冠の話

 最近、『なんて素敵にジャパネスク』を読んでるために、心が平安時代に飛んで行っていくことが多いです(笑) そんなわけで、冠の話。

 冠は公的な場における、男子の被り物です。一方、烏帽子は本来は私的な場での被り物。天皇はいつも冠を被っていたそうで、位を降りて上皇になって初めて烏帽子を被ることができたといいます。いつもフォーマル、大変ですね(^^;)

 成人した男子は、常に烏帽子か冠を被っていて、何も被っていない姿をさらすのは恥だったそうです。国宝の『源氏物語絵巻』には病床の柏木を源氏の息子である夕霧が見舞う絵がありますが、柏木、しっかり烏帽子を被ってます。

 話を冠に戻すと、文官の場合、後ろの纓(えい)が垂れ下がる垂纓冠(すいえいのかん)ですが、武官の場合は少しでも動きやすいように、纓が巻かれた巻纓冠(けんえいのかん)と呼ばれるものになります。巻纓冠の場合、「おいかけ」と呼ばれる馬の毛で作られた飾りも付きます。

 『なんて素敵にジャパネスク』のマンガ版を見ていると、主人公の瑠璃姫は姫君ですからあまり公式な場というのに行かないのですが、それでも何回か許婚の右近少将・高彬が冠を被っているシーンがあります。特に「九条」の名で後宮に匿われるあたりでは、宮中ですから高彬は巻纓冠を被っています。もっとも「おいかけ」は描かれていません。少女マンガとして美しくないから?

 鷹男の帝は、先に書いたように常に冠姿で描かれています。金巾子冠(きんこじのかん)という、長方形の金箔を貼った畳紙を重ねて纓を挿んだ天皇専用の冠です。新装版の小説2巻の表紙には鷹男の帝らしい人物が烏帽子を被って描かれていますが…。

 冠は能でもいくつかの曲で使われます。すぐ思いつくのは『井筒』。シテである紀有常の娘の霊は、中将・在原業平の肩身の衣装を着て一体となるのですから、巻纓冠を被ります。

 昨日見た『国栖』では、子方の天皇が冠を被っていました。ひな人形のお内裏さまでおなじみの、纓がまっすぐに立っている冠です。これは立纓冠(りゅうえいのかん)といって、江戸時代の中ごろから天皇専用の冠として使われるようになったものだそうです。

 ただし、戦前は天皇の冠を被るのは不敬だとして、使われなかったそうです。今でも垂纓冠を使うことも多いようで(『花よりも花の如く』1巻収録の「大人はなにかをかくしてる」では垂纓冠)、立纓冠を使う場合もあるというぐらいのようです。子方の天皇では立纓冠を使う場合でも、『玄象』の村上天皇や『鷺』の天皇のように大人が演じる曲では、やはり遠慮して垂纓冠を使うと聞きました。

 掲載した冠の図解画像は、ぐりゅんでるさんのサイト「黒猫月」(http://tukineko.pekori.jp/)から許可をいただいて転載したものです。ありがとうございました。

垂纓冠
垂纓冠

巻纓冠
巻纓冠

金巾子冠
金巾子冠

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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