文楽《夏祭浪花鑑》《連獅子》

文楽《夏祭浪花鑑》

文楽を見てきました

すでに12日も前の話ですが、7日に文楽の第二部「名作劇場」を見に行きました。

演目は《夏祭浪花鑑》と《連獅子》。《連獅子》は、能《石橋》の小書「連獅子」(宝生・金春・喜多など)に由来する演目ですし、《夏祭浪花鑑》は上方落語を聴くようになってからは、江戸時代の大坂を舞台にする芝居はそれだけで嬉しくなってしまうのです。

熱い”漢”たちの物語ー《夏祭浪花鑑》

まず《夏祭浪花鑑》。簡単にいえば団七九郎兵衛という男が、恩人である玉島兵太夫の息子の磯之丞とその恋人の琴浦を悪人から、一寸徳兵衛と釣舟三婦たちと力を合わせて守り通すという話。文楽や歌舞伎の演目は、細かいあらすじまで書くとややこしいので、こちらのサイトを参考に。歌舞伎のものですが、あらすじは同じです。

ともかくも熱い”漢”たちの話だったなぁ、という印象。行動がカッコ良い、生き様がカッコ良いという意味の”漢”。主人公の団七や一寸徳兵衛。中でも特に釣舟三婦。年はとっても、強くて頼りになって、苦労を重ねてきた感じもして、茶目っ気もあります。良いですね、こんなお爺さん。まさに「老侠客」という感じ。

“漢”と書いたのは性別としての男や女ではありません。団七の妻であるお梶も、争う団七と一寸徳兵衛の間に割って入る強さを持っていますし、一寸徳兵衛の妻・お辰は、ほとんど「釣舟三婦内の段」の主役といっても良いほどです。見目良し、その上心意気も良い女性。磯之丞を預けるにはお辰が若くて美しいと三婦に言われ、その顔を自ら焼いて、意地と信念を貫き通します。《夫婦善哉》の蝶子にも同じように感じたんですが、自らの意地を通す女の人の役って私好きかも。

ただ、クライマックスの舅殺し。見せ場なのは分かりますけれど、それに拍手が起きる感覚って私には分からない。いくら芝居でも、人形が演じていても、人殺しの場面ですもの。しかも舅親。そこに団七の内面の葛藤を感じて、息を呑んで見るというのなら分かりますけれど…拍手すると人殺しを喜んで見ているようで、なんか嫌でした。

でも、背景となっている高津神社の夏祭の様子。コンチキと鳴る祭囃子。賑やかで勢いがあって興奮していて、どこか団七が舅の義平次を手にかけてしまう狂気も誘ってる気がして。とても良い効果でした。

それにしても守られている存在である磯之丞。団七や一寸徳兵衛・釣舟三婦というカッコ良い男たちが周りにいるせいか、磯之丞のカッコ悪さも際立っている感じを受けてしまいます(^_^;) 特に「内本町道具屋の段」の最初。道具屋の娘・お中が出てくると名もお中とて、新入りの手代清七と深い仲と語られますが、続いて

「コレ清七、いつも言ふ通り、死なしやつた母様の言置きなれば、この中が気に入つた男でなけりやわしや持たぬ、殊にそなたの氏素性なら器量なら、難癖のないも道理、玉島磯之丞様、磯之丞様ぢや」
と、言はれて吃驚清七、言う口押へ
「アヽ訳もない、そんな事は言はぬもの」
と人目を忍ぶひそひそ話

という部分があって、清七は実は磯之丞が名を変えて匿われている姿だと分かります。オイオイ磯之丞。琴浦は?(^^;) お中と深い仲になったが為に騒ぎが起きて、人を殺めてしまい、次のゴタゴタが起き最後は団七の舅殺しまで繋がって行くわけで、磯之丞こそ諸悪の根源じゃないかと感じてしまいました(^_^;)

先に書いたお辰が自分の顔を傷つける部分にしても、お辰は大丈夫でしょうが、磯之丞の方が問題と釣船三婦の心配ももっともな気がしますね。

ところで、どーでも良い話。隣に座ってたおばちゃんがたが、舅殺しの場面を見終わった後「人って、なかなか死なないもんやねんね。ドラマとかではすぐ死ぬけど…」と感心したかのように喋ってました。あの~おばちゃん、ドラマは確かにフィクションやけど、文楽もお芝居でっせ(^_^;) 分かってはる?ましてや、かなり様式的でしたし。

文楽人形の舞踊《連獅子》

《連獅子》は…能《石橋》をイメージしていたら、だいぶ違った雰囲気でした。どうも乱序から始まるあの気迫の世界を思い描いていただけに、正直拍子抜けした部分も。といいますか、歌舞伎でもですが私、舞踊って苦手みたいです…。能の仕舞や狂言小舞は自分も習ってましたし、もう慣れ切ってるのでまた別なのかも。

でも、親獅子が子獅子を千尋の谷に突き落とす場面は凄かったです。無言ながらハッと気迫が入ったかと思うと、人形が三人の人形遣いごと飛び降りるんです! そして最後は歌舞伎でお馴染み、三人でカシラを振り回す場面で、とても華やかでした。

文楽夏休み特別公演 第ニ部「名作劇場」

◆2006年8月7日(月)14時半~ 於・国立文楽劇場
★文楽《夏祭浪花鑑》
住吉鳥居前の段 口 豊竹つばさ大夫・鶴澤清丈/奥 豊竹松香大夫・鶴澤清友
内本町道具屋の段 口 竹本南都大夫・竹澤団吾/奥 豊竹咲大夫・鶴澤燕三
釣船三婦内の段 口 豊竹新大夫・鶴澤清志郎/切 竹本住大夫・野澤錦糸/アト 豊竹始大夫・豊澤龍聿
長町裏の段 団七:竹本綱大夫 義平次:豊竹英大夫 鶴澤清二郎

人形 釣船三婦=吉田文吾 倅市松=吉田簑次 団七女房お梶=桐竹紋豊 こっぱの権=吉田簑一郎 なまの八=吉田一輔 玉島磯之丞=吉田清之助 団七九郎兵衛=吉田玉女 役人=吉田簑紫郎 傾城琴浦=吉田勘弥 大島佐賀右衛門=吉田玉佳 一寸徳兵衛=吉田玉輝 娘お中=吉田玉英 三河屋義平次=吉田玉也 番頭伝八=吉田文司 仲買弥市=吉田清五郎 道具屋孫右衛門=桐竹亀次 三婦女房おつぎ=吉田和生 徳兵衛女房お辰=吉田簑助
★文楽《連獅子》
 雄獅子:竹本三輪大夫 雌獅子:豊竹咲甫大夫
 子獅子:豊竹呂茂大夫 竹本貴大夫・竹本文字栄大夫・豊竹靖大夫
 竹澤団七・野澤喜一朗・鶴澤清馗・豊澤龍爾・鶴澤清公
 雄獅子=吉田清之助
 雌獅子=吉田簑二郎
 子獅子=吉田幸助

次の文楽公演は11月。第一部が『心中天網島』。近松門左衛門に興味のある私にはちょっと気になるところ。でも第二部の『紅葉狩』も能楽ファンとしては外せない…って第二部のメインは『伊賀越道中双六』なんですけどね(笑)

 近松門左衛門作といえば、9月29日に尼崎文楽公演で演じられる『曽根崎心中』。でも、チケットぴあではもう予定枚数終了してますね、残念。1週間先の休みが分からない時もあるのに、来月の休みなんて分かるもんか!

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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4件のフィードバック

  1. かえで より:

    11月公演の「伊賀越道中双六」は沼津の後のお話なので
    私もまだ観た事ないんですよねぇ。
    もう一度「沼津」玉男さんで拝見したかった~~!
    尼崎文楽はチケット発売がめちゃ早いのです。
    6月だったと思いますよ。
    5ヶ月前発売ってのもありますし、私は予定が分からなくても
    チケットだけ先に購入しちゃいます(笑)
    だから後悔することありますけどね!

  2. 『伊賀越道中双六』は内容も全く知らないので
    (私の文楽知識はそんなものですし、伝統芸能の場合
     あらすじを知っても仕方ないと思っている部分もあります)
    沼津の後と言われても(大汗)
    題からして、伊賀越の様子を芝居に仕立てたものなんでしょうが…。
    前に能で、休むつもりでチケットを買って無駄にしたために
    もう、チケットだけ先に買うというのは懲りました。
    ただでさえボンビー(死語)なので…。
    『曽根崎心中』はまたの機会を楽しみにしときます。

  3. peacemam より:

    「ボンビー」って言葉、すっごくひさしぶり!死語録にもなさそう(爆)。チケットが無駄になるのってイヤですよね、這ってでも行きたくなります。でも一度無理を押して国立の狂言の会に行ったらぐらぐらめまいがしてきて途中で帰る羽目になりました。
    私は三婦の女房のおつぎがとても気に入りました。荒くれ者の夫に仕えて家をきっちり守っていますが、出るべきときには迷わず出る、肝の据わったいい女だと思います。

  4. お返事大変遅くなりました。
    「ボンビー」という言葉、…ゲームの『桃太郎電鉄』の影響でしょうか。
    キャラクターとして、ボンビー(貧乏神)がいますからねぇ。
    あまりやったことはないのですが。
    チケットが無駄になるのってイヤですよね。
    体調の為に無駄にしたのが2回ぐらい。
    仕事がどうしても休めず、結局お譲りしたのが1回です。
    おつぎ、お辰のように派手な見せ場はありあませんけれど、
    背景として、とってもきっちり描かれている登場人物でしたよね。