大槻文蔵師の『野宮』

大阪薪能 第二夜
2005年8月12日(金)17時~ 於・生国魂神社

★金春流半能『高砂』佐藤俊之

★観世流能『小督-恐之舞』寺澤忠芳

★大蔵流狂言『清水』善竹隆平

★挨拶・火入れ式

★観世流半能『野宮』
 シテ(六条御息所)=大槻文蔵
 ワキ(旅僧)=中村彌三郎
 地頭=上野朝義
 笛=左鴻雅義 小鼓=荒木賀光 大鼓=辻芳昭

★観世流能『国栖』山本章弘

 先週の姫路城薪能に続いて、大阪薪能に行きました。来週には大阪城薪能にも行く予定なので薪能三昧です(笑) 薪能には直接関係ないですけれど、会場の生国魂神社は歴史もある立派な神社なんですが、周囲がラブホテル街ってのはなんとかなりませんかねぇ(^^;)

 今回何よりも良かったのは大槻文蔵師の『野宮』。ちょうど火入れ式の後は、日も沈んだ(ほかに、飽きた人が帰った?)こともあり、雰囲気が良くなってきたところ、というのもあったのでしょうが、とにかく美しい! 今まで何年か能を見てきましたが、能ってこんなに綺麗なんだ、と思ってしまいました。『野宮』の曲調なんでしょうが、美しくいながら、どこか暗い感じが特に良かったです。起きて見る夢、というか。そう、夢のような舞台でした。大槻文蔵師ってやっぱり大阪を代表する能楽師なんだ、と改めて知らしめられた能でした。

 それほど美しい『野宮』だっただけに、半能、しかも薪能向けに序之舞が省略されたバージョンであったことが残念なばかりで。今度、きっちりと能楽堂で大槻文蔵師による『野宮』が観たい、と思ってしまいました。

★能『野宮』あらすじ
 旅の僧が京都嵯峨野の野宮の旧跡を訪れて、六条御息所の跡を弔っていると、御息所の霊が昔の姿で現れ、賀茂祭り見物のおりに、光源氏の正妻である葵上と争って恥辱を受けた思い出などを物語り、懐旧の思いにひたりながら舞を舞うのであった。


 しかし、この大阪薪能。半能2番+能2番+狂言1番、さらに仕舞まであるのは正直大変です。最初は沈む夕日が舞台の向こう側に見えて、眩しいわ暑いわ(舞台は東向きなのです)。野外能はただでさえ集中して見れないものですから(ビール飲みながら観能っておっちゃんも居るし…それはそれで良いんですけどぉ~)、もう少し遅い開始時間にして、番数も減らして、狂言1番+能1番ぐらいの方が引き締まった良い舞台になると思います。

 最初の能は憧れの佐藤俊之師がシテの『高砂』でしたから、とても楽しみにしていたのですが…。シテはカッコ良かったですよ。観世流と比べて、大らかな感じがする金春流の型と、ピッと指先まで芯の通った引き締まった姿は『高砂』の住吉明神にとてもお似合いでした。でも…太鼓のノリが悪くて、えらく間の抜けた感じの神舞になったのが残念です。

 あと能『小督』の途中に、2匹のカラスが喧嘩しながら舞台上の地謡に突入し、その後も舞台後方にある拝殿の屋根上で転げながら争うというハプニングがあったりしました。カラスの様子が気になって、舞台を見ているどころではありませんでした。野外能だからこそ、ですね(笑)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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7件のフィードバック

  1. みゆみゆ より:

    『野宮』綺麗な曲ですよね(^^)
    ただ・・・私は序の舞で墜ちました(爆)
    しかし、舞台上のカラスは、そちらに注目してしまいそうですね(^^;

  2. あるはいと より:

    トラックバック有難うございます。
    「能」に詳しい方からトラックバックを受けたので少し緊張しております。
    薪能の開始時間は確かにもう少し遅くした方がお客さんのためにも良いですね。平日の5時からある公演は仕事勤めの方にはいくらなんでも無理があるような。それだけ盛りだくさんってことなんでしょうが。

  3. ★みゆみゆさん
    ホントに『野宮』綺麗だったんですよ!
    序之舞で落ちても良いので、完全な『野宮』が観たいです。
    カラスはとても注目を集めてました。
    負けたらしい方のカラスが飛び去る時のボロボロさが
    哀れを誘って…はいませんでしたけど(笑)
    ★あるはいとさん
    コメントありがとうございます。
    緊張なんかなされず~(^^)
    盛りだくさんは盛りだくさんですね。
    盛りだくさんなら良いか、というとそうではないと
    思いますけれどね。49回ずっとこの形態で続いてるのでしょうか…。

  4. さおり より:

    ゆげひさん、こんばんは。
    カラスの争い・・・。読んでいて思わず笑ってしまいました。
    完全に笑いのツボにはまってしまい、笑いが止まりません(笑)
    スミマセン、こんなコメントで(×_×)

  5. おはようございます、さおりさん。
    そんなに笑っていただけたなら、書いたかいがありました(^^)
    負けたカラスは可愛そうですけれど。
    いつも舞台では身じろぎもしない能楽師の方々が、
    さすがに突入された一瞬だけは動揺されてました(笑)
    すぐに復活されましたけれどね。

  6. 三楽亭 より:

    カラスはちょっと怖かったですね。
    シテ・ツレのお二人が一瞬「ビクッ」とされてました。
    オモテを掛けて,それでなくても視界が狭いところへさして
    カラスの襲来・・・想像以上に恐怖であります。
    「野宮」同感です。
    個人的には「国栖」が好きでして,これ目当てに2日目にしたのですが,文蔵師の「野宮」も期待大でした。序ノ舞はやはり見たかったですね。
    私も「大阪城薪能」へ参ります。
    個人的にはナゾの新作よりは別の曲を拝見したかったですが・・・。

  7. ★三楽亭さん
    薪能であんなステキな『野宮』が見れるとは
    思ってもみませんでしたね。
    私は本文中に書いたように、佐藤俊之師は憧れの方なので、
    その『高砂』と、あと『国栖』は大好きなので見に行ったのですが、
    悪かったわけではないのですけれど、『野宮』の前に少し
    霞んでしまった感がありますね(^^;)
    大阪城薪能は、演者の豪華さが期待です。
    狂言は茂山千作師・茂山忠三郎師・善竹忠一郎師が揃いますし!
    『石橋』は久しぶりに拝見する観世清和師です。
    新作能は…個人的に原作者の方があんまり好きじゃないのですけれど、
    でも、エンターテイメントとして楽しめるレベルにはきっちり
    仕上げられる方だと思いますし、演者があのメンツですから、
    そういう意味での期待と、どんなものだろうかという好奇心が
    一杯です。