車大歳神社「翁舞」

車大歳神社「翁舞」

初めて見た車大歳神社「翁舞」

昨日はやっとの休み。ついに今年初の『翁』を見ました。…といっても能楽の『翁』ではなくて、神戸市須磨区の車大歳神社に伝わる神事「翁舞」です。

車大歳神社の翁舞は国の重要無形民俗文化財にも指定されているもので、毎年1月14日19時から神社の神体として祀られている白式尉・黒色尉・父尉の面を使って奉納されています。地元では「お面式」「能面の式」「お面の行事」などと呼ばれているそうで、重要なのは面なんですね。現在の能楽の《翁》ではあまり登場しない「父尉」が登場するのが特徴です。

翁舞一行はヤドから出発する

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ヤド(頭屋。祭祀の世話役の家)から、面の入った箱を先頭に行列で神社へ出発。そして大歳神社に到着すると、神主の祝詞とお祓い、そしてお神酒が終わるといよいよ翁舞開始です。

そして翁舞がはじまる

まず笛二管と小鼓三丁の演奏が始まって、翁大夫のとうとうたらりの謡。濁っていたかもしれません。小鼓の掛け声や謡の声は正直なところ、プロの能楽師のものを聞き慣れていると何とも頼りなく聞えますが、普段は一般の仕事をされている方たちが少し稽古しただけなら、こんなものでしょう。でも何度も何度もよーほん、はいーいやという掛け声を聞いている内に、不思議と癖になってきて(笑) やっぱり翁は良いものです。

車大歳神社「翁舞」千歳の舞
そして鳴るは滝の水と露払い(千歳)の男の子の舞が始まります。体全体を右に、左に向ける所作は能楽の千歳と共通ですが、後は扇を前に出して拝殿をぐるりと回って拍子を踏むぐらい。

車大歳神社「翁舞」翁の舞
能楽の《翁》では千歳の舞の間に翁大夫が面をかけますが、車大歳神社の翁舞では露払いの舞が終わってあげまきやとんどやと謡った後、面をかけます。その際に烏帽子を一度外して、面をかけてからまた付けるのが特徴的。白式尉の面ですが、目があまり笑っている感じではなくて、少し父尉のように釣りあがっているように見えました。面をかけた後の型でも、ピンと両手を伸ばす能楽の翁に対して、肘を上げるようにして、少し腕を曲げた構えでした。

最後は千秋萬歳の。祝ひの舞なれば、一舞舞はう萬歳楽という謡ですが、翁大夫と地謡の萬歳楽の掛け合いがひたすら続きます。これでもかと祝言なんですね。

車大歳神社「翁舞」三番叟・揉之段
翁が舞い終わると次は三番叟の揉之段。こちらも少年です。すると、小鼓方のひとりが大鼓に持ち変えて打ち始めます。しかも張扇で。これが古態なのか?と一瞬驚きましたが、単に素手で大鼓を打つと痛いので、いつ頃からか張扇で打つようになったのではないかなって気もします。小鼓を打っていた時とは打って変わって、気合の入った掛け声。

車大歳神社「翁舞」千歳と三番叟の問答
続いて鈴之段。三番叟が黒色尉の面をつけるときも、やはり烏帽子を一度取ります。千歳が三番叟に鈴を渡す部分もありましたが、お互い恥ずかしさもあるのか「サラバスズヲマイラセソウロ」とただ棒読みで呟いている感じで、完全に問答ではありませんでした…(^_^;) 鈴を渡す時に千歳が何度も振ってから渡していたのが印象的でした。

車大歳神社「翁舞」父尉
三番叟が終わった後、翁大夫が今度は父尉の面をかけて、父尉の舞を行います。ただし、対となるはずの「延命冠者」はいない不思議な形です。延命冠者がいないので、あわせて問答もありません。父尉の舞は、扇で何かを掬い上げるような所作が特徴的でした。

翁舞のあと、翁面は恭しく収められる

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終わった後は白式尉・黒色尉・父尉の面を収めた箱を、神主が神社の本殿へ収めます。神体として祀られているのですから、返すわけですね。能楽の《翁》だと最初は恭しく持って出る割に、終わると切戸からすっと持って帰ってしまうわけで、かなり違いますね。

全体で1時間ほど。でも冬の夜の野外でしたから、指の先まで冷え切ってしまいました。神社の庭に用意された焚き火にあたって、少し体を温めてから帰ります。でも、本当に地元の人々による「翁舞」だったみたいで、翁渡りの時に小さな女の子が「おとーさん頑張って~」と叫んでいたのが何とも微笑ましく。厳粛とはちょっと違いますが、親しみの湧く、昔の祭礼の翁ってこんなものだったのか、と感じて面白いものでした。

大きな道から入ったところにある立地といい、ちょっとした別世界。こういった民俗芸能として残っている翁や猿楽を見るのは初めてですが、少し癖になりそうです。また行ってみたいものですね(^^)

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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2件のフィードバック

  1. かよ より:

    どうも、ミクシィのかよです。
    こんな神事があるんですね!初めて知りました。興味深いです。
    以前、山形県の鶴岡で、黒川能を見たんですが、謡がすっごい訛ってて、全く意味不明でした(笑)
    演者の方も、たまーに自分でも何言ってるか分からなくなるらしいですよ。
    私も民俗芸能って、どうも冬によく見る気がするんですが、体力勝負ですよね。
    おもしろいお話、期待してます。

  2. ★かよさん
    こんにちは。コメントありがとうございます。
    前々から存在は知っていたのですが、
    いろいろ用事が重なったり、自分が体調を悪くしたりして
    今回ようやく見に行くことができました。
    黒川能の謡は訛っているのですか!?
    車大歳神社の翁舞の謡は、謡というよりは歌でした。
    メロディで歌ってる感じで。
    兵庫県内には他にも翁舞があるそうなので、
    出身県ですし、また見に行きたいなと思っています。
    黒川能もいつか見に行きたいものですけど…いつになるんだろ(^^;)