一回の公演のために屋根を備えた特設舞台
さて、遅くなりましたが17日に行ってきました道成寺。和歌山市内で寄り道をした後、15時過ぎに到着したのですが、既に長蛇の列で驚きました。開演まで約1時間あるし、30分ぐらいは寺の中を見物できるかな、なんて考えは吹き飛んで、慌ててその最後尾に並ぶ私。「道成寺de『道成寺』」をなめていたようです。
それ以上に驚いたのが特設舞台! あの重い鐘の作り物を釣るためには、しっかりとした屋根が必要なのは当然ですが、この一日のためには勿体ないほどの立派な舞台が建てられていました。鏡板の代わりには、その場に生えている本物の松。うーん、これは凄い。
道成寺のある日高川町の町長の挨拶があって、その後に道成寺副住職の小野俊成さんによる、道成寺の由来のお話。能《道成寺》の元になった安珍清姫伝説。実際に何があったのかは分からないが、何かがあったのだろう。それはご本尊さまはご存知なのでしょうが、という話は印象的でした。(道成寺本尊の千手観音像は平安時代前期、9世紀のもので、安珍清姫伝説の発生よりも前から存在)
ストイックな番組に、端正なシテ
演目はストイックに能《道成寺》のみ。狂言も舞囃子も、仕舞すらなし。シテをつとめられた観世清和師、この方は「端正」という言葉が相応しい演者だと思いますが、今回もまさに「端正」な《道成寺》だったと思います。
能《道成寺》といえば、体の動きのキレが表に出る感じがするのですが、今回特に印象深かったのは謡。シテが登場してから道行の謡は、かなり特殊で技巧的な謡い方をしますが、それが宙に浮かばず、シテの女の満たされない鬱屈した情念を表現しているかのようでした。
ワキ福王茂十郎師の語りも素敵でした。父の荘司が娘可愛さにあの客僧は汝の夫(つま)よ夫(おっと)よと語るあたりは微笑ましさがありますし、それだけに後の破局への流れが効いていて。《道成寺》のワキの語りの重要性を再確認しました。
パンフレットには東京大学の松岡心平教授による「道成寺の鐘と胞衣」という文章がありました。能《道成寺》で鐘を使うのは、能舞台にしっかりとした屋根が存在するようにならないとあり得ない演出であったという話は、完成した能舞台しか見ていない私には新鮮でした。現在、屋根を使う曲は《道成寺》だけですし、今の形の能舞台の成立と《道成寺》の関係を考えるというのは面白いと思います。
会場であれこれ動いてらっしゃるのは地元の方々のようで、手作りの公演という感じがしましたし、盛会だったのも作り上げた方々の努力の賜物かと。道成寺ではこれからも魅力的な催しを続けていって欲しいものです。
道成寺de『道成寺』
◆10月17日(水)16時半~ 於・道成寺境内(和歌山県日高川町)
★観世流能『道成寺』
シテ:観世清和
ワキ:福王茂十郎 ワキツレ:福王和幸・福王知登
アイ:茂山七五三・茂山逸平
笛:杉市和 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井忠雄 太鼓:観世元伯
地頭:武田宗和
初めまして。23年前、会社の転勤で2年ほど、和歌山市内に住んだことが
あります。日高の道成寺にもよく行きましたので、「道成寺de道成寺」の
記述を読み、大変懐かしく思っています。
大鼓の 亀井忠雄師のこと、shout とは思いません。おっしゃる通り、
演目が「道成寺」だからでしょう。師の 掛声と音色は、情緒たっぷり
です。またの機会、他の演目で是非 お聞きになって下さい。
土屋教授のこと、彼ならそういう文章を書くでしょう。極め付ける
タイプですし、観世宗家に近い方ですしね。ただ、彼の実行力は買い
ます。やや胡散臭いですがね。例えば、幸弘・萬斎・広忠を束ねての、
「能楽現在形」の企画公演は、新しい在り方・将来を見据えたものと
して、評価しております。他に、オヤリになる方が皆無ですので …。
松岡教授と土屋教授は、お仲間です。
★能楽兎者さん
コメントありがとうございます。
ブログを少し拝見しましたが、
能のお舞台をとても良くご覧になっているのですね。
時間的な都合と、経済的な都合で、あまり東京まで行くことは
できません。亀井忠雄師、関西にももっと来演いただければ
嬉しいのですが。
土屋教授のこと、なんとなくはお噂は聞いてますし、
NHKの能楽放送で、解説?をされていたときの言葉でも
いろいろと素直に受け取れない方だな、という印象は
受けたのですが…。
こんばんわ☆
実は、道成寺レポ待ってました!
私も、一度訪れて観たいと常々思っているのですが、まだ実現できてません!(涙)
浄瑠璃の「道成寺」は、道成寺で(ややこしいですね)演じられてたみたいですけど、能は初ですもんね!
心が動きましたが、日程がやはり無理でした。
清和さんの道成寺も観てみたいです。
綺麗なんだろうなぁ~~…
鏡板の代わりに本物の松というのも憎い演出ですね。
余談ですが、土屋さんの本、2冊程読みましたがあんまりピンと来なかったですね
~。
って超個人的感想です!
★木白山さん
お待ちいただいていたようで、光栄です。
駄文ですが、お読みいただきましてありがとうございます。
文楽の『日高川入相花王』も、歌舞伎舞踊の『京鹿子娘道成寺』も
演じられたことがあったのに、能は初なんです。
文楽も歌舞伎も、直接は能を元にしているので、まさにオリジナル。
しかし、心が動きましたという木白山さん、さすがです。
私はなかなか重い腰が上がりませんでしたよ。
近畿外ならまず行くことはなかったのではないかと(^^;)
土屋教授の文章への感想も、亀井忠雄師の大鼓に関する感想も
超個人的感想です! 実際には土屋教授が参加された本って
何冊か読んでいるんですけれどね。
『能楽囃子方五十年―亀井忠雄聞き書き』亀井忠雄・土屋恵一郎・山中 玲子
『狂言三人三様 野村萬斎の巻/茂山千作の巻/野村万作の巻』野村萬斎・土屋恵一郎