1998年にNHKで放送された『芸能花舞台』の「至宝 よみがえる観世寿夫」の録画を見ました。シテ方観世流で、「天才」「昭和の世阿弥」と呼ばれた故観世寿夫師(1925-1978)をNHKに保存された映像などを元に、生前を偲ぶ番組でした。
司会は葛西聖司アナウンサー(ちなみに私は葛西さんのファン)。ゲストは、若い頃から観世寿夫師と共に活動をなさってきた野村万作師。ほかに利根川裕さんという方がいて、いろいろと喋ってらっしゃいましたが、私はこの方を存じ上げません。それよりも、生前の寿夫師を近くで見てきた万作師が、もっといろいろ語って下さった方が良かったなぁ(笑)
内容としては、最初に白黒の映像で『猩々乱』が少し。それから『俊寛』の、文を成経から取り上げる場面と、船に乗り込もうとして纜を断ち切られてしまう場面。『井筒』は序之舞が終わって「筒井筒。井筒にかけしまろがたけ」から最後まで。
たったこれだけの映像ですから、ほとんど分からないようなってところですが、私には観世寿夫師の能は「説得力のある演技」だと見えました。説明的なのではありません。説明的な能って面白くないですから。寿夫師が生涯求め続けたという「真に演劇的」な能なのかもしれません。
能以外にもほかの演劇と交流したり、また自ら演じてみたりと、近ごろ野村萬斎師が行われているような活動も、観世寿夫師に始まるんですよね。というわけで、ギリシア悲劇『メディア』でタイトルロールを演じてらっしゃる映像も流されました。能面っぽい仮面をつけて演じられてましたが、これは今でも銕仙会では『殺生石』などに使われることがあるのですよね、確か。
『バッコスの信女』という劇のディオニュソス役の映像も。この映像、実は亡くなられた年である1978年のものなんだとうですが、そんなことは全く感じさせません。でも、相手役の白石加代子さんの演技が一部の隙もなくて、寿夫師より印象的だったり(笑)
映像以外では、万作師が楽しそうに寿夫師のことを語られるのは実に印象的でした。利根川裕さんが「観世寿夫さんはわがままな独裁者タイプではなかったか?」と尋ねたのに対しては、笑いながら「リーダーシップは取った方でした」と誤魔化してらっしゃいましたが(笑)
野村万作師から見た観世寿夫師のことなどは、万作師の著書『太郎冠者を生きる』や、『狂言三人三様 野村万作の巻』にいろいろ書かれています。
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→観世寿夫:雑巾ダイアリー
ゆげひさま、三ヶ月も前の私のダイアリーをひっくり返していただき、有難うございます。あとせめて十年いきていただければ、もっと映像が残ったのに、と思うと残念ですね。1998年といえば、私はまだまだお能に関心を持っていなかった頃なので、そのテレビ映像の存在すら今知りました。伝統芸能全般とオペラ・クラッシックまで好きなのでなかなか難しいですが、これから頑張って追っていきます。
yukari57さん、こんにちは。ブログ検索をしていたら、これは同じビデオのことを言っているのでは?と感じたので、トラックバックさせていただきました。
そうですね。本当に惜しい能役者だったと思います。私も1998年には能や狂言を含めて、舞台芸能の類に全く興味を持っていなかった頃で、もっと早くこの映像を見たかったです。