能楽大成の機縁 新熊野神社

新熊野神社

住所:京都市東山区今熊野椥ノ森町42

 新熊野と書いて「いまくまの」と読みます。和歌山の熊野を深く信仰した後白河上皇が永暦元年(1160)に、自らの御所(法住寺殿)の領域内に熊野権現を勧請したのが始まりだと言われています。応仁の乱で荒廃しますが江戸時代になって再建。現在に至ります。

 あまり大きくない神社ですが、永和元年(1375、もしくは前年)にこの神社の境内で、観阿弥が催した猿楽能を、室町幕府三代将軍・足利義満が見物。当時12歳の世阿弥の可憐さに惚れ込んだ義満は、以降絶大な庇護を観世父子に与えるようになります。後、成長した世阿弥によって能楽が大成されるわけですから、この新熊野神社は能楽大成のきっかけとなった場です。

能の碑

 境内には「能」の一文字を彫った碑もあります。世阿弥自筆の著書『花鏡』から取ったものだそうです。以下、碑文を引用します。ちょっと旧字体も混じってますが。

 王朝の昔から神事や後宴の法楽に演ぜられた猿楽は大和結崎座の大夫観阿弥とその子世阿弥によって今日傳統藝術として親しまれる能にまで仕上げられた その端緒となった時は今から六百余年前の應安七年場所はここ今熊野の社頭であった
 古く八百二十年前 永暦元年後白河上皇が御願をもって紀伊熊野の森嚴なたたずまいを移されたこの地で猿楽能を見物した青年将軍足利義満は當時十二歳の世阿弥の舞容に感銘した そして世阿弥を通して能の大成を後援しついに幕府の式楽として採用したのである
 現代の能の隆盛につけてもその日のあでやかな世阿弥の風姿を知る老樟の下に往時を追懐し今熊野猿楽の復興を志す人々が一碑を建立してこの史実を記念することになった ここに請われるまた碑銘の文字を世阿弥自筆本花鏡のなかから撰ぶとともにその由來を録して社頭の繁榮と能の發展を併せ祈願するしだいである
 昭和五十五年庚申十月十六日 文學博士 林屋辰三郎

 境内には大きな樟の木が生えていて、新熊野神社のシンボルになっているのですが(一番上の写真参照)、この木は後白河上皇自らが植えた木とされており、なんとも立派な木です。もし、近くを通りかかることがありましたら、一見の価値有りです。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. kitola より:

    お久し振りです。
    新熊野神社、こじんまりしているけれど雰囲気のある神社で素敵ですよね。私もお気に入りの落ち着ける場所の1つです。お稽古を始めて1年半め位から「技芸上達」への気持ちで時々1日の月初めにお詣りしています。
    初めて訪ねた時、宮司さんとお話させて頂けたのですが、
    結崎に程近く住んでいる事、お稽古を大阪でしている事など
    話しているうちに私の師匠のお家の先代はよく奉納をされていて親しくさせて頂いていた、とお聞きして不思議な縁を感じずにはいられませんでした。
    そう、お守りを買っておみくじを引こうとしたら窓口にたまたま宮司さんが座っておられた、という偶然のお陰で(^^♪
    ゆげひさんはお守りをかったりおみくじをひいたりはなさらないでしょうが、ご覧になりました?お守り袋には能面の女面(小面?若女?)が刺繍で施されているんですョ♬袋の色も青と赤から選べますv(*^_^*)v

  2. とりあ より:

    新熊野神社、なつかしいですね~。
    大学時代、ぶらぶらと後輩と散策に行って、近くの商店街でたこ焼きを買って、花見もどきをしたことがあります。f^^;)
    また友達が近所に住んでいたこともあって、結構学生時代は行っていたように思います。
    大通りに面しているのにこじんまりしていて、いい感じですよね。

  3. 花兎 より:

    新熊野神社、いいですよね~。
    授与所にはヤタガラスが御幣を咥えたお守り(置物?)もあります。同じく後白河法皇創建の新日吉神社の授与所でいただける、やはり御幣を担いだ白猿と並べて楽しんでます。

  4. ★kitolaさん
    お久しぶりです~。書き込みありがとうございます。
    宮司さんとお話されたんですね。
    最近も能の奉納も行われたりするんですね。
    おっしゃる通り、私は神社仏閣好きですけれど、
    お守りを買ったりはしません。自分なりの一線ですので。
    でも、能の女面が刺繍されているなら、
    覗くぐらいすれば良かったですね。
    うーん、惜しいことをしました(苦笑)
    神社は信仰の場所ですから、やはり祈願する心で行くと
    より深くいろいろ感じることができるのでしょうねぇ…。
    ★とりあさん
    とりあさんの大学と、新熊野神社は近いですものね。
    行く途中に大学名を見て「あ、ここなんや」と思ったものです。
    たこやきを片手に花見?も楽しそうですね(^^)
    変に俗っぽくもなく、でも超然としているわけでもなく、
    感じの良い神社でした。
    ★花兎さん
    そういえば境内に八咫烏のことも書かれていましたね。
    『古事記』『日本書紀』で熊野から大和へ、神武天皇を導いたのが
    八咫烏だったと思いますが、だから熊野関連…なのでしょうか?
    「新日吉神社」もあるんですね。名前から
    比叡山の日吉山王を勧請した神社でしょうか。
    …調べて見ると、新熊野神社近くですね。
    うーん、私、見逃してます(苦笑)

  5. とりあ より:

    新日吉神社は、大学の横ですね。f^^;)
    うちの後輩たちが巫女さんバイトをやってましたっけ。
    京都パークホテル(今のハイアットリージェンシー京都)の神式結婚式の巫女さんは新日吉神社から行ってました。
    当然、うちの後輩たちも行ってましたよ。(笑)
    ホントに懐かしいです…。

  6. 私は神道の信者ではないですけれど、
    巫女さんってバイトで良いのかなぁ、なんて思ってしまいます(笑)
    正月などで人手が要る時は仕方ないとしても。
    特に結婚式とか…キリスト教式の時も
    牧師さんや神父さん、留学生のバイトだったりするって
    話も聞きますが(^^;)