2005年7月9日(土)14時開演 於:大槻能楽堂
★お話「歌人・実朝の夢と現実」稲畑廣太郎
★新作能『実朝』(原作:高浜虚子 補綴・演出:堂本正樹 節附:野村四郎)
前シテ(庭掃き)/後シテ(源実朝の霊)=大槻文蔵
ワキ(旅僧)=福王和幸
アイ(銀杏の精霊)=茂山七五三
地頭=阿部信之
笛=野口傳之輔 小鼓=曽和正博 大鼓=白坂保行 太鼓=中田弘美
★お話「歌人・実朝の夢と現実」
お話をされた稲畑廣太郎さんは、高浜虚子(1874-1959)の曾孫で、虚子が師である正岡子規(1867-1902)から引き継いで主催した俳句雑誌『ホトトギス』の現編集長。少し何が仰りたいのかよく分からない部分もありましたが、今回の新作能『実朝』の上演までの経緯の話などは面白かったです。
上に書いたように『実朝』は高浜虚子原作による新作能です。元は1919年(大正8)に『中央公論』に発表されたものですが、能として初演されたのは1996年(平成8)。『ホトトギス』の創刊100周年記念行事だったとか(於・鎌倉芸術館)。
能楽と虚子の繋がりとして忘れてならないのが狂言方和泉流の六世野村万蔵師。六世万蔵師は虚子に師事して俳句を詠まれており、前に読んだ『野村万蔵著作集』にもたくさんの俳句が載っていました。俳句の分からない私にも親しみやすい、爽やかで軽やかな句が多かったことが印象的です。
同じく虚子に師事して俳句を作られていた六世万蔵師の奥様の働きで、息子である野村四郎師(シテ方観世流)が節型附とシテをつとめ、初演にこぎつけたのだそうです。プロデュースは、解説者・稲畑さんの大学以来の友人である大倉源次郎師(小鼓方大倉流)。
ちなみに高浜虚子の墓がある鎌倉の寿福寺には、源実朝の墓と伝わる櫓があるそうで…虚子と実朝の不思議な縁を感じたりします。ちなみに同名の新作能が1950年(昭和25)に喜多実によって演じられていますが、それは土岐善麿作の別作品だそうです。
★新作能『実朝』
旅の僧が鎌倉鶴岡八幡宮で、実朝暗殺の際に公暁が隠れ潜んでいたという銀杏の木の下で、実朝の歌を歌って源氏の儚さに涙していると、庭履きの男に出会う。男は世の無常を感じていた実朝の人柄と、その読む和歌が雄雄しいことについて語り、自分がその霊であることを明かして消える。(中入)
夜半に僧の弔いに引かれて昔の姿の実朝が船に乗って現れる。渡宋を志し新造させた船が由比ヶ浜を動かずに朽ちたこと、参拝のとき銀杏の木のかげより躍り出た甥の公暁に首を取られたことを語り、舞い歌い、夜明けとともに消えていった。
先に感想を書いておくと、今まで見た新作能/復曲能の中では、キャストが良かったこともあって、一番のヒットだと思います。
形式としては、複式夢幻能の基本に準拠しながらも、全体的にすっきりした構成でテンポもよく、全く飽きるような部分がありませんでした。大槻文蔵師の演技は、ちょっとした動きでもとても雄弁で、こういった新作能/復曲能や新演出の場合、その意図がとても分かりやすく伝わってくるのです。
前シテは大銀杏の作り物に中入して、それがそのまま後の屋形船に変化する作り物もなかなか面白かったです。ワキに「宮柱太しき立てて万代に。今ぞ栄えん鎌倉の里」という和歌を口ずさませながらも、その直後に「その万代と頼まれし。源家の栄えも露霜と。消えて久しき夢の後」というのも銀杏の木の下。アイも銀杏葉の散り舞い遊ぶ舞を舞い、銀杏の葉と源氏嫡流の儚い運命が重なりつつもコントラストを為していて。
それが後半になるとそのまま船に変化して、現世では全く浮かばなかった船にも関わらず、その船に乗った実朝が「今こそ波に浮かみしぞや」と船出して魂も外へ開放されていく。公暁に首を打ち落とされてしまう箇所では、突然シテが殺す側の公暁となって斬り落とした実朝の首を取って叫び、一気にテンポアップして激しくなりますが、その直後に落ち着いた早舞。くるくると舞っているうちに成仏していくのが、不思議と自然に感じられるのでした。
囃子、(笛と太鼓は単に大阪の方で聞きなれているからかもしれませんが)大小が印象に残っています。とりわけ大鼓の、九州からいらっしゃった白坂保行師を見るのが、今日の目的の半分(残り半分は新作能への好奇心)だったのですが、弓を引き絞って直すような、力強いけれど全く乱暴ではない打ち方にずっと魅せられ通しでした。一方の小鼓も、その大鼓を柔らかく、でも負けないように受け止めてふわりと返すようなところがあって…特に前場が気持ちよかったです(^^) 満足、満足。
■関連記事
→日々是≪能≫三昧:実朝の面
→読売新聞(関西発):新作能でひと味違う夏 大槻能楽堂
はじめまして。最近このブログにたどりつき、たいへんうれしく拝見させていただいています。当方は能楽ファン初心者で、周りに話せる人がありません。9日の「実朝」、私もみました。自分でぼんやり感じていたことがこちらのページで的確に言葉で表現されていて、とてもすっきり!ありがたいです。大鼓の音色、この方は何者と気になっておりました。得心いたしました。文蔵さんの後シテ、実朝が舟から大海原を望むあたり、晴れやかで情趣の深いものでした。柏木さんは誠実な表現をどこまでも求めておられる気がして、読んでいて気持ちいいです。ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。
はるさん、はじめまして。
このブログをご覧下さってありがとうございます。
『実朝』は面白かったですよね。
感想を書くとき、なかなか書けないこともあるのですが、
今回の『実朝』はスラスラと文章が出ました。
それぐらい、他の方にも感想を伝えたい舞台だったのです。
大槻文蔵師の、ちょっとした動きが綺麗で、
しかも説明的ではないのに海原が感じられたり…。
こういうのを演技力がある、というのでしょうか。
大鼓をつとめられた白坂保行師は
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/1515/performer/performer.html
にプロフィールが載っていますが、九州(福岡)の方です。
大槻能楽堂自主公演で毎年1度だけ、大鼓を打たれています。
>>読んでいて気持ちいいです。
ありがとうございます。あくまで素人として、
あまり批評ぶったりせず、謙虚に舞台を見て行きたいな、
と思っています。
このブログとは別に「能楽の淵」(http://funabenkei.daa.jp/)
と名付けた関西で能や狂言を楽しむためのサイトを開設しております。
掲示板もございますので、またお話などされたいのでしたら、
是非ご利用いただければ…と思います。それでは。