若手能 能楽若手研究会 大阪公演 第一日
◆1月21日(土)13時~ 於・大槻能楽堂
さて2日経ちましたが、若手能の1日目の感想です。紅緒さんのサイト「桜花抄」のBBSで、若手能公式サイトにてチケットプレゼントの企画があることを知り、急いで申し込んだら当たってしまいました! 今月は幸運にもいただきもののチケットで見に行く能会が多いです。ありがたや、ありがたや。
ペアチケットだったので、急遽、能楽部の後輩に電話をかけて誘います。「先輩、僕以外を誘われました?」 やかましい ペアチケットで男2人というのが寂しいことぐらい分かってますが、他にとっさに誘える相手を思いつかなかったんだよ(笑) ともかくも、チケットを無駄にせずに済んで良かったです。
★喜多流能『高砂』
前シテ(尉)/後シテ(住吉明神)=高林呻二
ツレ(姥)=佐々木多門
ワキ(阿蘇宮神主友成)=福王和幸
ワキツレ(友成の従者)=江崎敬三・喜多雅人
アイ(高砂の浦人)=小笠原匡
笛=田中義和 小鼓=荒木建作 大鼓=大倉慶乃助 太鼓=三島卓
地頭=狩野了一
最初は能『高砂』。真之次第で、勢い良くワキ福王和幸師が狩衣の袖を翻して登場。「今を始めの旅衣。日も行く末ぞ久しき」 思わず「委員長推参!」と心の中で叫んでしまいました(←絶っ対紅緒さんの影響だ・笑)。
喜多流はあまり観ない流派ですが、地謡が力強くて聞いていてとても気持ちが良かったです。特にクセ。謡がしっかりしていると、シテの少ししかない型もより生きてくるということを確認するかのような舞台でした。若手能の最初を寿ぐ気持ちの良い舞台。派手なはずの後場は、囃子もシテもちょっとズレ気味だった気がしますが…。
★金春流舞囃子『項羽』
シテ(項羽)=金春穂高 地頭=佐藤俊之
笛=斉藤敦 小鼓=古田知英 大鼓=山本哲也 太鼓=上田慎也
続いて舞囃子『項羽』。初めて見る曲です。舞働で、手に持った矛で身投げした虞美人の遺体を捜している(のかな?)演技が面白かったですが、地謡の声が小さくて、あまり何を謡っているのか分かりませんでした。地頭が好きな佐藤俊之師だっただけに残念。
★大蔵流狂言『鏡男』
シテ(夫)=善竹隆司
アド(妻)=善竹隆平
『項羽』の囃子方が舞台に残って、次第を囃して始まった『鏡男』。その言葉は「嬉しき帰る故郷に。急いで妻子(めこ)に会おうよ」。妻想いの男の心が表れてますね。話としては、京都から故郷に帰る夫が妻のみやげに鏡を買うのですが、鏡を知らない妻は鏡に写った自分の姿を見て「都から女を連れて帰ってきた」と怒ってしまうというもの。昔話的で、微笑ましい。夫役の善竹隆司師が普段以上に堂々とした演技で好演でした。
★観世流能『清経』
シテ(平清経の霊)=井戸良祐
ツレ(清経の妻)=山下麻乃
ワキ(淡津三郎)=御厨誠吾
笛=野口亮 小鼓=久田陽春子 大鼓=辻雅之
地頭=上野雄三
最後が能『清経』。最期は一緒と誓いあっても、場所と時を違え、お互い分かりあえなくなってしまった夫婦を描いた能です。妻が「御代の境や一門の。果てをも見ずして徒らに。御身一人を捨てし事。誠に由なき事ならずや」というように、一緒にいた平家一門を見捨てて清経一人だけが逃げるかのように死んだことは、情けないし無責任だと思います。
でも、戦では敗れ続け、そして神にも仏にも見捨てられた。この世の見納めとばかりに「西に傾く月を見ればいざや我も連れんと。南無阿弥陀仏。弥陀如来。迎えさせ給へと。ただ一声を最期にて。舟よりかっぱと落ち汐の。底の水屑と沈み行く。憂き身の果てぞ悲しき」 美し過ぎる死に様です。同じ「少し夢見がちな男」(笑)として、私は清経の絶望に思わず同調してしまい涙が出そうでした。
最後は「まことは最期の十念乱れぬ御法の船に。頼みしままに。疑いもなくげにも心は。清経が仏果を得しこそありがたけれ」 死ぬ直前に唱えた十度の念仏(十念)のおかげで、疑いもなく成仏した、ありがたい、と言って平清経の霊は消えますが、では残された妻は? 一人自己完結して成仏してしまう男と、これからも生き続ける女。愛し合っているはずなんですけど、最後まで分かり合えない悲しさが残るように感じます。井戸良祐師のシテを拝見するのは2度目ですが、私の好みと波長が合うらしく、見ていて楽しいです。
舞台終了後、ロビーにて、今日出演されていた若手能メンバーが「アンケート回収にご協力ください~」と呼びかけ。こりゃ協力しないわけには行きません。というわけで、書いて提出です。楽しい若手能第一日でした。次の日も、今度は自分の買ったチケットを握り締めて、また若手能です。ああ、能楽三昧(笑)
かなりマニアックな話。最近読んだ本に狂言『鏡男』のことについて、古くは『松山鏡』と書いている場合があるということが載ってましたが、今回、善竹隆司師が「さすがは松の山家の者じゃ」というセリフを仰っていて納得。夫婦の住んでいる土地名なんですね。新潟県十日町市松之山には能『松山鏡』ゆかりの史跡があるんですが、鏡の不思議を扱った共通点から関係ありようですね。
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→めぐりめぐるや:颯々の聲ぞ楽しむ
ご紹介&コメントありがとうございます!
この記事を読んで「そういう言葉を言ってたんだなぁ」とあらためて知りました
特に『清経』は観る前に知ってたらもっと感情移入できたなぁと思います
私は妻の態度が「許さないわよ!ばかやろー」的でかっこよかったですね(笑)
「若手能」大阪公演を観に行きました!
先週の土曜日の1月21日に能を初めて観に行きました!場所…大槻能楽堂
色んな意味で衝撃的でしたねぇ
能と狂言を観に行きたいと思い出したのは、はるかさかのぼって朝の連ドラ「あぐり」でエイスケさん役を
chat1996さん、コメントありがとうございます。
能の謡は言葉であると同時に音楽ですので、
聞き取るにはある程度の慣れが必要なのが、
初心者には優しくない部分ですね(^^;)
妻はどこまでも清経の弁明に食ってかかるんですよね。
それが『清経』の良いところなんですけれど(^^)
『清経』には「恋之音取」という、
清経の霊の登場の時に笛の独奏になって、
その音に引かれるように歩んでは笛が途切れると止まる、
という演出が入る場合があります。
より効果の深まるステキな演出なので、機会があれば
是非ご覧になってください(^^)
「委員長推参!」ですか!!(笑)きっと私の魂が少しゆげひさんの中にお邪魔したのかもしれません(^^)『高砂』の登場の仕方はいかにも「オレが若手能委員長だ~ッ!!」くらいの勢いを感じられます。いいな~。見たかったな~・・・
こんにちは。はじめまして。
東 月彦と申します。
時おり、私どものブログに訪問していただいているようで、ありがとうございます。
前々からコメントさせていただこうと思っていたのですが、自分の小説を書くのに手一杯
でご挨拶が遅れました。
今後とも、宜しくお願いいたします。
また遊びに来ます。
★紅緒さん
さすが紅緒さんです。海山を越えて、魂で若手能にいらっしゃるとは(笑)
なんといっても、ワキはシテに先駆けて登場しますからね。
「オレの登場が本当の若手能開演ッ!」って言っているかのような
印象がありました(笑)
★東月彦さん
"能楽"のブログ検索で、時々拝見しております。
こちらこそ宜しくお願いいたします。