なんて素敵にジャパネスク(2)

なんて素敵にジャパネスク(2)
氷室 冴子
集英社 1999-04

by G-Tools

 さて、再び読み始めた『なんて素敵にジャパネスク』の第二巻。吉野君編とでもいうべき巻です。

 前右大臣による東宮廃位の陰謀は瑠璃姫と鷹男=東宮自身の活躍によって解決した。東宮は即位して帝となるが、浮気ぐせは相変わらずで、瑠璃姫のもとに熱心に手紙や使者を送ってくる。許婚である高彬は、帝に遠慮して全く頼りにならない。とうとう瑠璃姫は怒って、ゆかりの尼寺へ駆け込んで出家、という夜に突然、実家の三条邸が炎上! 瑠璃姫を恨む何者かの放火らしいが…。

 以後の細かいストーリーについては省きますが、吉野君が謀叛にいたる事情が語られる辺りからは、ずっと涙腺がゆるみっぱなし。通学の電車内で読んでるので少々恥ずかしかったですが、それぐらい心にじんと来ました。

 前巻では「有能」「東宮の信頼厚い」と繰り返されながらも、ほとんど活躍しなかった高彬も存分に活躍します。実は高彬が吉野君を斬るシーンは特に気に入ってます。なにせ、束帯・太刀・高彬と私の好きなものが揃ってますし(笑) 最後の一面銀世界の吉野のシーンもそうですが、マンガ版では文字のない見開きになっていて、私の大好きな箇所です。

 小説版だからこその描写の細かさは、この巻でも感じました。特に吉野君の冷徹な鬼っぷりは文字でこそ映える。そしてまた、「鬼」が吉野君と分かるとどうしても甘い瑠璃姫の心情の対比もまた文字の方が効果が出ていたように思います。

 それにしても、最後のシーンの高彬って、これ以上ないぐらい「いいヤツ」です。瑠璃姫が自分でも「そんなに優しくされると、他の男の人のこと考えているのが申し訳無くて、申し訳なくて、泣けてしまうじゃない」と言ってるように、吉野君との再会を願っていることを見抜きながら、それでも優しい高彬。よくあるパターンではこういう男は、恋の敗者になるものですけれどね(笑)

 ところで、あとがきに作者の氷室冴子さんが「今はお能がブームで(好きです)、薪能なども盛んですが」と書かれているのが、おおっ氷室さんも能楽ファンか!?と嬉しく思いました(笑) 「ジャパネスク観光編」ということで、西大寺・伏見稲荷・宇治・大原などモデルやモチーフになった土地のことを書いてらっしゃって、また行ってみたいなと感じました。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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3件のフィードバック

  1. ノン より:

    ふふふ。
    私は2巻最後の一面の吉野の銀世界についても
    小説での文章より想像するのが好きです(笑)
    柏木さんの感想を読むと自分の価値観もみえてきて
    とても楽しみに日記を読んでおります。
    私は固定観念を押し付けられるのが嫌いなガンコ者なのですね。
    あと「人の想像世界の可能性」も無限に思えて
    惹かれますね。
    マンガも大好きですけれど近頃世間でよく言われる
    「本を読まない人は想像力に欠ける」って本当なのでしょうか。
    「絵」として常に認識したもしくはさせられて育った人は
    「空は青い」としか疑わないんでしょうね。
    何やらもったいない気がします・・・。
    最後に高彬の言葉、柏木さんが「いいヤツ」と思われた言葉。
    あれは女側の立場から読むと高彬は「最高の恋の勝者」発言
    だと思いますよ(笑)
    卑怯だ!と思うほど女心わしづかみ(^^;)
    それがわざとではないなら「なおさら」です。
    私がもし瑠璃だとしても「そんなこと言われちゃったら
    放ってはおけないし、そんなに私をわかってくれているのに
    それでもなお許してくれるあんたの元にきっと何年かけても
    戻ってくるわ」と思わざるを得ない言葉ですね。
    ただし相手の女性がじゃじゃ馬にのみ有効の「勝ち」言葉です。
    孫悟空と三蔵法師orお釈迦様パターンです(笑)

  2. こんばんは、ノンさん。コメントありがとうございますー。
    吉野の場面などに関しては、先にどちらを読んでいるか、かもしれません。
    私は文章を読んでも、あのマンガのコマが思い浮かぶんですよね。
    想像が固定化されている、といわれればそれまでかもしれませんけれど。
    本を読まないことと想像力の関わりは全然分かりませんけど、
    今は分かりやすいものが氾濫しているようには思いますね。
    分かりやすいものは、何かの入門などには最適ですけれど、
    分かりにくいもの=面白くない、魅力がないといったように
    考えられているのは残念ですよね。
    でも、日本の古いものって「噛めば噛むほど味が出る」タイプが多くて、
    (和歌の掛詞とか)、逆に言えば分かり易くはないですよね。
    高彬の最後の言葉に関しては「勝者」だからこそ言えるというのも
    分かります。「よくあるパターン」というのは中途半端な状態で、
    相手側に理解のあるところを見せるので、
    本当に相手側に行ってしまうんですけど(笑)
    あの場合、高彬も瑠璃も、どこかで吉野君が死んでいる、
    もしくはもう会えないことを分かってるんですよね。
    でも、会うことを願う瑠璃姫。
    それを全部分かって包み込むようにする高彬。
    意地は「ぼくは唯恵を斬ったことは謝らないよ」とだけ張って。
    余裕があるからこそ、ですよね…。
    しかし、最初は「年下」と繰り返されてる高彬ですけど、
    この辺りでは、むしろ年上っぽいですよね(笑)

  3. なんて素敵にジャパネスク<2> 氷室冴子 ★★★★★

    京でも1,2の名門に生まれながら、性格がいささかおてんばすぎな瑠璃姫。
    幼馴染のエリートコースひた走り中、お仕事第一の高彬と
    今夜結婚!
    という夜に1巻で知り合った東宮(今で言う皇太子)から恋文が来てしまったから、さぁ大変。

    そんな東宮が帝(天皇)