絵馬・鳴子遣子・千手

 今日は神戸の上田能楽堂へ、上田観正会定式能を見に行って来ました。いわゆる上田一門の定期公演なんですが、なんで「定期能」でなくて「定式能」なんでしょうね~。ちょっとした疑問。

上田観正会定式能
◆9月23日(祝)13時~ 於・上田能楽堂

★観世流能『絵馬』
 前シテ(尉)/後シテ(天照大神)=山田義高
 前ツレ(姥)=笠田昭雄
 後ツレ(天鈿女命)=前野郁子
 後ツレ(手力雄命)=藤谷音彌
 ワキ(右大臣公能)=江崎敬三
 ワキツレ(従者)=松本義昭・吉岡省吾
 アイ(蓬莱の鬼)=茂山宗彦・茂山逸平・柳本勝海
 地頭=上田貴弘
 笛=野口亮 小鼓=清水晧祐 大鼓=山本哲也 太鼓=中田弘美

★大蔵流狂言『鳴子遣子』
 シテ(茶屋)=茂山千三郎
 アド(男・甲)=茂山宗彦
 アド(男・乙)=茂山逸平

★観世流能『千手-郢曲之舞』
 シテ(千手前)=松山幸親
 ツレ(平重衡)=上田公威
 ワキ(狩野介宗茂)=広谷和夫
 地頭=笠田稔
 笛=野口傳之輔 小鼓=久田舜一郎 大鼓=辻雅之

 狂言も含めて初めて見るような曲ばかりで楽しめました。演技も良かったですし。それにしてもチケットが安いです。学生でネット割引を使うと、900円ですもの(笑) 能と狂言1番当たり300円は破格ですね。


★観世流能『絵馬』

 左大臣公能が伊勢神宮に参詣の途中、斎宮に着くと、日照りを占う白絵馬を持った老人と、雨を占う黒絵馬を持った姥が現れて、互いに絵馬を掛け争うが、天下万民が喜ぶように両方を掛け、自分たちは伊勢の二柱の神だと明かして消え失せる。
 やがてアマテラス(天照大神)がアメノウズメ(天鈿女命)とタヂカラオ(手力雄命)を従えて現れて、舞を舞う。アマテラスが宮に入ると、アメノウズメとタヂカラオも舞を舞って、宮に入ったアマテラスを外に連れ出し、昔の天之岩戸の故事をさいげんするのだった。

 伊勢斎宮を舞台とした能で、思い入れはあるのですが、初めて見る曲です。前半は絵馬堂・後半は天之岩戸として使われる作り物は面白いですし、舞が連続する後半はいかにも豪華で、私好みの曲でした。

 しかし、考えてみると前半と後半が、全然繋がってませんよね、この曲(笑) 前半最後に

シテ「忍ぶ今宵の顕れて
地「言葉を交わすこの上は。何をかつつむべき。我等は伊勢の二柱。夫婦と現じ立ち出づる。信ずべし信ぜば疑ひ波の川竹の。夜も明け行かば内外にて。待ち得て見え申さんと。夜半に紛れて失せにけり。夜半に紛れて失せにけり

とありますが、「伊勢の二柱」の神が「内外にて。待」つと言っているのですから、老夫婦の正体は内宮のアマテラスと外宮の豊受大神らしいのに、後半には豊受大神は全く登場しません。代わりに、アメノウズメとタヂカラオが登場して賑やかに神楽を奏します。

 もっとも理屈をこねると、この能『絵馬』の魅力を損なうように思いますけれどね。もっとダイナミックな神代の物語、それがこの『絵馬』なのでしょう(^^) いかにも豪華な楽しい曲です。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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