善竹狂言会《白髭道者》

善竹狂言会

ダッシュで向かった善竹狂言会

先月21日は善竹狂言会に行ってきました。この日は開演時間と同じ14時まで用事があったので、半分諦めていたのですが、前日になって、やはり居ても立ってもいられず、気付けば電話でチケット予約していました(笑)

というわけで、当日は14時に用事が終わると、駅までダッシュして電車に飛び乗り、梅田に着けば会場の大阪能楽会館まで再びダッシュ! 汗だくになりながらの会場到着でした。約30分強の遅刻。

残念ながら初番の狂言《二人大名》は拝見できませんでしたが(私の中で狂言方若手ナンバー1の、善竹隆司師&隆平師ご兄弟出演だったのに!)、走ったかいあってか、二番目の狂言《抜殻》は最初から拝見できました。

大蔵流狂言『抜殻』

主人は太郎冠者を使いに出す。冠者は使いの前のふるまい酒を主人が忘れているので催促に戻る。十分に飲んだ冠者は改めて出かけるが、酔いのあまり道端に寝込んでしまう。心配してあとをつけてきた主人はこの態を見て懲らしめのため、冠者に鬼の面をかぶせて帰る。目を覚ました冠者は水を飲みにいき、水鏡で自分が鬼になったことを知る。あわてて家に戻ると、主人は鬼は内におけぬと言いわたされ、絶望のあまり清水に身を投げようとし、その拍子に面が脱げ、これは鬼の抜殻だと主人につげる。

あらすじもロクに確認せずに拝見したのですが(苦笑)、何が「抜殻」なのか分かった時の感覚は、まるで落語のサゲ(オチ)を聞いているかのようで、ああ成程と思わず頷きながら拝見。とても鮮やかでした。それだけにその後、無理に狂言の定形であるやるまいぞと追い込みにつながるのが蛇足に感じました。それこそ落語のように、一言で切ってしまった方がスマートかも。

太郎冠者を演じられた善竹長徳師、こんなにじっくり拝見したのは初めてです。酔っている演技に嫌味がなくて、なかなか良かったです。そして長徳師よりも光っていたのがアド主人役の善竹十郎師。相手役なので、おとなしめな演技でしたが、それが長徳師の演技を引き出しているようで、巧い人ってこうなんだなーと感じていました。

《抜殻》の後は大藏彌太郎師の小舞《海道下り》。そして休憩を挟んで素囃子《神舞》は神体が登場する際に囃される登場楽《出端》から繋げての演奏でした。脇能にふさわしい颯爽とした演奏で、気持ちが良かったです。好きな囃子方でしたし。

大蔵流狂言『白髭道者』

清水詣をする道者達が船に乗り旅を続けていると、江州白髭の明神に仕える勧進聖が船を近づけ、明神への寄付を勧めます。道者は断りますと聖は怒り、水神へ祈りをかけると湖面に鮒の精が現れ、道者の船に襲いかかります。

最後は《白髭道者》。本来は能《白髭》(観世流は《白鬚》)の替の間狂言を独立させて演じるものです。《白鬚》自体、能として演じられることは滅多にありませんが、その替ともなると稀曲中の稀曲。善竹家では昭和38年(1963)以来の上演だそうで。

「道者」という言葉を辞書で引いてみると、いくつかの意味が書かれているのですが、これは神社・仏閣、霊場などを連れ立って参詣する人。巡礼。道衆。『同者』『同社』とも書くとある、これでしょう。桂米朝さんの著書に道者(団体旅行)と行き違ってという一節がありましたが、江戸時代までの観光旅行のようなもの?という理解で良いのでしょうか。

稀曲で間狂言だから難解かもと思っていたのですが、ストーリー自体は単純。寄付を拒まれた明神の怒りの名代として、鮒が現れて暴れ回るというもの。

勧進聖が乗る船と、道者一行が乗る船とを表すために、船の作り物が出ます。これは《船弁慶》の間狂言と同様の船の作り物を持って登場して、棹でえーい、えーいと漕ぐ演技。道者一行の方は、《船渡聟》のように、船頭のこぐのに合わせて、体を揺らすのが楽しいです。

琵琶湖と船といえば、能《竹生島》や《自然居士》でも登場するのですが、《白髭道者》では2つ登場するのがポイントで、昔、水上交通が盛んだった琵琶湖の様子が感じられて、良いなぁと思います。どうも今回の善竹狂言会は、私は落語を連想することが多かったのですが、CDで聞いた落語《矢橋船》を思い出しました。

《白髭道者》の演出

演出は全体的に能がかり。勧進聖の名乗りが終わると、道者の集団が笛の「ヒッ」というヒシギから始まる「狂言次第」の囃子に乗っての登場です。そしてワキ・ワキツレのように整列・向き合って次第を謡います。続く道行も、狂言に多い喋りのものではなくて、拍子に合って囃子の手の入る謡調子のものでした。一人だけ掛素袍姿だった大藏千太郎師が、脇座前で両腕を開きながら爪先立ちになる型をしたのも、脇能のワキと同じです。

始めは長閑な様子で、勧進聖と道者一行の船頭のやりとりが為されるのですが、道者が寄付を断ったところから雲行きが怪しくなり。勧進聖が水神に祈ると「狂言早笛」の囃子で、鮒の精が走り出てきます。そして「狂言舞働」で鮒の精が示した威力に観念した道者一行は、着ていた素袍や肩衣を勧進聖に投げて渡し、めでたく終局。演出の構成としては、能の龍神物と同じでした。

鮒の精を演じられた善竹忠一郎師。どちらかというと小柄な方ですが、還暦過ぎとは思えない「飛び返り」や足拍子などのあるパワフルな舞姿で、格好良かったです。出立は賢徳の面に黒頭、厚板の上に法被を肩上にして下は半切、そして鮒の立て物。立て物と面は違いますが、能の龍神のような姿でした。

地謡でいかにも力一杯、謡ってらっしゃった十郎師も印象的でした。忠一郎師も格好良かったですが、《抜殻》の主人役も含めて、今回の狂言会で一番印象深かったのは十郎師でした。

善竹狂言会

◆2007年10月21日(日)14時~ 於・大阪能楽会館(大阪市北区)

★大蔵流狂言『二人大名』
 シテ:善竹隆司 アド:善竹隆平・善竹大二郎

★大蔵流狂言『抜殻』
 シテ:善竹長徳 アド:善竹十郎

★大蔵流小舞『海道下り』大藏彌太郎

★素囃子『神舞』
 笛:赤井啓三 小鼓:清水皓祐 大鼓:山本哲也 太鼓:中田弘美

★大蔵流狂言『白髭道者』
 シテ(鮒の精):善竹忠一郎 アド(勧進聖):善竹忠重
 アド(道者):大藏千太郎・善竹忠亮・上吉川徹・善竹徳一郎
 アド(道者の船の船頭):大藏吉次郎
 地謡:善竹十郎・善竹長徳・善竹隆平・善竹大二郎

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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