片山家能装束・能面展

片山家能装束・能面展

 1日は休みだったので、京都文化博物館へ片山家能楽・京舞保存財団の「能装束・能面展」へ行きました。今年は「第十回 回顧展~十年の軌跡~」と題して、過去に人気のあった装束や面が展示されているそうです。私は3年前の催しに一度だけ行ったことがあるだけなので、見覚えのある装束や能面なんてありませんけれど…。

 会場が博物館なので普通の展示室かと思いきや立派な畳張りの和室で、装束や面の前に正座してゆっくり対面することもできるのが良いですよね。毎日、何度も解説が行われますが、今回も3年前の時も片山九郎右衛門師自らの解説に当たりました。しかも無料! 片山家って太っ腹です。

 しかし、こういうところに行くと毎回感じるのは…私って、つくづく芸術とか美術オンチだな、ということ。装束にしろ能面にしろ、興味がある割に「綺麗でした」「渋いです」程度しか言えなくて、それ以上の鑑賞は苦手。

 実物よりもむしろ、廊下に並べてあった片山九郎右衛門師の演能写真を見て、「あ、あの装束がここに使われてる!なるほど~」と能の曲と関連付けたり、もしくは「萌葱地蜻蛉懺法法被」のように、その装束の由来に関するエピソードがあって初めて興味を持てるタチなんですよね。

「萌葱地蜻蛉懺法法被」
 室町八代将軍・足利義政が、三世観世大夫・音阿弥に賜った袈裟を能装束に仕立てたもので、観世宗家では『朝長』に「懺法」の小書が付いた時にのみ使われる。片山家のものは写し。

 「赤地松皮菱唐花袷法被」なんて真っ赤で派手なんですが、老武者が主人公である『実盛』に使ったりするそうで。それは謡に「赤地の錦の直垂を」とあるから。老武者であるからこそ、若々しい装束を見につけるんですね。

 元々平安古典の世界が好きな私には、能装束には珍しい直衣(萌葱地武田菱地紋直衣)も楽しく拝見しました。『融』、もしくは『鷺』の王などで高貴な役で使うということです。

 能装束の場合、貴族の扮装に狩衣を使うのが普通ですが、本来狩衣は名前の通り、狩の時に着るスポーツウェアで略装。直衣の方が一つ上の装束です(もっとも直衣も略装…。正装は衣冠や束帯)。元は光格天皇(在位1779-1817)の御衣だったという言い伝えがあるそうで、後ろに裾が長くあったらしいですが、能装束としては舞の邪魔になるために切り落としてあるとか。

 能面は今回は女面ばかり。女面が人気があるのはなんとなく分かりますが、激しい造形の鬼面好きにはちょっと残念でした。一つだけ参考として出品されていた「飛出」の面は、飛出にしてはおとなしい形。名前の由来である目もあまり飛び出ていませんし。なんとなく「怪士」に近いような…。

 というと! もしかして去年のTTR能プロジェクト公演『船弁慶』の後シテに片山清司師が使われていた「飛出」の面ってこれなのでしょうか? ちょっと変わってると感じたものの、とってもお似合いでしたので印象に残っている面です。約1年ぶりの再会で、嬉しくなってしまいました。

 あと展示されていた仕舞扇の絵を描いた画家・入江波光さんについて、九郎右衛門師が戦前、河原町丸太町にあった旧京都観世能楽堂の鏡板の老松がどうも良くない、その内描き直そうと洋画家の須田国太郎さんと話されていたのに、その前に強制疎開の命令が出て能楽堂が取り壊されてしまった、というエピソードを紹介されていたのが心に残っています。須田国太郎さんの名前が出て来たのがちょっと嬉しかったり(笑)

 片山家は京舞井上流の家元でもあるので、井上流の舞扇も少し展示されていましたが、上村松篁さんと息子・淳之さんによる絵のもの。私が大好きな上村松園さんの絵がないのは少し残念でしたけど(笑) 「上村松園」「須田国太郎」という、自ら能を習い、また能を題材にした絵を残されている近代京都の画家お二人の名前に弱い最近です。

 入り口のところでは先着100名限定で特製プリクラや能面シールが売られていました。ちょっと興味はあったけれど…やっぱりやれないとそのまま直帰です(笑)


 片山家の「能装束・能面展」を見終わった後、次の用事まで少し余裕があったので、下の階で特別展「北斎と広重」展に行きました。『冨嶽三十六景』や『東海道五十三次』といった超有名な浮世絵が展示されてましたが…なぜか「江戸の誘惑」展ほどの衝撃は受けなかったです…。やっぱり美術系の友人と一緒に行かなきゃダメなのか、私?(苦笑) 『京都名所之内』『浪花名所図会』は少し楽しみましたけれど(←つくづく関西好き)。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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10件のフィードバック

  1. BACKYARD より:

    あ1日にいかれたのですねぇ・・・
    あの「飛出」はやはり 『船弁慶』に使われた「飛出」だったのですよねぇ。何方かのブログで 読んだような 記憶があったので そうかなぁ と思っていたのですが・・・TTRの公演は拝見できなかったものですから、「飛出」と書いてあったし 確か「船弁慶」やから私の記憶違いとおもっていましたが、「飛出」どちらかというと 怪士のようやなぁと あれだけの剥落にもかかわらず すごい存在感だったのでず~と気になっておりました。「ダビンチコード」さながらの墨書きあるしねぇ・・・
    あれだけの女面のなかに 一面だけ 片山清氏の思い入れ 十分伝わってきました。 これで すっきり いたしました。ありがとうございました。
     

  2. 行ってきました。片山家の虫干し Part 1

    8月1.2.3日は京都の片山家の虫干し・・・

     携帯で パチリ 

    なんか 不覚にも デジカメ 充電きれてました。

    行くなら 2日でしょう 切畑 健先生のお話 と~っても Interesting 
    ( i にアクセント

  3. ami より:

    私は3日に参りました
    その時には飛出は無かったように存じました
    能面の解説は清司先生がなさっておいででした
    ご性格そのままの解説でございました
    一日は九郎右衛門先生自らお出ましだったのですね
    すばらしいですね
    生のエピソ-ドなどはめったにお聞きできないですし
    ゆげひ様のお心がけがよいせいだと・・・
     (私は清司先生のファンクラブですから
       もちろん清司先生でうれしく存じましたが)

  4. ももたろ より:

    あの飛出、あそこまで彩色が剥落していながらも現役で舞台に使用されるとは…驚きです。
    今回展示されていた飛出はもともと「天神」の面として使われていたのを彩色し直していると解説されていましたので、飛出っぽく見えないのは、ある意味自然なのかもしれません。
    装束にも、そのようなエピソードがたくさんあったんですね。
    もう一度、改めて見に行きたい気分です(笑)
    それと、私も上村松園好きです。
    能に関わる絵もたくさんあって興味深いです。

  5. 挿頭花 より:

    こんにちは、柏木さん。
    1日に京都へ行こうと思っていたのですが、都合がつかなくなり、断念しました。
    片山九郎右衛門さん直々の解説、聞いてみたかったのに、残念です。
    (そしてもしかしたら柏木さんと遭遇できたかも、というのも残念。)
    それにしても特製プリクラって・・・どういうデザインなんでしょ?
    やってみたらよかったのに。(笑)

  6. BACKYARD より:

    ももたろう様 唐突で申し訳ありません。
    「今回展示されていた飛出はもともと「天神」の面として使われていたのを彩色し直していると解説されていました」とは  彩色し直しているのですか。びっくりです。ちょっと遅れていったので そこの解説聞きのがしました。

  7. ★BACKYARDさん
    私が参ったのは1日です。切畑健教授の講演も聞きたかったのですが、
    休みを取れたのは1日だけでしたので。
    去年のTTR能プロジェクト公演『船弁慶』に使われた面だったのかな、
    というのは私の想像です。たぶん、だと思うんですけれど…。
    『ダ・ヴィンチ・コード』さながらの墨書き?
    映画も本も触れてませんし、墨書きの話も全然知りません。
    教えてくださいよ~。
    ★amiさん
    1日にも片山清司師が着流しで会場を歩いてらっしゃいましたよ。
    小学生ぐらいの子を連れてきたお母さんが、
    母子で扇を見入っていたら、清司師が扇の話してらっしゃったりとか。
    別に九郎右衛門師と、清司師とどちらかだけの
    ファンでなければならないわけではありませんし(笑)
    むしろ、九郎右衛門師のお能って、前回見た『実盛』
    (大槻能楽堂自主公演・2005/11/4)で初めて良いなぁ、と
    感じた、大バカモノです、私は(笑)
    ★ももたろさん
    ちょっと当時、ネット上の某所で話題になったので、
    もう一度読み直してみたのですが、本面が舞台で使われた
    ようです。私が見たのは大阪能楽会館で催された
    TTR能プロジェクト公演『船弁慶』(2005/09/09)ですが、
    その月に、京都観世会館で催された
    京都観世会例会『鵺-白頭』(2005/09/25)にも使われていたそうです。
    「天神」の面として使われていた…。
    「飛出」と「天神」って全然違う感じもするんですが(笑)
    「天神」は『船弁慶』で使うこともあるんですよね、確か。
    エピソード好きなので(笑) 『猩々』用の「紅地菊水唐織」は
    今は能楽師の体格がよくなってしまったので、
    九郎右衛門師ぐらいしか使われないなんて話もありました(笑)
    上村松園さん、良いですよね~。高校生の頃、
    画集で『花がたみ』を見て、「一目惚れ」してしまったんです。
    後で能を好きになってから「あの絵って能の『花筐』に
    由来するんだ!」と知って、もっと好きになりました。
    去年、学園前の松伯美術館で、本物に出会えて良かったです。
    ★挿頭花さん
    今日書きましたけれど、1日にはせぬひまメンバーによる
    『井筒』もありましたしねぇ~。
    どうしても芸術・美術オンチという思いがあるので、
    能装束・能面展って、ついでがあればともかく、
    なかなか足が重いのですけれど、行って良かったです。
    特製プリクラのデザイン…どんなのだったかな?
    あまり良く見てなかったので。
    2日に行きはったももたろさんは撮られたようなので
    もし良ければ、教えてください(笑)>ももたろさん

  8. ももたろ より:

    お言葉に甘えまして、何度もおじゃまします。
    BACKYARDさん
    わざわざコメントありがとうございます。
    私は、面打師の方の解説を拝聴いたしました。
    解説後、よくよく見てみましたがもはや飛出にも天神にも見えませんでした(笑)
    昔は流動的な使い方をしていたことを物語る面ですね。
    挿頭花さん、ゆげひさん
    プリクラといいましても、実際には椅子に座って写真を撮り、その写真をパソコン上でプリクラ風にフレームに合成し、印刷されていました。
    中啓や装束の文様、今回のチラシ、孫次郎と飛出、など全部で5種類のフレーム、そこに自分の顔が一枚ずつはめ込まれます(^^;)
    見本には、清司氏と九郎右衛門氏が仲良くツーショットで写ってましたよ!
    むしろこのプリクラが欲しかったです(笑)
    以上、ご報告まで(^^)

  9. 挿頭花 より:

    ももたろさん、ありがとうございます。
    ピンクのピラピラしたカーテンの中で写すのじゃないんですね。(笑)
    >見本には、清司氏と九郎右衛門氏が仲良くツーショットで写ってましたよ!
    確かに、そちらの方が欲しいです。
    それにしても、お二人の撮影風景が“あの”プリクラの中だと想像してしまいました・・・分かってるんですけど。(笑)

  10. 私は見本をチラリと見ただけだったので、
    清司氏と九郎右衛門氏の横とか間に、
    顔が入るのかなと勝手に思ってました(笑)