中・高校生のための狂言入門

中・高校生のための狂言入門
山本 東次郎 近藤 ようこ
平凡社 2005-02

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 大蔵流狂言方の山本東次郎師の狂言についての話を、マンガ家の近藤ようこさんがインタビュアーになって、記録した本です。

 狂言の入門書といえば、分かりやすさやおかしさを前面に押し出したようなものが多いですが、この本は東次郎師の持つ「狂言は心理劇」とする主張に基づいて、表面的な単純さの奥にある、狂言の深い世界を垣間見させてくれるものとなっています。

 根本的な主張は、今までに師が著された『狂言のすすめ』『狂言のことだま』とほぼ共通で重なっている部分もありますが、対談形式なので話し言葉になっており、より理解しやすいのが良いですね。

 題にある「中・高校生のための」というのが大切なことだと思うのです。中・高校生向けなのですから、これから知識を付けていく状態なわけで、基礎知識がほとんどない状態で読んでも理解しやすい文章である必要があると思うのです。その一方で、きちんと考える力は付いてくる時期ですから、薄っぺらい表面的なことだけでなく深い背景世界へ導く手掛かりがある必要もあるでしょう。

 私が中・高校生向けの本で思いだすのは、岩波ジュニア新書の日本の歴史シリーズですが、これらは大学の史学科で教科書に使われたぐらい、深い内容を持ってました。(学生の質が低いだけ、と言われればそれまでですけど(苦笑))

 話を戻しますが、この『中・高校生のための狂言入門』は中・高校生に独占させるにはもったいないほどの深い内容を持った本です。この本を読んでいると、東次郎師が後継者たちにきちんとした芸を伝えていきたい、と考えられていることがとても伝わってきますが、それは後継者に限ったことではなくて、本の読者にも向けられているのかもしれません。

 入門したい初心者だけでなく、狂言を見慣れた人が改めて狂言を見直す「再入門」にも最適だと感じました。

 ところで、聞き手の近藤ようこさんはマンガ家なんだそうですけれど、私は作品を読んだことは一度もなく、どういった方かは全く知りません。でもこの本では聞き手に徹してらっしゃる姿勢がステキです。「BLOG_inainaba」に書かれているように、「どんなもんだい!ッていうところは、まったくない。というか、山本センセに直に狂言の個人教授をしてもらえることに夢中になっているというカンジ」でなんですね。それが、この本の基本となる雰囲気を作り出していて。良いんですよ~。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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4件のフィードバック

  1. さおり より:

    >入門したい初心者だけでなく、狂言を見慣れた人が改めて狂言を見直す「再入門」にも最適だと感じました。
    これは、読まなくては!
    論文を書き終わってしばらくは、「狂」の文字を見ると逃げ出したくなっていたのですが、そんな苦しさはすぐに忘れてしまうのですねー、これが(笑)
    上手い聞き手がいると、対談自体がすごくいいものになりますね。読むのが楽しみ!!また感想書きます。

  2. さおりさん、こんにちは~。
    この前は「狂言不足」を訴えられてましたしね~(笑)
    苦しさを忘れる、好きなことってそんなものではないでしょうか。
    良い本ですよ。直接の芸は違っても、善竹忠一郎師親子の芸の芯には
    山本東次郎師が仰ってることに似たものがあるのでは、と感じることも
    あります。見ていて、というだけの無責任な感想ですが。

  3. びぎなー より:

    こんにちは♪ はじめまして。
    最近狂言に目覚め、ときどき能&狂言を観にいくようになったのですが、???のことが多すぎて、、、。
    そんなとき、このブログを発見。いつも拝見させていただいています。『中高生のための狂言入門』も、さっそくアマゾンで注文しました。届くのが楽しみ! これからも参考にさせていただきます!

  4. びぎなーさん、初めまして。
    駄文を垂れ流していますが、ご覧下さっているとのお言葉
    ありがとうございます(^^)
    『中・高校生のための狂言入門』を買われましたか。
    分かりやすいけれど深みもある本ですよ。
    より狂言と能の深みにハマってくださいませ(笑)
    また書き込んでくださいね。ではでは。