おおさか・元気・能・狂言

さて、既に月が替わっていますが、2月23日はNHK大阪ホールへ「おおさか・元気・能・狂言」を見に行きました。A席1,000円で、大槻文蔵師の能が観れると思えばこそ!

演目の能『鉢木』は、鎌倉幕府の執権・北条時頼が身分を隠して諸国を旅をしている途中、とある零落した武士の家に泊まると、その主人・佐野常世は秘蔵の鉢の木を伐って薪に炊いてもてなし、落ちぶれていても、もし鎌倉に事が起きたら真っ先に駆けつける覚悟があるという話をした。後日、時頼が武士の召集をかけると、常世も言葉に違わず駆けつけたので、所領を与えられたという話。

水戸黄門の漫遊譚の元祖みたいなもので、歴史的なツッコミどころは多々あり、私は話としてはあまり好きではないのですが、謡が良いのと、直面(素顔)の文蔵師の立ち姿のカッコ良さで、十分カバーしてました。前に、聲壽会能で橋本雅夫師のシテで『鉢木』を見たときも、舞もないし、あまり好きではない内容なはずなのに、私が能の最大の魅力だと思っている「気迫」というか、そんなものが伝わってきて、良かったなぁと思ったのでした。

『鉢木』の間狂言は、前観たときと違うように思います。確か前に観たときは、狂言方が一人で出てきて、諸国の武士に触れ回ろうと出かけて、途中で鎌倉へ続々と集まってくる軍勢の様子を描写するものだったはず。(演じたのは茂山千三郎師。)

今回観た間狂言は、早く鎌倉入りして褒美をもらおうとする三人組で、中の一人は言われてついて来ただけで何で出てきたのか理由が分かってなかったりと、かなり笑いを入れたものでした。演じたのは千五郎家なので、派手に変えたのかな?なんて思いつつ。私は一人で演じて語り芸を見せる演出の方が好みだな、と感じました。初心者向けには分かりやすいでしょうけれど。

狂言は茂山千作・千之丞兄弟の『伯母ヶ酒』で、とっても良かったです。アドの伯母が千作師で…千作師のビナン鬘姿って初めて見たかも。珍しいものをみたな~とお得感のあるものでした(笑) そして着ていた縫箔も、とっても渋い色のもので、千作師だから着れるんだろうなぁと。

しかし、千作師(87歳)が立ち上がったりするのが大変そうで、孫の正邦師に支えられていたのに対して、全く年齢を感じさせない動きを見せる千之丞師(83歳)。好きな狂言方だけに嬉しいのですが、元気すぎるなぁと思うこともあります。

おおさか・元気・能・狂言
◆2月23日(金)18時半~ 於・NHK大阪ホール(大阪市中央区)
★大蔵流狂言『伯母ヶ酒』
 シテ(太郎)=茂山千之丞
 アド(伯母)=茂山千作
★観世流能『鉢木』
 シテ(佐野常世)=大槻文蔵
 ツレ(常世の妻)=上野雄三
 ワキ(北条時頼)=福王茂十郎
 ワキツレ(時頼の従者)=福王和幸・福王知登・喜多雅人
 アイ(侍)=茂山七五三・茂山千三郎・茂山あきら
 アイ(太刀持)=茂山千五郎
 笛:貞光義明 小鼓:清水晧祐 大鼓:辻芳昭
 地頭:上野朝義

Pocket
LINEで送る

柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

オススメの記事

6件のフィードバック

  1. PAW より:

    間狂言にも家によって違いがあるんですね。
    私は笑いのあるアイ狂言も好きですよ。大江山が一番好きです♪普通のアイ語りもいいんですが、難しくて分からないこともあるので(汗)いずれにせよ、能が何番も続く会だと特に、曲によって個性のある間狂言が嬉しいです。
    間語りを「へー、そうなんだ」と興味深く聴けるようになりたいのですが… まだまだ若輩者のようです(><)
    それはそうと、ヒシギってやっぱり難しいんですね。
    私の中でも「好きな笛方」と「ヒシギが好きな笛方」は違いますもん(笑)

  2. 花子 より:

    NHKホールはどのような舞台環境でしたか?柏木さんが指摘
    される前に笛方、小鼓方は何故鳴らなかったか充分承知されてるでしょう。板が反った舞台で仕舞は舞えないでしょう。
    どのような条件の基でも最高を求めるのは酷です。
    このような場で一方的に感想を述べられますと死命を制する
    事になります。楽しく日記を拝見してましたが残念です。

  3. ★PAWさん
    家によって、ではないんです。
    というのも、前回、私が能『鉢木』を観たときも
    間狂言をつとめたのは千五郎家だったからです(笑)
    詳しい配役は忘れてしまったのですが、当時の番組を見ると、
    「アイ:茂山千三郎・網谷正美」とあります。
    『大江山』の間狂言良いですよね(^^)
    ちゃっかり、情報収集のために近づいた女性を奥さんにして帰る男(笑)
    普通のアイ語りって、
    「さようのことは詳しく存ぜず候さりながら、語って聞かせ候」と
    言いながら、実際はとっても詳しいじゃないですか(笑)
    でも、本当に知らなくて、頓珍漢なことをいう『山姥』の間狂言が
    私は好きですね。
    後は『車僧』の間狂言とか。こちょこちょこちょこちょ…。
    ヒシギって難しいですか。お稽古なさっているPAWさんだと
    ますます重く感じられます。
    ★花子さん
    ご不快な思いをさせてしまったことは申し訳ございません。
    書きようがなっていなかったと大変情けなく思っております。
    ただ、私がNHKホールで能を見るのは今回で4度目です。
    その以前と比べても…という意味があったことは
    申し加えておきますね。

  4. kaki3 より:

    花子さんの書き込まれていた
    「どのような条件の基でも最高を求めるのは酷」
    という意見に驚きました。
    観能すれば様々なご意見、ご感想が、
    ご覧になっている方の数だけあるでしょう。
    私の考えはこうです。
    そのNHKの公演は、玄人さんの有料の公演。
    観る側が「最高を求めるのは当然」です。
    他に何を配慮しないといけないのでしょうか。
    舞台が悪条件下だから仕方が無い、ではなく、
    そんな状況にも関わらず、関係なしに、
    やはり素晴らしかった~♪
    そういう舞台を期待して
    わざわざ観に出掛けるわけで。
    死命を制する事?の意味がよく判りませんが
    役者である以上、いろんな感想、批評、批判に合うのは避けられないでしょう。
    それらが悪意に満ちた中傷でない限り、
    良いも悪いも遠慮なく感想を述べ合うというのが、
    この場の良いところだと思っていますけども。

  5. PAW より:

    「山姥」の間狂言、何だかかわいくて私も大好きです♪
    「車僧」もいいですね。あれで笑わないワキが凄い。さすがプロですね(当たり前か)
    ゆげひさんの日記、私は好きです。能への愛情と敬意がひしひしと伝わって来るので(^^)
    ですから正直なところ、今回の日記を拝見して少し「あれ?」と思ったのは否定出来ません。普段よりちょっと辛口だな、と(笑)
    感じた通りに舞台への不満を書くことは悪いことではありませんし、それをする・しないは単なる好みの問題だと思います。
    ただし、こういう誰が見るか分からない場で書くということは、ご本人の目に触れる可能性もあるということで、その方の性格によってはそれを読んでショックを受けられるかもしれないですよね。
    あるいは、自分の贔屓の能楽師が悪く書かれていたら不快に思うことがあるかもしれませんw(私も、好きな笛方がボロクソに書かれていて悲しくなったことがあります)。
    だから、正直に批判を書くにしても、それを出来るだけ丸い言葉でフォローを入れつつ書くのが一番、みんな幸せなのかもしれませんね。
    無難に収めるかどうかも好みの問題なのでしょうが。
    これからも楽しみにしていますので頑張って下さいね!

  6. ★kaki3さん
    私も「○○だから仕方ない」という能の観方は好きじゃないですね。
    お金と時間を費やして見に行っているわけですから、
    当然良い舞台を楽しみにしてるわけです。
    能や狂言の場合、あまりに大きな会場での催しには
    向いていないというのは持論でもあるので、
    私の場合、さすがに最高は期待しないですが(^^;)
    その分は割り引いて、その中でどう演じられるのか、
    というのが、ホールでの能や狂言に対する私の期待です。
    今まで最高の狂言『月見座頭』を観たのは、
    ホールでの狂言会でした。
    ともかくも、私の書き方は悪かったんですけれどね。
    ★PAWさん
    とても今回のことを正確に捉えて下さって、嬉しいです。
    自分でも、今回は少し辛口というか、
    普段と違うように書いてしまったな、という思いがあったのです。
    そして騒ぎになったときには、「やっぱり」という思いが
    あったのです。それが次の強い反省につながったわけです。
    だから、どこか分かっていながら防げなかった。
    そんなことは、もうやりたくないな、と。
    どんな舞台でも「良かった」と書くつもりはありません。
    それは"信者"だと思っているので。
    でも、その一方で、イライラをそのまま吐き出すような文章や
    愚痴っぽい文章をここに載せるつもりもありません。
    あまり私自身がそういう文章を読むのが好きじゃないので、
    自分でも書きたくないなぁというだけなんですが。
    ともかくも、「ゆげひさんの日記、私は好きです」と
    書いていただけて。そのことが何よりも嬉しかったです。
    これからも、書き続けていきたいな、と思います(^^)