れてなかったかも。

颯々の声ぞ楽しむと《高砂》が終曲しても、そのまま笛の一管(独奏)が続いて、徐々に太鼓・大鼓・小鼓が加わって気付けば素囃子の《神楽》へ変化。そして小鼓のプ、ポ、プ、ポという連続の響きが居囃子《砧》の、後シテの招魂の楽のように繋がります。

《砧》のシテ謡は杉浦豊彦師。《砧》は私にとって遠い曲で、舞台を見たことも、謡を読んだこともあまりありません。けれど、音楽としての強さは痛いほど伝わってくる。テンポは《高砂》とは打って変わってゆっくりとなっても、密度としてはより高まって、そして気付いた頃に終曲。ともかくも圧倒されて終わったという感じでした。

そこで休憩を挟んで後半。《三番三》が舞い始める部分「揉み出し」の力強い大鼓から、ぐっと引き締まって「大小序之舞」の序へ。《野宮》の舞囃子に繋がります。シテは続いての杉浦豊彦師。《野宮》もあまり謡を覚えていない曲ですが、また車にうち乗りて火宅の門をや出でぬらん。火宅と留めた、いわゆる「火宅留」の形だったような。いろいろ含む印象がある好きな演出です。

《野宮》の余韻の後、またガラッと違う世界へ引き込む力強い太鼓のカシラ。乱序の囃子です。ここからは《石橋》の半能。今まで地謡を担当されていた寺澤幸祐師に加えて、再び登場の浦田保親師も立ち上がる。興奮のあまり、思わず「相舞っ!?」と小さく叫んでしまいました。(←舞台が演じられれている途中の私語は反省していますが、それだけ興奮してたんです) ライブ能の会場を二人の獅子が所狭しと暴れ回ります。舞手の2人や囃子方の熱演はもちろん、たった1人で地謡を担当された杉浦豊彦師も熱い!

トークもお上手なTTRのお2人ですが、今回は言葉はほとんどなく演奏のみといった感じ。それがまた良かったです。狭い空間だったというのもありますが、立見が出るほどの盛況でもありました。

能の素の力を改めて見せ付けてくださった素敵なライブでした。若干トリップ気味で、夢を見ているかのような感覚。楽しい時間は、醒めれば一瞬だったことに気付いてしまうリアル《邯鄲》? 休みが取れて本当に良かったです。

TTRライブ能in細野ビルヂング

◆2006年10月13日(金)19時半~ 於・細野ビルヂング1F(大阪市西区)
★素囃子《五段次第》 ★連吟《高砂-初同》 ★観世流舞囃子《高砂-八段之舞》
★素囃子《神楽》 ★観世流居囃子《砧》
★素囃子《揉み出し》 ★観世流舞囃子《野宮》 ★観世流半能《石橋》
シテ方:杉浦豊彦・浦田保親・寺澤幸祐
笛:竹市学 小鼓:成田達志 大鼓:山本哲也 太鼓:上田慎也

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. のん。 より:

    本当に良かったみたいですね(^-^)
    私も行きたかったのですが場所がわからず…諦めました。
    そうだ、掲示板に入れなくなりました(・_・;)
    残念…。

  2. 確かに今回の会場の細野ビルヂングは
    TTRでは初めて使われた場所でしたが、
    http://noh-tetsuya.com/ttr/2006tive.html や
    http://www.sgy3.com/hosonobldg/map/index.html に
    書いてある通り、大阪市営地下鉄「西長堀」駅の
    4C出口から出て、本当に目の前でしたよ~。
    迷うような場所ではなかったですのに…。
    掲示板に入れなくなったとは、どういうことですか?

  3. kumiko より:

    はじめまして。
    「kumiko日記」のkumikoです。
    トラックバックをしてくださりありがとうございました。
    細野ビルの夜はほんとに感動しました。
    ただ、最近の私は能から離れてましたので、久しぶりだったから良かったのかしらとも思いました。でもあの観客の方々の満足した顔を見たら、ほんとに良かったのだとわかりました。
    柏木さんの文章を読ませていただき、具体的にその良さが書かれているので、やっぱりとうなづいた次第です。
    私が能を見ていたのはもう何十年も前のことで、思い出す舞台は先代の方々になってしまいました。
    ほんとにあのお囃子と舞を見せていただき幸せでした。
    また機会がありましたら、見に行きたいと思っております。

  4. ★kumikoさん
    コメントありがとうございます。
    「ライブ能」とブログ検索して拝見させていただきました。
    能を見るのは久しぶりの方だったんですね。
    とっても興奮してしまったライブ能でしたね。
    是非ともまた能を見に行って下さいませ。

  5. sugiya より:

    はじめまして。
    細野ビルヂングイベント情報サイトを運営しているsugiyaです。10月13日のTTRライブ能の写真を数点アップしましたので、お知らせいたします。
    また、わたしのブログでも告知しました。そのページからこちらへトラックバックを付けさせていただきました。

  6. ★sugiyaさん
    初めまして。コメント&TBありがとうございました。
    sugiyaさんのサイトには、TTRライブ能へ行く際の
    道の確認など、大変お世話になりました。
    再び写真で見ることができて、あの日の衝撃が
    少し蘇ってくるかのようです。
    またあんなイベントに行ってみたいものです。