狂言『花子』の謡

 先月に能・狂言・歌舞伎・文楽…と伝統芸能鑑賞にお金を使い過ぎたので、今月のテーマは「いかにお金を使わずに能や狂言を楽しむか」です(笑)

 しかし、19日(日)に催される「善竹会 神戸狂言の会」だけは見に行くつもりです。なんといっても善竹忠一郎師の『花子-替装束』! 見たことのない曲ですし、大曲ですから前々からこれぞと思う演者で見たいと思っていたのです。それが善竹忠一郎師で見れると思うと…これだけは逃すことができません。

 さおりさんの「狂言日記*そろりそろりと参ろう」の記事を読んで気持ちは高まるばかり。見る前に何か下調べができないかと思っていたら…ありました! 中世国文学の講義で使った教科書に『花子』の謡が載っていたのです。しかも大蔵流のものだそうで、丁度都合が良い!

狂言歌謡(「花子」より)
(1)ふけゆく鐘の別れの鳥も ひとり寝る夜は障らぬものを
(2)柳の糸の乱れ心 いついつ忘れうぞ 寝乱れ髪の面影
(3)いつの春か 思ひ初めて忘られぬ 花の縁や花の縁
(4)寺々の鐘撞くやつは憎いな 恋ひ恋ひて 稀に会う夜は日の出るまでも 寝うとすれば まだ夜深きに ゴンゴウゴ ゴンゴウと 撞くにまた寝られぬ
(5)燈消えて暗うして いと物凄き折節に 君が来たらうにや
(6)雨の降る夜は誰が濡れて来うずらうに 誰そよ咎むるは人ふたり待つ身かの
(7)夜更けて来たが憎いほどに
(8)妻戸をきりりと押し開く 御簾の追風匂ひ来る 人の心の奥深き その情けこそ都なれ 花の春紅葉の秋 誰が思い寝となりぬらん
(9)情けの文は小車よ 小車よ ただ失うて叶ふまじ 廻り会ふまで
(10)寝乱れ髪をぼじやぼじやとゆり下げて いつに忘れうぞ面影 天竺震旦我が朝 三国一ぢやよの 夜は既に明けければ すごすごとさてお帰らうよの 吹上の真砂の数 さらばさらばよ
(11)はるばると送り来て 面影の立つ方をかへりみたれば 月細く残りたり 名残惜しやの
(浅見一彦・天野文雄・小島孝之・田村柳壹『編年 中世の文学』新典社、1990年、244~245頁)

 狂言『花子』は、ある男の馴染みの遊女・花子から手紙が届くところから始まります。しかし、妻の目が光っているので会うことはできません。男は持仏堂で一夜の座禅をすると言って家から出、実際には供の太郎冠者を身代わりにして花子のところへ行ってしまいます。妻は夫を見舞うため持仏堂に来ますが太郎冠者が身代わりになっていることに気付き、入れ替わって夫の帰りを待ちます。翌朝、帰って来た男は妻とは知らずに、花子との逢瀬の嬉しさ・別れの辛さ・妻の悪口などを聞かせるのでした…。

 上に挙げた謡は、(1)~(4)はその男が花子の元に行った帰りに謡い、(5)~(11)は自分の身代わりをしてくれた太郎冠者(実際には妻)に語って聞かせる部分に謡われるそうです。花子自身は人物としては登場しませんが、(5)(7)(8)(10)は花子の言葉のようです。男の口を通して語られるのですね。

 「君が来たらうにや」あなたがやってきたのでしょうか、と花子がいうと、「誰そよ咎むるは人ふたり待つ身かの」誰と聞くということは私以外の男を待っている身なのだな、という男。対して花子、「夜更けて来たが憎いほどに」遅れてくるのが悪いのよ、と。艶っぽいやりとりですねぇ…。当日どのように謡われるのか楽しみです。

 注によると(8)の「妻戸を~」は能『千手』(喜多流『千寿』)の一節を引用したものなんだそうです。ただし最後の「思い寝」は『千手』では「思い出」。狂言のあらすじに併せて、一文字だけですが上手く変えていることが分かります。

 また一文だけですが「夜は既に明けければ。すごすごと」は、私の大好きな能『錦木』のクセと同じで嬉しくなりました。もっとも『錦木』は毎晩毎晩通っても、好きな女性に想いが通じなかった男の話であって、想いを遂げてから帰ってくる『花子』の男とは正反対ですけれどね(笑)

 こうして調べるとますます楽しみになってきました。それにしても、バレンタインデーに男の浮気話について書かなくても良いよな、と自己ツッコミ(笑)

善竹会 神戸狂言の会
◆2月19日(日)14時~ 於・湊川神社神能殿(神戸市中央区)
★大蔵流狂言『附子』
 シテ:善竹忠亮 アド:大藏教義・善竹忠重
★大蔵流狂言『花子-替装束』
 シテ:善竹忠一郎 アド:大藏吉次郎・善竹隆司
★大蔵流狂言『神鳴』
 シテ:善竹隆平 アド:上吉川徹
 地謡:善竹隆司・善竹忠亮・大藏教義・道下正裕
●一般:4,000円(当日:5,000円)、学生:2,000円(当日:2,500円)
ローソンチケット(Lコード:54659)取扱
<問い合わせ先>大蔵流狂言善竹会 078-822-3948

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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4件のフィードバック

  1. さおり より:

    ゆげひさん、こんばんは~。
    狂言「花子」はこれまでに2回見たことがあるのですが、
    肝心の謡の言葉が全然把握出来なかったので、
    今度はじっくり、じーーーーっっくり聞こうと思います(笑)

  2. さおりさん、こんばんは。コメントありがとうございます!
    今度で3回目の『花子』ですか。羨ましい!
    繰り返す2度目の「じーーーーっっくり」に
    執念が感じられるますね(笑)
    私も「善竹会 神戸狂言の会」を
    しっかり楽しみたいと思います。

  3. 初心者 より:

    はじめまして。東京で徐々に能・狂言に侵され中の者です。
    茂山千五郎家の狂言が好きで、実演はまだなのですが「花子」はDVDを購入しました。でも謡は難しくて「雰囲気を楽しむ」みたいになっていたのですごくありがたい情報です。
    鑑賞後のレポも楽しみにしてますので、ゼヒ載せてくださいね。

  4. 初心者さん、こんばんは。
    コメントありがとうございます(^^)
    能や狂言って、ズブズブと
    ハマって行ってしまうようなところがありますよね~。
    是非、侵されきって下さい(笑)
    『花子』のDVDなんてあるんですね~。
    確かに『花子』の謡は、これを読むだけでも簡単ではないですよね。
    直接的な表現ではなくて、狂言以前の古典的な言葉を
    踏まえたりして作られている感じを受けますし…。
    当日が楽しみです。いよいよ明後日です!