きもので楽しむ日本の伝統(1)

 今日、京都会館第2ホールで見てきた会です。(財)京都和装産業新興財団と京都染織青年団体協議会が時々開催しているもので、なんと洋服では5,000円ですが、着物なら無料! 私も着物を着て行きました。

 会場に着くとものすごい着物行列! きもの、着物…。洋服でいる方が場に浮いてしまうというオソロシイ着物行列でした。こちらのblogに写真が載っています。(^^)

 今まではシテ方観世流の味方玄師の構成・演出による能だったみたいですが、今回は狂言方大蔵流・茂山千三郎師の構成・演出による狂言。きものショーとのコラボレーションでした。

 最初のテーマは「過去」。

 幕が上がると暗闇から紋付袴姿の松本薫師が浮かび上がって、『源氏物語』の夕顔に関する語り。能『半蔀』の間語りのように思います。終わると再び暗転して能管による演奏。それにかぶせて茂山千三郎師の語り。

 さてもさても…化粧、着物、髪結と申すものは、時を越え、人の心を映し、時代の花に染まりたるもの。また猿楽、狂言などの諸芸も…是、同じことなり。変わりてこそ面白けれ、変わらぬものに生命無し。あら面白や、着物と狂言…時を越える旅の始まりなり。

 チラシやパンフにも印刷されてましたし、今回の催しのテーマとなる文なのでしょう。そして賑やかなBGMに切り替わると、西陣で作られた室町時代風の小袖を着た女のモデルさんたちが出てきてファッションショー。

 色も青や黄色やといったのはなく渋めで、帯は今のような太いものではないのですが、そこが楚々とした雰囲気を醸し出していて私は好み。帯の結び方も紐がちょうど良い長さに垂れ下がっていて粋です。中には白い小袖の上に黒い羅の羽織という、一見、お坊さんみたいな着物を着ている人もいましたが、若い女の人が着るとまた不思議と色気があるものですね。

 一通り、ショーが終わって5人のモデルさんたちがそのまま舞台上に立っていると、舞台の裾から「さあさあ、ござれござれ」「参りまする参りまする」と太郎冠者スタイルの千三郎師と茂山逸平師が登場。今日は京都岡崎辺りで着物で見る狂言の会があるらしいが、ムサい男同士連れあって行くのもなんだから、前に並んでいるおなごに声を掛けて誘おう、という話に。緊張して声も出ない様子の逸平師を見て、千三郎師が模範を示す。何人かには逃げられたものの、お互い一人ずつ相手を得ることに成功。

 千三郎師「今日演じられる狂言は『延命袋』とゆうて、たいそう面白いものじゃが、出演する茂山千五郎という狂言師のことを知ってござるか?」首を振る相手のモデルさん。「何、知らぬと。千五郎は知られてないでござるか」 逸平師「ならば正邦は知ってござるか?最近、双子の子が生まれたそうな」ふるふる。「千三郎は?」「逸平は?」ふるふる。「ならば“のむらまんさい”は知ってござるか?」ふるふる。「ああ、良かった(笑)」 というわけで、2組のカップルが「さあさあ、こちへおりゃれ」と手を取りつつ、舞台の裾へ入りると狂言『延命袋』の始まり~。

★大蔵流狂言『延命袋』
 シテ(夫)=茂山千五郎
 アド(太郎冠者)=茂山正邦
 アド(妻)=松本薫

 『延命袋』と呼ぶのは千五郎家のみ。山本東次郎家や和泉流では『引括(ひっくくり)』という名前だそうです。

 夫は口うるさい妻と別れようと思っていましたが、ちょうど妻が親里に帰っているので、太郎冠者に離縁状を持たせて妻の元に届けさせます。すると妻は立腹し、夫に会って直に返事をすると言います。戻った太郎冠者が夫にその旨を告げている間に、妻は帰宅。しばらく言い争った後、妻は夫に離婚するから暇のしるしに何かが欲しいと要求します。夫が好きなものをやると答えると、袋を取り出して夫の頭にかぶせ、「わらわが欲しいのはこれじゃ」と言いながら夫を連れて行くのでした。

 直前に知らないと言われたからか、最初に「これはこの辺りに住まい致す茂山千五郎でござる」と名前を強調して名乗り。…こーゆーのが千五郎家(^^)

 いわゆる「わわしい女」の奥さんですが、袋に入れて夫を連れ帰るわけで、それだけ夫を愛してるはずなのに、そのあたりの理由はあまり感じられなかったですね。何度も足をドンと踏んで、怖いおかみさんなんだな、というのはよく分かりましたけれど。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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