昭和6年の本にある読めない表記「左も右も」
さて、時間が空けば、前も書いた野々村戒三『能樂古今記』(春陽堂、昭和6年)を辞書を引き引き読み続けているのですが、「右」「左」の字の読み方が分からず、戸惑っています。
最初に出てきたのが102頁。「観世四代史考」と題した観阿弥・世阿弥・十郎元雅・音阿弥の、観世座最初期の大夫4人の事跡についての文章なんですが。
観世三世大夫・音阿弥(世阿弥の長男・元雅は歴代に数えない)について、大夫としての活動は広く知られているものの、作能や文筆についての事跡が見当たらないことについて、音阿弥の著書とされる書物が偽書であるとする吉田東吾『禅竹集』(大正3年)の文を引用した後、
以上の言に由ると、左も右も音阿の遺書と稱せらるゝものに『花傳髄腦記』と『實鑑抄』との二本あるわけであるから云々と書いてありますが、この左も右もはどう読むのか分かりません。
漢和辞典を引いても出ていませんし、この場合は無理に「ひだりもみぎも」と読めてしまいそうですが、それだと意味がはっきりしません。
ふたたび登場しました「左も右く」
仕方ないので放っておいて、分からないまま続きを続きを読んでいたら出てきました、謎の左右シリーズ第二段(笑) 安土桃山時代に活躍した金春流の素人の能の名手・下間少進について、『近代四座役者目録』の文章を引用したあとに以下のように記されています。
流儀の相違から來る、多少の僻目もあるらしく思はれるが、左も右く、よほで器用な才人で、色々な工夫もし
この「左も右く」は「ひだりもみぎく」とは読みにくいので、なんらかの慣用表記なのだと思われるのですが、全く読めません…。
漢和辞典で「左右」と引くと、日本独自の意味として「かれこれ」という意味があるので、これかな?とも思うのですが「○も○も」「○も○く」の文字に合わないので、決定打に欠けます。
無視しても文章の大意が読み取れないわけではないのですが、気になります。
「左右」は謡では「さいう」と発音します
それにしても電子辞書で「左右」を引くのに「さいう」と入力してしまった私(笑) 一昨日に〈羽衣〉を謡ったためでしょう。「左右左、左右颯々の」という言葉を能の謡では「さいうさ、さいうさッさンの」と発音するからって。(※観世流の場合。他の流儀では確認していません) …私のドアホ!
※追記。解決しました!
能楽イラストレーターのkyoranさんが、内田魯庵の著作にも「左に右く」という似た表現があることを見つけられ、そこから「左も右も」が「ともかくも」、「左も右く」が「ともかく」と読むのではないかとお教えくださいました。
全くその通りだと思います。これで引っかかっていた部分が分かり、助かりました。ありがとうございます!
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