「浪華風俗を描く-菅楯彦の世界-」展

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今は失われた古き浪速風俗

そろそろ今月も半分が終わろうとしていますが、先月の話です。先月最後の休みだった10月27日(土)は、中学以来の友人である「218」くんと一日中遊んでいました。218くんは、私が彼の家に上がり込んでは、たびたびお酒を一緒に飲む相手ですが、昼間に一緒に行動するのは久しぶり。

朝、大阪梅田で待ち合わせて、向かうは芦屋市立美術博物館。「浪華風俗を描く-菅楯彦の世界-」という展覧会が催されているのを、大学で美術部に入っていた218くんの希望で見に行ったのでした。

菅楯彦(1878-1963)という画家は、私は全く知らなかった方なんですが、鳥取県で生まれたものの、幼少の頃に大阪に移り住んでからは生涯大阪で暮らし、自ら「浪速御民」と名乗り、何よりも大阪を愛した方だそうです。穏やかな中にユーモアの感じられる画風に、今は失われた古き浪速風俗を描いていることから、とっても興味を持って見ることができました。

「コテコテ」といった言葉で表される、ベタ臭い雰囲気が強くなっている現在の大阪浪華の文化ですが、楯彦の作品を見ていると本来はもっと上品な部分も多かったのだろうなぁ、と感じます。楯彦の作品か、名人の語る落語の中ぐらいにしか残ってませんが…。

美術音痴なりの感想

展示されていた中では「楯彦日記」という絵入りの日記がとっても面白かったです。作品名は忘れましたが、天満橋や天神橋周辺での舟遊びの様を描いた絵は落語の《舟弁慶》を連想。

あと、展示の解説文では高い評価はなされていませんでしたが、「宗助国自刃之図」という絵が、楯彦の作品には珍しく鬼気迫る強い表現で、こういった作品も描けるのに、敢えて穏やかな作品を書き続けたのが、また素敵だと思いました。ちなみに「宗助国」は、元寇の際、元の大軍を前にわずか80騎を率いて奮闘した対馬国の武将です。

浪華の名妓を妻に

楯彦の妻・美記子との交流も併せて紹介されていました。彼女は、元は浪華の名妓として一世を風靡した「富田屋八千代」でした。芸妓の芸の一環として、楯彦に日本画を師事したのが出会いだったといいますが…。

『八千代プロマイド帖』が展示されていましたが、とっても美人!(一世を風靡した人だから当然といえば当然) 芸妓といえば着物姿のイメージでしたが、洋装の写真の方が多かったような。

美記子が着たという山村流の舞装束(当然、柄は楯彦が描いたもの)や「菅美紀子歌集抄」などの展示もありましたから、当時の芸妓さんって上方舞・和歌・日本画…と本当に一流の教養がなければ勤まらなかったんだなあ~と感心。

楯彦の絵だけでもとても価値がありますが、古い大阪の芸妓の世界も垣間見ることができて、一粒で二度美味しいような展覧会でした。連れて行ってくれた「218」くんに感謝。

狂言に関連する絵も

なお能楽ファンとして嬉しかった展示が二つ。一つ目が楯彦が表紙絵を描いた谷崎潤一郎の随筆『月と狂言師』が展示されていたこと。谷崎潤一郎と菅楯彦は仲が良かったのか、ほかにも谷崎の漢詩に楯彦が絵をつけたものなども展示されていました。『月と狂言師』には先々代と先代の茂山千作のことが書かれているそうです。そのうち読んでみたいですね。

二つ目が美記子が楯彦に師事して描いたという「白蔵主」の絵。狂言『釣狐』に登場する狐が化けた僧侶の姿。あの、杖をついて腰を屈めて歩く独特の姿の上に、白く月が描かれているのが印象的でした。

「浪華風俗を描く-菅楯彦の世界-」

2007年10月6日(土)~11月18日(日) 於・芦屋市立美術博物館(兵庫県芦屋市)
開館時間:10時~17時(入館は16時半まで)
休館日:毎週月曜日休館(祝日の場合は翌火曜日)
観覧料:一般:500円、大高生300円、中学生以下無料

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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5件のフィードバック

  1. 花兎 より:

    龍村平蔵とお友達だったって、この人だったかしら?
    「中央公論」に連載中の、宮尾登美子さんの小説「錦」にも、菅楯彦をモデルにしたと思われる人物が登場します。
    (といっても、図書館で閲覧していて、手元に本がないので違うかもしれませんが)

  2. 「龍村平蔵」というお名前も、花兎さんの書き込みで初めて知ったのですが、
    (改めて自分の無知ぶりがよく分かります)
    古代の織物などの研究・復元をされた染織家の方なんですね。
    記事の一番下に追加したリンク先によると、深い交流があったみたいですね。
    もっといろんな本を読まなければ~。
    最近、マンガか能の専門書しか読まないという偏り過ぎている
    自分の読書が、ちょっと嫌です(^^;)
    ところで、思いついてNHKで去年の5月に放送された『知るを楽しむ』
    「明治美人帖」のテキストをパラパラとめくっていたら、
    やはりありました。「富田屋八千代」の写真。
    「女学生ブーム」の中で、芸妓が女学生に扮した写真として
    袴をはいて、バイオリンをひく女学生のコスプレ?姿でした。
    『八千代プロマイド帖』も全体的に、今でいう
    コスプレのような感じの写真が多かったですね。

  3. なにわ風俗を描く菅 楯彦の世界

    芦屋市美術博物館で菅 楯彦の回顧展が開催されている。

    浪速御民と名乗るほどに浪速の地で天皇を敬い、天神信仰も篤い日本画家だった。
    大阪名誉市民第一号。
    四十年以前に八十余歳を以って天寿を全うしている。
    しかし。

  4. 遊行七恵 より:

    こんばんは
    TBありがとうございました。
    お能と狂言を愛されている方なんですね、
    わたしは専ら歌舞伎の方を。
    (とは言えお面や衣裳などを見たり、
    謡曲を自分で勝手に読み解いたり、
    昔の名人の伝記等を読むのが好きです)
    菅さんは四天王寺の舞楽に深い関わりを
    もたれていたので、今もそちらには資料が
    多く残っているようです。

  5. ★遊行七恵さん
    こんばんは。コメントありがとうございます。
    能・狂言が好きですが、こだわらずいろいろなものを
    見に行けたらいいなぁと思っています。
    歌舞伎には能や狂言を元にした演目も多いですよね。
    坂東玉三郎さんの舞踊公演で『隅田川』『船弁慶』は拝見しましたし、
    ビデオで板東玉三郎さんの『京鹿子娘道成寺』や
    先代中村勘三郎さんの『身替座禅』(狂言『花子』が元ネタ)は
    拝見しています。
    テレビで放映された中村勘三郎さんの襲名公演
    『一条大蔵譚』で、大蔵卿が能狂言好きだという設定で
    「太郎冠者」と呼ぶのも楽しかったです(^^)