『檀風』の視点

 前回、復曲能『檀風』に関して、日野資朝と本間三郎との間のことについて感想を書きましたが、それだけ重点を置いて、二人の間にある種の信頼関係があったことを描いておきながら、資朝が斬られた直後、その遺児・梅若は

梅若「本間を討って給はり候へ」

といいます。それに対して帥の阿闇梨は、本間は単に役目として囚人の資朝を預かり、そしてまた役目として仕方なく斬ったわけであって、本当の敵は鎌倉幕府の北条高時であると諭すのですが

梅若「いや目の前にて父を討ちたるこそ親の仇にて候へ」

と、強いていうので、その「健気さ」に心打たれた阿闇梨は、梅若の仇討ちに力を貸すことになり、本間は前半での重い扱いが一転、呆気なく?殺されてしまうのです。

 その直後、「追手は声々に。留めよ留めよと追つかくる」の謡通り、緊張感漂う早鼓の囃子に乗って間狂言の早打が走り出てくるのですが、その早打は、本間が資朝の遺言を受けて、帰京の便宜をはかることを約束したことや遺体を阿闇梨に渡したこと、梅若と阿闇梨を居城に泊めたことなどを語って、そんな本間を討った梅若と阿闇梨を非難します。(細かいセリフは忘れてしまったのが残念)

 また先ほどまでの描き方とは正反対のような視点が登場するのですよね。この能は本間と資朝の視点から、梅若の視点に移動して、そして更に本間の従者の視点に移動する。それぞれ違う視点なのですが、それらを行きつ戻りつしながら展開して行くように見れて、面白く感じました。

 まあ、主役のはずの「帥の阿闇梨&梅若」コンビよりも、「日野資朝&本間三郎」コンビに深く思い入れてしまっているあたり、私、もしかして楽しみ方を間違っているのかも、という一抹の不安がないわけではないのですが(笑)

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はしごして観能【追記後】

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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2件のフィードバック

  1. peacemam より:

    去年の夏に横浜能楽堂企画公演で『壇風』を観て、似たようなことを書いた記憶があります。「なんちゅーわがままなやっちゃ」と(笑)。アイの言葉で、本間という人は家臣にも好かれていた好人物であったのだろうと想像できますよね。
    この企画は「ワキとシテ」というシリーズで、私はこの『壇風』しか観ていませんが、ワキが重いものを集めて上演されたものと思われます。

  2. peacemamさんも、横浜能楽堂で『檀風』をご覧になったのですね!
    確かに、それまでの本間の描かれ方を見ていると、
    梅若の頼みが唐突に思えて、「わがまま」にすら見えますよね(笑)
    アイといえば、早打のアイだけではなくて、太刀持のアイの行動を
    見ていても、本間は情がある人物だ、と家臣にも思われているように
    思えますよね。
    太刀持「総じて囚人の所縁など御尋ね候はば。申し次まじき由定め置かれ候へども。幼き御方の遥々都より御下向候程に。それがしが心得にてそと本間殿に申し候べし」
    本間「汝が申すが如く…(中略)…幼き人の遥々御下り候事。余りに傷はしく候間。そと出でてかの山伏に見参申さうずる由を申し候へ」
    「ワキとシテ」シリーズですか~。
    関西でもそんな企画公演が行われないものでしょうか…。