心味の会

今年二度目の観能。今度は2月10日(土)「心味の会」の公演です。「心味の会」は、浦田保浩師・浦田保親師(シテ方観世流)、谷口有辞師(大鼓方石井流)、茂山正邦師(狂言方大蔵流)、曽和尚靖師(小鼓方幸流)による能楽師グループ。

能楽はシテ一人主義だといわれることもありますが、結局のところ、バランスの取れた演者同士の力のせめぎ合いこそが何よりの魅力だと思うので、こういったシテ方・狂言方・囃子方とそろったグループが存在しているのは、良いなぁと思うのです。

…と内心応援しているつもりなんですが、なかなか公演日と予定が合わず、参るのは今回がようやくの二度目。ごめんなさい。今回の演目は狂言『鈍太郎』と能『松風』。前回行った時が狂言『釣狐』と能『小鍛冶』だったのに比べると、少々難しめの曲です。

メンバー浦田保親師のブログによると

「今まで心味の会というと、登場人物の多い、場面展開の派手な曲を選んで公演してたのですが、今年は、ちょっと大人になった心味の会を見てもらおうと、この曲を選びました。」(2月9日)
「12年前、若手能楽師グループとして結成した心味の会。今では、メンバー全員子持ちのオッサンになってしまいました。。。もうどこをどう見ても、若手とは言えません。そこで、、、『ちょっと大人の心味の会』をテーマに挑んだ今回の公演。」(2月11日)

という公演なのだそうです。『鈍太郎』『松風』ともに、一人の男性に対して二人の女性が登場する曲という共通点もありますね。

ところで、心味の会は公式サイトで「インターネット限定ペア割」というサービスをしてます。今回も使わせていただきました。ちょっとお得な気分(笑)


まず狂言『鈍太郎』。

最初に囃子方が登場します。「帰る嬉しき古里に。急いで妻子に会はうよ」という次第を囃子にのせて謡う演出でした。最後の「これは誰が手車。鈍太郎殿の手車」の謡まで囃すのかなと思いきや、次第を囃すと囃子方は退場。少し残念(笑)

中世に源流のある芸能を今の感覚で見てはいけないのかもしれませんが、この『鈍太郎』という狂言。どうしても二人の女に一人の男という設定で、めでたく終わる?のが、引っ掛かりを覚えます。しかし、最後の囃し物は理屈を越えて楽しいですね。

京都に帰ってきて最初に下京の妻のほうを「本妻だから」という理由で先に訪ねる割に、後半は下京の妻の扱いが酷いです(笑) 下京の妻のほうが、概して激しい性格(こっそり「鈍太郎めの手車」と謡ったりする)として演じられますが、それにしても鈍太郎は上京の愛人にはやたらに優しく振舞うのに、下京の妻には強くあたります。そこが笑いを誘うのですが…ちょっと大げさすぎて、かえって素直に感じられませんでした。

最後に謡いながら舞うところはちょっと茂山正邦師、しんどそうだったのな、というのが正直な感想。またがっちりした体格なので、持ち上げる女性役の二人も大変そうでした…。


能『松風』。

江戸時代の諺集以来「熊野・松風に米の飯」と言い伝えられた名曲です(『熊野』の方は不思議と未見ですが)。学生のとき、他大学能楽部の友人に、仕舞の地謡を頼まれて稽古したことがある曲ですが、むしろ舞台が終わって以降に、時々思い出しては「美しい謡だな~」と感じています。

後半、舞台の上におかれた松の作り物に対して、シテ松風が「あら嬉しや。あれに行平のお立ちあるが。松風と召され候ぞや。いで参ろう」と立ち寄る場面があります。それに対してツレ村雨が「浅ましやその御心ゆえにこそ。執心の罪にも沈み給へ。娑婆にての妄執をなほ忘れ給はぬぞや。あれは松にてこそ候へ」と止めようとします。

死してなお、恋人を待ち続ける心は執心の罪となって、成仏できずに須磨の地をさ迷う松風の魂。止める村雨を突き放し、「立ち別れ。因幡の松の峰に生ふる。松とし聞かば今帰り来ん」という行平の残した和歌を、どこか絶叫のような最初の五文字と、後の句の間に入る狂乱の舞。これです、これ。こういうのが見たかったんです。

私は能を見るときに、いろいろ考えてしまいますが、狂乱の舞のあたりからは、もうただただ没頭。魅せられていたのでしょうね。シテの演技もさることながら、地謡・囃子が良いんです。前回の若手能が今ひとつ消化不良だっただけに、本当に良い能が見れました。時々こんな舞台が見れるから、私は能を見に行くんだなと思いました。

もちろん、前回観能した若手能で沈没してしまい懲りたので、前日は仕事帰りから帰るとすぐに寝たりと、体調を整えて行く工夫もしたんですけれどね。

演技には直接は関係ないですが、舞のイロエがかりのときに、外にパラパラと雨が降る音が聞こえました。「村雨だけに?」 外の雨の音が聞こえるのは、会場が小さな大江能楽堂だったからでしょうけど(笑) 自然が作った偶然の効果ですが、場の盛り上げに一役買ってました。いいですね、こんな偶然。

心味の会 第12回特別企画公演
◆2月10日(土)13時半~ 於・大江能楽堂(京都市中京区)
★解説「本日のみどころ」山崎福之(京都府立大学教授)
★大蔵流狂言『鈍太郎』
 シテ(鈍太郎)=茂山正邦
 アド(下京の妻)=松本薫
 アド(上京の愛人)=茂山茂
★観世流能『松風』
 シテ(海女松風)=浦田保浩
 ツレ(海女村雨)=浦田保親
 ワキ(旅の僧)=宝生欣哉
 アイ(須磨の浦人)=茂山正邦
 笛:森田保美 小鼓:曽和尚靖 大鼓:谷口有辞
 地頭:片山清司

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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