楽しうなるこそ。めでたけれ

善竹狂言会

 元々、狂言は善竹家びいきな私ですが、去年から春の「善竹兄弟狂言会」、そして秋の「善竹狂言会」と通うのが習慣になってます。1月か2月にある「善竹会 神戸狂言の会」にはなぜか行けてませんが、次回は善竹忠一郎師の『花子-替装束』があることですし、是非行きたいと思ってます。

 というわけで、今月20日に催された善竹狂言会に行って来ました。今回の善竹狂言会で良かったのは、なんといっても『靱猿』! 野村萬斎師のドキュメンタリー番組などで、映像を何度か見たことがあるものの、生では初めて見ました。しかし、やはり生の舞台はイイ! 映像では伝わらない何かがありますね。

善竹狂言会
◆11月20日(日)14時~ 於・大阪能楽会館

★大蔵流狂言『船渡聟』
 シテ(聟)=善竹忠亮
 アド(船頭)=善竹忠重
 アド(舅)=善竹長徳
 アド(太郎冠者)=善竹徳一郎

★大蔵流狂言『茶壷』
 シテ(すっぱ)=善竹忠一郎
 アド(中国の者)=善竹十郎
 アド(目代)=大藏吉次郎

★大蔵流狂言『靱猿-替装束』
 シテ(大名)=大藏彌太郎
 アド(太郎冠者)=善竹隆平
 アド(猿曳き)=善竹隆司
 子方(猿)=大坪慎吾
 助吟=善竹忠重・善竹長徳・善竹忠一郎・善竹忠亮

★大蔵流狂言『船渡聟』

 聟入りのために正装をし、みやげの酒樽を持った聟が途中、渡し船に乗ります。船頭はその酒樽に目をつけ、強引に無心をします。やむをえず酒を振舞う内に、聟は自分も欲しくなって、二人で飲み謡い舞っている間に酒樽を空にしていまいます。聟はそのまま舅の家に持参しますが、舅がせっかくのみやげの酒、早速いただこうと言って太郎冠者に用意をさせますが、空であることを知られてしまい、聟は面目を失って逃げてしまうのでした。

 『船渡聟』は何度か見ていますが、聟の性格に等身大の人間を感じて好きです。船頭に迫られたとはいえ、それに流されてしまう弱さ。そして酒宴となれば、先のことを考えずに飲めや謡えと騒ぎ、そして船を降りた途端に「樽が空になったのは船頭が無心をするからだ」と、自分も飲んでいたことを棚に上げて、先ほどまで楽しく話していた船頭を詰ります(笑)

 空になった樽を手にして困ったなと思いながらも「今日は開けないだろう」とそのまま舅の家に向かう聟。見ていて笑ってますけれど、自分の姿を見せ付けられてる気にもなってきますたらーっ でも、善竹忠亮師が演じる婿は嫌味がなくて良いですね。

 最後に光るのが、逃げ出す聟に対して「苦しうはござらん。太郎冠者、早う留めい」と呼びかける舅の「暖かさ」。見てるこちら側まで心が暖かくなるような安心できるセリフですよね。

★大蔵流狂言『茶壷』

 あらすじは「華の会」の時に載せましたので、そちらを参照ください。

 幕が開くと、突然「酔うたり、酔うたり。したたかに酔うた」と善竹十郎師、千鳥足で登場。十郎師の演技は、関西では善竹狂言会ぐらいでしか見れませんが、声が大きくいかにも酔ったという雰囲気でした。そして道の真ん中で寝てしまいます。…気持ちよく泥酔した時の気持ちを思い出すと、よく分かります(笑)

 また幕が開いて、今度は善竹忠一郎師が登場。「心が直ぐにもないものでござる」 真面目そうで、物静かな雰囲気が十郎師と好対照をなしていました。目代役の大藏吉次郎師とあわせて、このお三方の舞台の掛け合いがなんか良かったです。自分の鑑賞記録を確かめると、このお三方の共演は初めて見たはずなのに…なぜか前々からこの組み合わせで狂言が見たいなぁ、と思ってました。

 雰囲気から言って、普通、十郎師の「中国の者」と忠一郎師の「すっぱ」の役、逆ちゃうん?と(笑) 敢えて逆で演じているのでしょうか? 面白かったですけれどねニコニコ

★大蔵流狂言『靱猿』

 狩りに出かけた大名は、猿曳きに連れられた猿の毛並みの良いことを見て、靱の皮にしたいので、猿を貸せといいます。猿曳きが断ると、大名は弓矢で脅し無理に承知させます。猿曳きがせめて自分で猿を殺そうと杖を振り上げると、無邪気な猿はその杖を取って船を漕ぐ真似をするので、あまりの哀れさに手が下せません。大名も猿の無邪気さに心お打たれ、命を助けます。猿曳きは喜んで小歌を謡い、猿に舞わせる。大名も上機嫌で戯れて猿の真似をし、扇や刀・衣服まで褒美に与えるのでした。

 最初の緊迫した場面から、仕方なく大名の命に従って猿を殺そうとする猿曳きの悲しみの場面、そして最後の可愛らしくもめでたい場面への転換。非常によく出来た曲だと思いました。

 特に大名が弓矢を構えて猿を狙えるのに対して、咄嗟に太郎冠者と猿曳きが「まず待たせられい」と庇う場面。矢は大雁又といって、先が股の形になっていて内側に刃のある特に破壊力の大きな矢です。それの先に三人もの演者が並ぶわけで、一気に舞台中が緊張しました。それだけに後々の、緊張が緩和した場面が効いてくるんですよね。

 弓矢の場面に続く、猿曳きが猿に言い聞かせる場面。「お前は小猿のころから飼い育てて育てて、いろいろな芸能を教え込んできたというのに、こうして殺さねばならない」ととくとくと言い聞かせます。猿曳きの猿への愛情と悔しさが伝わってくるようで、本当にたまりません。前に大名に猿を貸せと命じられた時に「自分にも檀那衆(スポンサー)がたくさんいるから、卑しい猿曳きだと思って軽く見るな」というセリフがあって、それを思い出すと、ますます悲しさが伝わってきました。

 こうして人間たちが大騒ぎしている間ですが、猿はひとり無邪気に戯れています。猿を演じる子方の可愛らしさは『靱猿』最大の魅力だとは思いますが、今回の子方は無邪気さ・可愛らしさは十分なのに、変に目立たずアドとしての分が保たれ、舞台の質をより高めていたように思いました。小さい子なのに、ホントしっかりしてましたね。

 大名役だった大藏彌太郎師は前半は、アド役である善竹隆司師・隆平師ご兄弟比べて声が通らないな~と思っていたのですが、猿を許してからの後半のめでたさの演出はさすがでした。服を脱ぎ捨てて猿と戯れては、猿に飛びかかられる愛するべき大名でした。

 最後、助吟も参加して、猿曳きが猿歌を謡いますが、まさに「なほ千秋や万歳と。俵を重ねて面々に。楽しうなるこそめでたけれ」。大満足な舞台でした。

TBPeople 能・狂言

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鑑能メモ:善竹狂言会(2005/11/20)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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3件のフィードバック

  1. peacemam より:

    いい番組をご覧になりましたね。「靱猿」は泣いちゃいますよねえ。
    善竹十郎さんが「すっぱ」に向いていそう、というのは何だかよくわかります(笑)。私はよく拝見するのですが、調子のいい太郎冠者とかがすご~くいいですよ。「柑子」の太郎冠者なんか、私が主人だったら怒るに怒れないと思います。

  2. 良い狂言会でした。『靱猿』、もっと前から見ていれば…と
    悔しく思うぐらい良かったです。悲しい場面は悲しく、
    そこから一転してめでたい雰囲気になるのがたまりませんね。
    善竹十郎師のこと、peacemamさんにも伝わってなんだか嬉しいです。
    十郎師が演じる『柑子』の太郎冠者、なんだか想像するに
    調子よく俊寛僧都の話をしてくれそう(笑)
    次回の「善竹会神戸狂言の会」ではご出演がないようで、残念です。

  3. 「善竹狂言会」を見に行って来ました。【その二】

    平成17年度「善竹狂言会」
    会場:大阪能楽会館

    【狂言組】
    ◆狂言「船渡聟」(聟)善竹忠亮 (舅)善竹長徳 (太郎冠者)善竹徳一郎 (船頭)善竹忠重

    ◆狂言「茶壷」 (中国の者)善竹十郎 (すっぱ)善竹忠一郎 (目代)大藏吉次郎

    ◆狂言「靭猿」