初歌舞伎

 初めて生で歌舞伎を見て来ました。大阪松竹座にての「浪花花形歌舞伎」。去年から始まったらしい催しで、上方(関西)歌舞伎の若手たちによる舞台でした。今年は『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』という歌舞伎の三大狂言(歌舞伎の演目のことを「狂言」と言います)の名場面を上方の演出で。

 私が行ったのは第二部『義経千本桜』の回でした。

★「歌舞伎への案内」片岡愛之助

 最初の「歌舞伎への案内」は、舞台と小道具の簡単な説明。登場した小道具はウグイスとニワトリの鳴き声を出す笛と雨の音を出すうちわ、そして波の音を出すものetc. 基本的には黒御簾からのお囃子(太鼓など)で表現するそうですが、より具体的な音が欲しい時に、こういった小道具を使うそうな。

 ちなみに、観客席の何人かを舞台に上げて体感してもらう、という趣向になっていたのですが、1人の方が靴を脱いだ下が裸足だったので断られていました。ホントは足袋でなければダメとのこと。能舞台と同じですね。ところでその体感。連れて行った妹が「いいな~」としきりにやりたがってました。でも、私たちがいたのは安い3階席(笑) 「1階席なら舞台に上がれたかもしれないのに」 なら、自分で買いなさい(笑)

 片岡愛之助さん、溌剌としかもユーモアを混ぜた解説で、初めての歌舞伎案内として非常に分かりやすかったです(^^)

★『義経千本桜』道行初音旅
  佐藤忠信、実は源九郎狐:中村扇雀
  静御前:中村雁治郎

 『義経千本桜』のストーリーや展開に関してはこちらを参照。桜満開の吉野山を背景に、静御前とその護衛についている佐藤忠信(実は狐が化けている)による舞踊でした。忠信が時々、狐を暗示させる不思議な動きをしたりいう部分が印象に残っているものの、ずーっと眠気と格闘してた、というのが正直なところ。

 映像でも歌舞伎舞踊を見るのは苦手でしたけど、生でもやっぱり。こういう象徴的な演技に関しては、歌舞伎のしなやかな踊りは私の好みではないらしい(汗) 能や狂言の、体の芯に力を込める舞のほうに慣れているから?

★『義経千本桜』川連法眼館
  佐藤忠信および源九郎狐:中村扇雀
  源義経:片岡進之助
  亀井六郎:中村亀鶴
  駿河次郎:片岡愛之助
  静御前:中村翫雀

 なんというか…前半の本物の佐藤忠信を演じているときは、中村扇雀さんの実に堂々とした演技力が見えましたけど、狐忠信として階段の裏から現れて以降、御殿の床の下に消えて舞台裏から衣装を変えて現れたり、欄干を歩いたり、舞台の端にある垣を飛び越えて出たりと、その演技の印象を吹っ飛ばすぐらい肉体を非常に駆使したパワフルな舞台だったなぁ、という感想です。

 浄瑠璃(?)の語りが聞き取れないのではないか、という恐れは全く杞憂に終わり、本当によく分かりました。基本的に状況説明や心情描写などの担当ですが、その力強さには感服。

 真っ赤な顔に緑の衣装でドタドタ走る亀井六郎に、あまりに激しく踊る狐、首の後ろが扇状になっていてなんだかバカ殿っぽい義経(片岡進之助さん、すみません)。今回見た演目のせいかもしれませんが、俗っぽくてどこか胡散臭くて、そして派手に活力を発散させるような舞台というのが、歌舞伎の面白さなんでしょうね(^^)

 何の心配もなく楽しめ、少々目が痛くなるぐらい、舞台を思い切り見つめて堪能してました。客席からの「成駒屋!」「松嶋屋!」(というよりは、「なりゃ!」「まりゃ!」としか聞こえない)という屋号の掛け声もうまく決まっていると、気持ち良いものですね。役者がセリフを喋ろうとした瞬間に重なったりして、不発っぽいのも結構ありましたが(笑)

 とにかく、良かったです(^^)

 ただ、いくつかチラシを取って来ましたが、歌舞伎の公演って高い! 例えば6月の「坂東玉三郎 特別舞踊公演」は、あの坂東玉三郎さんですし演目も能に関連の強いものですから、興味があるのですが、一番安い席で5,000円! 7月の「十八代目中村勘三郎襲名披露 七月大歌舞伎」は一番安い席でも6,300円!

 能や狂言でも5,000円あたりが最高限度な私に、歌舞伎でそれ以上使うのは…ちょっとしり込みしてしまうなぁ~。

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初・歌舞伎(一服処『雑記屋』)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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14件のフィードバック

  1. みゆみゆ より:

    初歌舞伎行ってこられましたか!!(^^)
    楽しんでこられたようで、何よりです!
    なかなか贅沢な4月松竹座ですよね。
    愛之助さんは、現在NHK古典芸能鑑賞入門の歌舞伎編に毎回出演されていますよ。
    第一部の『寺子屋』を見た愛之助ファンの友人が、絶賛していました!!
    松嶋屋贔屓な私は、結構彼に期待しています(^^)
    あと、歌舞伎チケットもばかにならないですよね。(どんなものでもそうですが・・・・。)
    歌舞伎座だと幕見というシステムで、お手頃価格で見られるのですが、(確か松竹座にもあるのでは?)
    南座顔見世とかも高いですよね・・・。あれはちょっと特殊ですが・・・。

  2. 行ってきました~。
    みゆみゆさんにいろいろ教えていただいて、の初歌舞伎です。
    とにかく「面白かった」「また見たい」、この二言に尽きます。
    ありがとうございました(^^)
    NHK古典芸能鑑賞入門は、愛之助鑑賞入門ではないか、と
    blogに書かれてましたね。次は23日ですか。ぜひ見てみようと思います。
    そういや、能を見始めたころ、「チケットが歌舞伎よりは安い」と
    よく言われたことを思い出しました。幕見席があればいいのですけどね。
    調べてみます~。

  3. 波華 より:

    ゆげひさん、お帰りなさい!
    初歌舞伎を楽しんでこられたようですね。何よりです!
    私が初めて歌舞伎を観たときのことを思い出しました。やっぱり能狂言のくっきりした、真っ直ぐ芯の通った動きと比べると、歌舞伎の柔らかな動きって違和感を感じますよね。
    私はその柔らかな美しい動きに魅了されたクチですが。
    女形の演技にもなかなか馴染めなかった初めの頃に比べると、今はだいぶ捉え方が違います。これを慣れというのはイマイチ好きではありませんけど、昔の人々が阿国歌舞伎を初めて見たときの衝撃とその後の心酔ぶりと通じるものがあるのかなぁなんて思います。
    歌舞伎チケを高いと思ったことってあんまりないですねぇ。最初に見たのが歌舞伎座の幕見で1500円だったからでしょうか(^^;
    というか、大阪松竹や南座のチケットってそんなに高いんですか?その値段が最低だったら確かに高いかも…
    歌舞伎座その他の場合は値段の幅が大きいんですよね、きっと。例えば16000円から2500円までとか。私はいつも安い席でしか観ないので、むしろ狂言会より安い!と喜んでいましたよ~。
    ま、襲名披露興行は特別ですから(笑)

  4. こんにちは、波華さん。コメントありがとうございます。
    初歌舞伎、とっても楽しめました(^^)
    私としては良い舞台に巡り合えたように思います。
    舞踏の「道行初音旅」はちょっと辛かったですが…
    これは、また楽しめる舞踏に出会いたいものです。
    能や狂言で、腰に力の入って全くブレない仕舞や小舞を見ると、
    感動してしまう人間なので、異質の歌舞伎舞踏に慣れるまで
    ちょっと時間がかかるかもしれませんが。
    女形の演技はキレイでしたね。私には、しぐさなどが女性にしか思えなくて。
    途中でパンフレットを見直しては女性が混じってないか確かめてしまいました(笑)
    昔の阿国歌舞伎は、一体どんなものだったのでしょうね?
    歌舞伎座のチケットも見てみましたが、最高の席はともかく、
    最低の値段が安いですね。幕見もありますし。
    襲名披露興行が多いこの時期、豪華で良いんだか、悪いんだか(苦笑)
    普段、能や狂言は2000円台のチケットで見てますから。
    学生料金だから、というのもありますが…。
    今まで5000円以上のチケットを買ったのは『道成寺』とか
    『花子』とかで奮発した時だけなんです~。
    面白かったのは確かなんですけど、5000円以上使ってしまうほどは
    まだ入れ込みきれてないので…うう~。

  5. yukari57 より:

    柏木ゆげひさん、こんばんは。初歌舞伎楽しまれたようで何よりです。私も行きたかったのですが。。。歌舞伎のお値段ですけど、私は2000人以上入る歌舞伎座と比して小さい松竹座のお値段はリーズナブルだと思います。南座は別格ですね。ただ、いつも見る限り、それだけの役者(特に上方)の意気込みは違いますね。今もなつかしい、松竹座新築オープン時の鴈治郎丈の意気込み、あの年は通年で大当たりでした。その意味で、今年末からの藤十郎襲名は楽しみにしています。どうしても歌舞伎となるとリキがはいってしまってすみません。それにしても浪速歌舞伎ご欄になって羨ましい。

  6. [伝統芸能]松竹座4月のレポ待ってます!

     未来日記になってしまいますが、4月20日のこの欄宛に、是非とも皆様、大阪松竹座の4月公演のレポ、お待ちしております。トラバでも、コメントでも何でもいいです。本当に私も行きたくって仕方がないですが、処々の事情で今回は諦めております。3月12日に私が参りまし

  7. yukari57さん、コメントありがとうございます。
    初歌舞伎、楽しんで来ました。
    歌舞伎に関しては、客席の数と比べるとそうなのかもしれませんが、
    それは歌舞伎にハマりきった人の意見ですよね~。
    私だって、能や狂言で「○○で□□円、安いっ!」と思う場合も
    ありますから、なんとなくは分かるのですけれど…。
    やはり「ちょっと試しに観てみたい」と思ってる人向けに
    状況に関わらず、関西にも、チケット自体の値段がもう少し
    安価な歌舞伎公演が多いと嬉しいと思うのです。
    その意味で3階席2000円の「浪花花形歌舞伎」はこれからも
    続いて欲しいですね。

  8. yukari57 より:

    ゆげひさん、早速トラバ有難うございます。それで思い出しました、東京は国立の1000円台の歌舞伎がありますね。あれはやめられないお値段です。3階席といいながら、実質2階の上の方で、定価1500円、あぜくら割引で今なら1350円。このレベルの興行は是非とも欲しいところですよね。2000円の浪速歌舞伎と聞くと、深夜バスを使ってでも見にいけてばいきたかったです、文楽もやっているようですから。

  9. 1000円台の歌舞伎!それはすごいです。

  10. 05/05/07 NHK05年度『日本の伝統芸能』能・狂言入門始まる

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    「歌舞伎入門」に続いて「能・狂言入門」が今日から始まった。ビデオ録画をしかけて、通院。毎週土曜日が通院日なので毎週録画する予定。
    今日の午後の通院の合間にテキストの4回放送分全部を読んだ。今年の講座は従来のように能と狂言を

  11. ぴかちゅう より:

    yukari57さんのブログからこちらを知って、以前からたま~にのぞきにきておりました。ぴかちゅうと申します。
    私は元々中学の終わり頃に宝塚を観て高校時代3年間は宝塚と東宝ミュージカルにはまり、歌舞伎は高校時代の友人に歌舞伎鑑賞教室に連れて行かれて以来ご無沙汰。2~3年前から歌舞伎を真面目に観るようになり、昨年末からこのブログを始めました。歌舞伎に今一番燃えてるのですよ。そこで知り合ったyukariさんに刺激を受けて能・狂言にも興味を持ち始めたところだったのでした。
    能は高校時代の古典の授業の隅田川くらいですもんね。あと能楽部の発表を文化祭で見たくらいかな。今回のNHKの愛之助の歌舞伎入門に続いて能・狂言入門を見ようかというところです。
    ゆげひさんが初歌舞伎とのことでコメントとTBさせていただきました。私は実は舞踊(舞踏ではなく舞踊ですよ~)は苦手なんです。元々宝塚でもショーの方は苦手で、今は芝居系のグランドロマンにほとんど絞って観ています。イヤホンガイドを聞きながら観ると居眠りしないですみます。能にはイヤホンガイドってないのでしょうか(yukariさんにまだ聞いたことがないので)。
    3~5月の勘三郎襲名披露公演も昼夜全部観ました。こんなに集中して観るのは初めてでした。襲名披露公演はいつもよりチケット代が高いのが辛かったですが、やはり普段ではありえない顔ぶれが揃うのでその分かなと納得した次第です。私のブログものぞいてみてください。それでは今後もよろしくお願いします。

  12. ぴかちゅうさん、はじめまして。
    コメントありがとうございます。
    ほかの演劇→歌舞伎→能・狂言と興味を持たれてきたのですか。私と逆ですね。私は能・狂言から始まって、歌舞伎に今興味を持ち始めているところですから。
    「舞踊」と舞踏との間違いはありがとうございます。坂東玉三郎さんの南座公演の名前で気付いて、直したつもりだったのが、残っていましたね(苦笑)
    イヤホンガイドに関しては、能では聞いたことがありません。初歌舞伎の時も「初心者は是非」といわれましたが、なくても十分に楽しめましたけれどね~。
    では、またいらしてください(^^)

  13. yukari57 より:

    飛び入りで失礼します。先日、朝日カルチャーで住太夫の芸談があった際、司会者の国立劇場担当者が、今度(国立?)能楽堂で、まるでニューヨークのメトロポリタン歌劇場のごとく、イスの背もたれ後ろ部分に小さい液晶で能の謡の詞を見せるようにするとおっしゃっていました。いつかはわかりませんが、イヤホン導入の話も関東ではありますね。液晶はその様子をみて、国立劇場小劇場の文楽いも順番に導入する予定があるらしいです。私は謡の文句が聞き取れないので、いいアイデアだとは思いますが、やはり目の前の演者を見たいですよね。

  14. 能の場合、謡本を持ってそればかり見ている人がいますよね。謡本は稽古本ですから、習っている人だと思うのですが、聞き取れないからでもあるとは思います。私は演者を見ろよ、と思うのですけれどね。謡を聞くならCDか、謡だけの上演略式「素謡」を聞けばいいのですから。
    イヤホンガイドは調べてみたら、一昨年新しく移築された金剛能楽堂(京都)にあるそうです。(http://www.kongou-net.com/syoukai.html)もっとも金剛能楽堂に行った時にも存在すること自体に全く気付きませんでしたけれど。