雛まつりとお人形

京都国立博物館

住所:京都市東山区茶屋町527

 新熊野神社から少し北に向かうと京都国立博物館があります。現在は特別展は催されていないのですが、平常展の中でいくつか特集陳列が行われていました。とりあえず名前だけ挙げると「神像と獅子・狛犬」「雛まつりとお人形」「修理完成記念 妙顕寺の文書」。

 どれも面白そうですが、中でも雛人形が好きなので「雛まつりとお人形」の展示が気になります。しかし他に京都で見て回りたい場所もありますし、高い金を払ってまで入場する気もないなぁ…と考えていると目に入った入館料表示「学生130円」 即、入りました(笑) 京都国立博物館の平常入館料って安いんですね。知りませんでした。


雛まつりとお人形

 展示は時代を追って、雛人形の変遷を知ることのできるものとなっていました。3月3日に人形を飾る風習にはいくつかの起源があるそうですが、そのひとつが形代(かたしろ)として「穢れ」を人形に移して川や海に流す「祓い」の行事です。穢れを移す人形の役割から、飾ることが目的の人形へと変化し、雛人形は豪華に発展して行きます。

 人形の格好としても、初めは男雛は烏帽子に袴・女雛も小袖と庶民的だったものが、男雛は冠に太刀を佩き、女雛は十二単を着るという公家の装束に変化していきます。ただし、必ずしも公家の装束に忠実なのではなく、時代によってはより豪華さを狙って、能の天女に使うような天冠を被っているものもありました。

 その一方で「有職雛」という公家の監修の元に、実際の公家装束を忠実に再現した雛人形もあります。ちょうど上の写真に撮った、チラシに載っている雛がそれです。女雛の髪が垂れているのが珍しいと思うのですが、江戸時代の公家女性の実際の姿なんですね。

 「有職雛」のバリエーションとして、「小直衣雛」というものもありました。小直衣は男子の略服ですから男雛が少し寛いだ格好をしているわけです。それに合わせて女雛も小袖をゆったり着た姿になっていて、心なしか表情まで寛いでいるようにも見えます。

 あと意外だったのが、本式の雛人形の象徴のように思っていた「七段飾り」は江戸(東京)の風習で、上方(関西)では本来「御殿飾り」、つまり内裏雛が住む御殿を最上段に置くものが一般的だったのを知ったこと。段はせいぜい2~3段だったといいます。代わりに御殿が豪華なんですよね。御殿雛の存在は前から知っていたのですが、上方の風習だったことは今回初めて知りました。現在で御殿雛は博物館などで見る以外はほぼ全滅してしまったのが残念です。

 それから「おくどさん」と呼ぶ台所や調理道具が雛飾りに含まれているのも上方の風習なんだそうです。江戸時代の本に、女子に家事を習わせるためと書いてあるそうで、実質的だと言われている上方の教育方針が雛飾りにも反映しているのですね。

 また前に五人囃子は能の音楽、と書きましたが、古い雛人形には笙や羯鼓といった雅楽の楽器を演奏しているものも多いです。お内裏様とお雛様が天皇と皇后の姿を模しているわけですから、本来は雅楽の方がふさわしいですよね。後、能楽囃子に取って代わられるのは、能の方がメジャーになったからでしょうか?

 三人官女・五人囃子といいますが、この数が落ち着くのも最近になってのことで、官女が五人・囃子が雅楽で七人、さらに『青海波』や『胡蝶』といった舞楽人形まで付いた豪華版も展示されており、見た目に華やかでした。また変わったところでは、女性による五人囃子などもありましたね。

 うーん、雛人形だけでもいろいろと奥が深いですね~。

 雛人形以外の人形もいくつか展示されており、その中には能を題材にした人形もありました。鈴を持って『三番三』、「獅子口」の面をつけて『石橋』、靴と唐冠を被って『張良』などなど。御所人形のような幼児姿の人形がそういった格好をしているものですから、あどけない表情が可愛らしかったです。

 また「衣装人形」という人形には、シテ・ツレ・ワキ・ワキツレ・囃子・地謡と揃って能『高砂』の一場面をそのまま写した人形などもあり、能好きな私にたまりません。130円の料金に対して500%ぐらい楽しめた展示でした。

特別陳列「雛まつりとお人形」
期間:2月18日(土)~4月2日(日)9時半~17時
場所:京都国立博物館 平常展示館17室
料金:大人420円、大学・高校生:130円、中学生以下無料
休館日:月曜

 ところで、京都国立博物館の次の特別展の予定は「大絵巻展」。国宝『源氏物語絵巻』や『鳥獣戯画』、『信貴山縁起絵巻』『病草子』などなど、超有名な絵巻物を実際に見ることができるそうです。うわー楽しみ。絶対逃さずに行きたいものです~!

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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7件のフィードバック

  1. みゆみゆ より:

    私も昨年、地元の美術館でいろいろな雛人形を見ましたがとても面白かったです。この時、初めて御殿雛を見ました。関東は七段、関西は御殿雛だったんですね。お内裏様の配置も関東と関西では違うというのは聞いたことがありますが。
    雛人形って歴史や風習が奥深いですね。
    今年は事情により、段飾りできず、お内裏様のみでした・・・。雛人形も段々お内裏様のみ飾るような家庭が増えているそうで、住宅事情もあるので仕方ないかもしれませんが、ちょっと残念ですね。あと、これも仕方ないかもしれませんが、私が幼かった頃より端午の節句の鯉のぼりもあまり見かけなくなっている気がします・・・。

  2. 碧穂 より:

    130円、すっごくお得ですねv
    10倍位でもおかしくない充実ぶりでは?(笑)
    私は平常展「神像と獅子・狛犬」が気になります~。
    LaLaの連載漫画で、あるのですよ。
    お社を不慮の事故で壊してしまった、
    女子高生・雛菊の中に神様が入って、
    狛犬のコマとシシに助けられつつ神様代理をする物語。
    「セーラー服にお願い!」と云う漫画です(爆)
    悪霊祓いよりもラブコメ路線ですが、オススメです。
    (関係ない話で盛り上がって、スミマセン)
    京都のデパートで、雛檀飾りを見たことあります!
    2002年1月26日。某サイトのオフ会で。
    その時に「御殿飾り」ってあったかな?
    うう、記憶の彼方です。
    「大絵巻展」
    私も見に行きたいのですよ~~。
    4月中に行けるように頑張ろうかな…。

  3. ★みゆみゆさん
    地元の郷土資料館が3月になると、最後の殿様の孫娘さんが使っていた
    という雛人形を展示しますが、これが見事な御殿雛。
    それが御殿雛を初めてみた経験です。
    男雛と女雛の配置に関しては、コラムがあったので、引用します。
    ————————————————————
    男雛と女雛
    ~左と右の不思議~
     男雛と女雛の正しい並べ方はよく話題になりますが、左右両説とも根拠があり、どちらが正しいとは言えないようです。
     内裏雛は、天皇と皇后の姿がお手本ですから、伝統的な宮中の席次に従えば、向かって右は男雛、左が女雛となります。そのため、伝統を重んじる関西地方では、現在でもこの並べ方が主流です。
     しかし、明治時代を迎え、宮中に西洋式の儀礼が導入されると、男女の占める位置が逆になりました。そのため、現在の皇室の規定に従えば、向かって右は女雛、左は男雛となります。一説には、昭和天皇の即位式の際に撮影された写真を参考に、東京の人形業界が雛人形の左右を置き換えたことに端を発し、この並べ方が関東を中心に広まったといいます。
     このたびの展示では、東京生まれの「明治雛」のみ、この新しい礼式に則って展示しました。
    ————————————————————
    で、家庭での雛人形ですが、我が家も
    結局、飾ってないんですよねぇ…。
    置物の立ち雛なら置くだけなんですが…。
    鯉のぼり、私も見るのが減ってきた気がします。
    ★碧穂さん
    10倍だったら多分、通り過ぎてました(笑)
    まあ、平常展の中の一部屋だけですしね。
    現在のデパートに御殿飾りが置かれてるとは
    なかなか思えませんが…特に大正時代ごろまで、
    関西圏では流行っていたそうですよ。
    『セーラー服にお願い!』ですか?
    タイトルからしてちょっと恥ずかしい(^^;)
    ちなみに一般に「狛犬」と呼ばれていても、
    学問的な分類からいうと「獅子」の場合がある、
    なんて話も書かれていて面白かったです。
    特に近世に作られたものには…。
    「大絵巻展」、是非いらしてくださいね~。
    京都でしか催されないそうですし。

  4. kitola より:

    こんばんわ。
    珍しく続けて書き込みさせて頂きました。。。
    この時期は色んな所で色んな雛人形展があるんですねぇ~
    先日、奈良市内の法華寺へ「雛人形展」をみに母と行って来ました。八~十畳位の和室1部屋に展示されていたのは、私たちが普段親しんでいる「男雛・女雛」の雛飾りはほんの1,2組で(一応部屋の隅をぐるりと一周壇を組んではありましたが、、、)時代的価値はありそうな、○○天皇の御誕生に謙譲されたものと言う赤子の人形や高価そうだけどどう見ても近代の一刀彫の七段の飾り雛とか、木目込みを教えている母は喜んでいたけれど、これもあまり時代を感じさせない(経年の少ない)「葵上」や「熊野」の木目込み人形が赤毛氈の上に並んでいたり、、、「雛人形展」よね?と言う感じではありました。(*_*;
    何でも、昔は特に子供の人形の事を称して「ひいな」と言っていたとか。「雛人形」はそこからきていると、テレビの取材でお寺の方は仰っておられました。
    因みに「雛人形展」だけの拝観料は400円。学生料金で常設の1室とはいえ130円で「雛人形展」としての内容の濃さはちょっと羨ましぃ~です。
    その日の私の満足感は、帰りに母と行ってお茶したカフェ&雑貨やさんのケーキとクロッキーに適した8Bの太・濃鉛筆でした。久し振りに母と二人だけでゆっくり出掛けられた事が物凄く幸せでした、、、(*^_^*)
    話の的がズレてすみません。。。

  5. ぼんぼり より:

    幼い頃を懐かしく思い出しました。
    御殿雛を組み立てるのは男衆の仕事でした。
    まず床の間に木枠で土台を組み立て
    その上に御殿を置きます。男雛と女雛は
    御殿の中に入れたあげますから内部が薄暗くて
    その姿はあんまりよく見えませんでした。
    だから飾る前にうっとりと眺めたものでした。
    御殿のきざはしには衣冠束帯に太刀を佩いた大臣が
    昇殿しようとしていました。
    ほかに覚えているのは五節の舞姫のお人形があったこと。
    傍らに雅楽の太鼓もありましたっけ。
    夜になるとぼんぼりを灯して・・・・・
    それはとても美しかったです。

  6. みゆみゆ より:

    男雛と女雛の関西と関東の配置の違い・・・・
    なるほど!!!です!!!
    単に地域の違いということではなかったのですね。
    そこまで考えていませんでした・・^^;

  7. ★kitolaさん
    いろいろなところで雛人形展が行われていますよね。
    京都だけでも、京都国立博物館のほか
    京都文化博物館、博物館さがの人形の家、宝鏡寺門跡で
    公開しているそうで、「京の雛めぐり」と題して、
    四所あわせて紹介しているチラシもありました。
    (共通券などはないんですけれど)
    法華寺というと、光明皇后創建の「法華滅罪之寺」ですよね。
    あそこでも雛人形展やっているのですか。
    雛人形を含めた人形展といった感じですね。
    kitolaさんが仰る「昔」っていつ頃の時代のことなんでしょう?
    『源氏物語』にも、ひいな遊びって出てきますよね。
    後の明石中宮に兄の夕霧が雛遊びの相手をする、という場面。
    学生料金ですから。一般は420円で京都国博の負けです(笑)
    ★ぼんぼりさん
    家に御殿雛があったのですか!?
    上に書いた、最後の殿様の孫娘さんが持っていた御殿雛の
    資料を私持っているんですが、御殿の組立次第の連続写真も
    載っています…。手間が掛かりそうですね(^^;)
    衣冠束帯の大臣が昇殿しようとしていて、
    五節舞姫が舞い、雅楽の太鼓…雅やかな風景が
    浮かび上がるかのようです。良いですねぇ。
    ★みゆみゆさん
    まあ、どっちも間違っているとはいえない、ということですね。
    私は特に理由がない限りは古い物が好きですし、
    関西人ですから、今度飾る時には
    向かって右は男雛で、左が女雛としたいと思います(^^)