能楽に寝不足は大敵
今日は大阪観世会普及公演に行ってきました。お金を出して能を見るのは2ヶ月ぶりぐらい…。以前ならあり得ない話です! 平日の昼間だったためか、客席はちょっと寂しい…。
番組は能《菊慈童》《玉鬘》《殺生石》と狂言《伯母ヶ酒》。しかし日々の寝不足がたたって《菊慈童》と《玉鬘》はほぼ意識が暗転しておりました…(^_^;) 会の前にブラックのコーヒーを飲んだのにほとんど効きもしませんでした。
狂言《伯母ヶ酒》
ケチな酒屋の伯母からなんとかして酒を飲もうとする甥が、面で鬼に化けて脅して飲むものの、酔って寝てしまいバレてしまうという話。初めは「自分の家でも売るので、酒の味を紹介する為に一口飲ませて下さい」と正攻法?で頼むのですが、伯母が承知せず、すると怒ったように帰ります。
その時のセリフ。もうこう参りまするもはやおりゃるかさらばさらばようおりゃった。狂言ではよくある定型の表現ですが、酒を飲めなくてちょっと苛立ってる感じが出ていて「定型」もそれぞれなんだなぁ、と演技の奥深さを感じて良かったです。
それから、鬼に化けて脅している時に、《清水》でも同じセリフがありますが、酒に関して夏ならば冷やしすまし、冬ならば燗をして『もう嫌で候』というまで飲ますかというセリフ。前々から好きな言葉ですが、日本酒も時々飲むようになった最近、よりその良さが分かってきた感じがします(笑) 冬になったら燗で飲もうっと。
それから《伯母ヶ酒》を見るたびに面白く感じるのが、能との面の使い方の違い。能の場合、面って本当に大切に扱われるんですが、《伯母ヶ酒》の場合、顔の横につけたり、膝につけたりして、まさに小道具としての扱い。狂言面が大切にされてないという意味ではないのですが、狂言ならではの表現だなと思うのです。
酔って最後の方に能《大江山》の一節を謡われましたが、酒と鬼という関連からでしょうか。ともかくも久しぶりの善竹家、やっぱり好みだなぁと再認識した舞台でした。
能『殺生石』
玉藻前伝説と那須野の殺生石の話をひとつに綴り合せて作られた話。とっても全体に力のある舞台で良かったです。能は「力があってこそ」と思いますし、それでこそ、天竺・震旦(中国)・本朝(本朝)、三国を股にかける大妖狐ですものね。曲趣の関係も合って、囃子がパワフル。地謡もツヨ吟のクセが本当に”聞かせる”謡で、語り芸としてのクセというものを改めて感じました。
装束や面も面白かったです。前シテの唐織。あれは何という模様なんでしょう。良く見る紅白段のものではなくて、円が組み合わさったような。綺麗なんですけれど、どこか禍々しさを感じさせるものでした。後シテは面が印象的。謡本の装束附にある通りの、小飛出系の面でしたが、いかにも悪鬼という感じで。それが前シテの美女の正体かと思うと、とても楽しくなりました。
金剛流と喜多流には「女体」という小書があるそうで、後シテでも玉藻前のイメージした女性の姿で演じる場合があるようで、いつか見てみたいものですが、美女の正体が、全く違う姿というのも却って面白いと思います。
ところで、シテが過去を語る時に天竺にては斑足太子の塚の神。大唐にては幽王の后褒姒と現じ。我が朝にては鳥羽の院の。玉藻の前とはなりたるなりと語ります。幽王の后褒姒は知ってますけど、斑足太子の塚の神ってどんな話なんでしょう?
ちなみに幽王の后褒姒は絶世の美女ながら全く笑わず、幽王はなんとかして彼女を笑わせたいと思っていた。ある時手違いであがった烽火に集まった諸侯の顔を見て、その可笑しさに褒姒が笑った。それを見た幽王は再び褒姒の笑顔を見たさに、有事でもないのに烽火をあげ、諸侯を集めるといった行為を始めた。ある時、本当に匈奴が攻めてきて、幽王は有事の烽火を上げたが、いつもの愚かな行為と見た周に仕える諸侯は集まらず、幽王は殺された…という話です。
玉藻前といい褒姒といい、いわゆる「傾国の美女」の話なので、「斑足太子の塚の神」も似た感じなのかな~とは思うのですが。
舞台を見に行って改めて、やっぱり能と狂言は良いなぁと思いました。大好きです。もっと見たり、調べたり、稽古したりしなければ!
大阪観世会普及公演
◆2006年10月11日(水)13時~ 於・大阪能楽会館(大阪市北区)
★観世流能《菊慈童》
シテ(童子)=山中迓晶
ワキ(魏の文帝の臣下)=山本順三
ワキツレ(従臣)=是川正彦・喜多雅人
笛=野口亮 小鼓=荒木建作 大鼓=辻雅之 太鼓=三島卓
★観世流能《玉鬘》
前シテ(里の女)/後シテ(玉鬘の霊)=山本正人
ワキ(旅僧)=福王知登
アイ(里の男)=善竹忠一郎
笛=左鴻雅義 小鼓=成田達志 大鼓=守家由訓
★大蔵流狂言《伯母ヶ酒》
シテ(甥)=善竹隆平
アド(伯母)=善竹忠一郎
★観世流能《殺生石》
前シテ(里の女)/後シテ(野干の精)=梅若猶義
ワキ(玄翁和尚)=福王和幸
アイ(能力)=善竹隆司
笛=貞光訓義 小鼓=清水晧祐 大鼓=山本哲也 太鼓=上田慎也
梅若猶義先生の殺生石いってこられたのですねぇ・・・
猶眞の面 小飛出 ホームページ でご紹介している面です。「やかん」という殺生石専用面をお持ちですのでそちらをお使いになる と思っておりましたが、「使った旨」お知らせ頂きました。当日は 今回の能面展の会場設営準備がありましたので お伺いすることができませんでしたので 残念に思っておりましたところです。
今回の展覧会にも 双子の片割れ出品しております。
感想拝見してとってもうれしかったものですから。
久しぶりに行った能会でしたが、
猶義先生に良いお能を見させていただきました。
正直、能面の細かいことはよく分からないのですが
(「小飛出系」と書いたのも、断定は怖いので「系」で誤魔化してます・笑)
脇正面から拝見していたので、石が割れて登場した時には
赤頭に隠れて面が見えなかったのです。
それがクワッとこちら側を見込んだ時に、
赤頭の間から見えた顔が、いかにも悪鬼という感じで。
良かったです。まさか猶眞さんの面だとは思いませんでしたが。
能面展にも、参らせていただこうかと考えています。
アメリカ在の者です。能とは まったく関わらずにいましたが、近くの大学で 来月、一週間に渡る観世流能の講習会が あるというので参加することにしまして、今 詰め込み勉強しているところです(笑)。こちらの情報、参考になりました。練習用の扇子が 100ドル(1万2千円ぐらい)すると聞いて 高さに驚いています。体力も落ちているので 少しずつ 運動していきたいと 思います。
★オシアナさん
初めまして。書き込みありがとうございます。
アメリカでも、能楽の講習会が催されたりするのですね。
私は日本語で慣れ切ってますが、能楽の用語など、
英語でどのように解説するのか、ちょっと興味を覚えます。
しかし練習用の扇が1万円以上するのは驚きです。
私が謡や舞の稽古を受けたのも観世流ですが、
数千円でしたよ。
学生なので一番安いものを使ったというのもありますが。