マラソン狂言会 5/5夜

茂山千五郎家だけの狂言会に行くのは初めてです。「きもので楽しむ日本の伝統」も含めていいのなら2度目ですが、お金を払って、という意味では。

感じたのは、客がよく笑うこと。もちろん、自然に笑いたいところで笑えば良いのですけれど、なんだか笑おう笑おうとしていて、展開を読んで先に笑ってる人もいるようで…ここ普通に演技してるだけやんと思う場所で、人が笑ってると違和感を感じて、私は笑えなくなるのです。まあ、舞台自体は思わず次の日のチケットを買ってしまったぐらい、面白かったのですけどね(^^)

そういえば、能舞台の角柱と脇柱が抜かれていました。中正面などでは邪魔になって観にくいこともあるからでしょうが、なんだかちょっと変な気分。

★大蔵流狂言『千鳥』

 太郎冠者は主人に酒を求めてこいと言い付けられ、酒屋に行きますが、酒代がたまっているために売ってもらえません。今回分の代金は持ってきたと言って樽を出してもらいますが、うっかりして忘れてしまいました。太郎冠者は津島祭を見物に行った話を始め、樽を使いながら、子どもが千鳥を取る様子や山鉾を引く様子を語ります。最後に流鏑馬の様子を真似している時に、酒屋が夢中になっている隙をついて樽を持って逃げるのでした。

「浜千鳥の友呼ぶ声は~」「ちりちりや~ちりちり~」の謡が楽しい狂言。終わった後、ついつい口ずさんでしまいます(笑) いつもいつも酒屋にツケにしてもらってる太郎冠者は、主人の命とは言え、本心は心苦しい。しかも、自分はいつも酒をもらえないのです。でも、主人に「今度取ってきたなら、汝に口切りをさせよう」と言われてさっさと懐柔(笑) 「さてもさても迷惑なご用事を言い付けられた」と言いながら、忠実に酒屋からなんとかして酒をもらおうと奮闘します。

千鳥の話、山鉾の話が終わった時に「うちも忙しゅうござる。行て代わりを取ってこよう」と引くあたりは、知恵者っぽい片鱗も窺えます。押してダメなら引いてみるわけで。すると酒屋は話が聞けなくなる残念さに「次が面白うなら、代わりなしにあの樽をやるまいものでもおりない」と約束してしまいます。

しかし、「馬場退け。馬場退け」「お馬が参る。お馬が参る」と2人で流鏑馬の真似ごとをして遊んでいるのを見ると、基本的にこの2人は仲良しなんだな、と思います。最初に主人が太郎冠者に対して「汝は酒屋の亭主と合口ではないか」と言っていますが、合口を辞書で引くと

あいくち【合(い)口】
(1)つばのない短刀。匕首。九寸五分。
(2)刀剣で、つばをつけず、柄口と鞘口が合うようなこしらえ。合口拵。
(3)物事をするときの、相手との調子・具合。相性。
(4)器物の蓋と身の合わせ目。
(5)石積みで、石と石との接する面の表面に近い部分。合端。
(6)互いによく話が合うこと。また、そのような間柄。

とある最後の意味ですね。面白ければ酒樽をやると約束もしているし、奪われたとはいえ、半ば合意の上。また次の日も似たようなことをやってるのではないか、と思うようなおかしみがありますよね。さすが兄弟。茂山千五郎師と七五三師の息はぴったりでした。

★大蔵流狂言『首引』

 鎮西(源為朝)ゆかりの者が播磨国印南野で鬼に襲われます。鬼はいい若者なので、娘娘の食い初めにさせようとしますが、若者が美男なので姫鬼は恥ずかしがります。若者は姫鬼と勝負をして負けたら食われようと提案し、腕押し(腕相撲)・脛押しをしますが勝ちます。次に首引きをすることになり、これも若者が優勢なので、親鬼は眷属を呼び出して姫鬼に加勢させますが、若者が突然首の縄を外して逃げるのでした。

前から一度は観たいと思っていた曲です。親鬼は、赤頭に武悪の面、白と赤の牡丹の法被、金地で緑で模様の描かれた半切、杖と能の鬼神にも負けないイカツい格好で登場。鎮西ゆかりの若者も、青と赤の亀甲模様の厚切の上に金の法被を着て、白大口。白鉢巻に太刀という、能の『土蜘蛛』に登場するワキのような格好です。

そうした装束に相応しく、最初は重々しく舞台が展開するのですが、姫鬼が登場するところから雰囲気が一転。「や。のうのう姫。おられますかおりゃるか」 甘い口調。今まで若者を威圧していたのと声の調子が全然違います。そして、黒頭に乙の面、振袖姿の姫鬼が袖をヒラヒラさせながら登場。黒頭の背の部分が、白い布でまとめられているのが、チャーミング(笑) いちいち勝負にも「とと様。付いて来て下され」「おお。ととが付いて行こう」って、鬼だとか関係なく完っ全なファザコン娘に溺愛オヤジですね。

腕押しはともかく、脛押し。負けた姫鬼が「わらわの白い柔らかなももに、毛のついた足を擦り付けた」と親鬼に泣きつくあたりは、少々エロチック。場合によっては他に「腹押し」の勝負があるそうで、そうなると、かなり危険ですよね。

首引きの場面では、親鬼は扇を使いながら「引けや引けや鬼ども。せいを出して鬼ども」と音頭を取りながら、それでも心配なのか鎮西に手を出そうとして跳ね除けられますが、飛び返ったりと能がかりな茂山正邦師の堂々とした演技が良かったです。それが「の~うのう姫」と甘ったるい口調で喋るんですから、ねぇ(^^;)

2005年5月5日(木・祝)18時開演 於:大阪能楽会館
★大蔵流狂言『千鳥』
 シテ(太郎冠者)=茂山千五郎
 アド(酒屋)=茂山七五三
 アド(主人)=木村正雄
★大蔵流狂言『首引』
 シテ(親鬼)=茂山正邦
 アド(鎮西ゆかりの者)=茂山茂
 アド(姫鬼)=茂山童司
 立衆(眷属鬼)=茂山あきら・柳本勝海・井口竜也・松本薫

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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