今日は狂言方大蔵流の善竹忠重師が率いる「志芸の会」の「新春を寿ぐ『翁』と狂言の会」に行って来ました。この会は毎年行ってますが、狂言方主催の会だけにシテ方各流の『翁』が見られるのが嬉しいです。最初に見たときが金剛流で、その後観世→宝生→喜多と来て、今年の金春流で全流派制覇してしまいました(笑)
『翁』を見るんだし新年だし、と着物で出かけたところ、和装来場者のみ対象の福引がありました。「24番です」と受付の人に番号を伝えると「あ、それがたぶん一番良いものですよ」と言われて渡された封筒を開くと…来週の「神戸新春能」のチケット! うわー来週も神戸で能楽鑑賞です。着物を着て行って良かったなぁ
新春を寿ぐ『翁』と狂言の会
◆1月9日(祝)14時~ 於・湊川神社神能殿(神戸市中央区)
★金春流『翁』
翁=金春穂高
三番三=前川吉也
千歳=牟田素之
笛=野口亮 小鼓=荒木建作・清水晧祐・上田敦史 大鼓=辻雅之
地頭=金春安明
★大蔵流狂言『鎧』
シテ(太郎冠者)=善竹忠亮
アド(果報者)=茂山忠三郎
アド(都人)=稲田裕
★大蔵流狂言『大黒連歌』
シテ(大黒天)=善竹忠重
アド(参詣人)=徳田知道・尾鍋智史
地頭=善竹忠亮
生では初めて見る金春流の『翁』。翁太夫それぞれの芸風にも拠るんでしょうけれど、洗練された(綺麗に整理されてしまった)感じの観世流と比べると、民俗的で”土”を感じるなぁ、という印象を受けました。金春流は全体的に古風だと言いますけれど…。
あと、翁太夫の前に面箱を置いて紐を解くまでは千歳がしたのですが、箱の中から翁面を取り出すのは翁太夫がしたことので、おおっ!と思ってしまいました。…これって今まで見たのは全部千歳(面箱持)がやっていたように思うんですけれど?
やはり『翁』は見るたびに好きになりますね。翁渡りの厳粛なムードなど、他の能では味わえないものがありますし。金春流では最も好きな能楽師である佐藤俊之師の素袍姿を拝見できたのも嬉しいです。素袍姿で腕を交差させて座っている姿もステキ(←これは完全に理性が飛んでますな)
★大蔵流狂言『鎧』
鎧比べがあるので、果報者は太郎冠者に「鎧」を求めてこいと命じます。しかし、時は太平の世。都に上った太郎冠者は「鎧」というものを知らず、都人に「鎧について書いた書物」を「鎧」だとまんまと騙されてしまいます。さらに太郎冠者が「おどす物」もあると聞いたというと、都人は「武悪」の面を入った葛桶を渡します。屋敷に戻った太郎冠者は、「鎧」の内容を聞きたいと請う果報者の前で床机に座って読み上げ、さらに「おどす物」があるかと聞かれると、面を付けて果報者を脅しますが、主人に面を取られてしまうのでした。
この太郎冠者は有能な使用人で、果報者には深く信頼されているんでしょうね。最初に果報者が「鎧はあるか」と聞くと、太郎冠者は「鎧は存じません」と答える。すると果報者は太郎冠者が知らないのだから、ないのだろうと判断します。実は太郎冠者は「鎧というものを知らない」ので、もしかしたら、あるのかも知れないのに(笑) 帰って来た時にも果報者は「有能な者を使うと、すぐに何でも整う」といったことをいいます。いかに信頼が厚いか分かるってものです。
ところがその太郎冠者が鎧だと差し出すのは紙切れ(笑) さすがに果報者も妙な顔をします。それでも都みやげに子どもの手習いの手本を持って帰って来たのだろう、と善意的に解釈。良い主人ですよね~。それにこの果報者、ぼんやりとでしょうが「鎧」がどんなものであるかを知っているような気がします。
しかし太郎冠者が紙切れを大事そうに抱えたり、自信満々に鎧だと言い張っていく様子を見ている間に、「この太郎冠者が鎧というのだから」と、だんだんその紙切れこそ鎧ではないかと思ってしまいます(笑) 偉い「鎧」を読み上げるのだからと、太郎冠者が偉そうに床机に腰を掛け、主人である果報者が下にいる絵には思わず笑ってしまいますね。初めは立っているのですが、鎧の代理人と化した太郎冠者に「高い」と言われて、慌てて下に座ります。
このあたりから太郎冠者の態度がだんだん大きくなり、最後には武悪の面をかけて「いでくらおう」と鬼の真似をして主人を追い回します。それは「おどす」違いだってば(笑) 鎧で「おどす」といえば「縅す」と書いて、鉄・革で作った小板を革や糸でつづり合わせていること。それを「脅す」と勘違いしているとはいえ、こんなに良い主人なんですからもっと大切にしようね、太郎冠者(笑)
果報者を演じられた茂山忠三郎師。いかにも人の良さそうな雰囲気で、良かったです。最初の「これはこのあたりに住む大果報の者でござる」と名乗っただけで、そんな感じがしてしまうのはまさに芸力なんでしょうね…。今どんどんと実力を付けてらっしゃる善竹忠亮師も、有能だけどちょっと才走っている感じの太郎冠者が似合ってました。本当に好演でした。
★大蔵流狂言『大黒連歌』
いつもの連歌の仲間2人が比叡山の大黒天にお参りをします。「あらたまの年の初めに大黒の」「信ずるものに福ぞ賜はる」と連歌を詠んでいると、御殿の内が振動し、異香薫じて、大黒天が姿を現します。大黒天は自らの由来を語り、詠んだ連歌の面白さを褒め、宝を入れた袋や打出の小槌を参詣人に与えて、謡い舞いながら再び戻るのでした。
新年にふさわしい狂言でした。ニコニコとした表情の面をかけ、左手に宝の入った袋・右手に打出の小槌を持った姿で、ちょこちょこっと歩く大黒天がとても可愛らしかったです。親しみ易い庶民派の神さまって感じ? 去年の善竹兄弟狂言会の『禰宜山伏』でも、善竹忠亮師が演じた大黒天はちょこちょこ歩いてましたから、あれが「大黒天の歩き方」なんでしょうね。
ただ大黒天の登場の場面が、セリフがなくなってから幕が開き、橋掛りで名乗るまでシーンとしているのは少し寂しい感じ。本来は囃子による登場楽の演奏が入っていたのではないでしょうか。だとすれば囃子入りで見たかったですね。『翁』のために囃子方を呼んでいたことですし。
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→鑑能メモ:志芸の会公演 第七回 新春を寿ぐ「翁」と「狂言」の会
まあ、それはそれは新春早々縁起のよいことでしたね!おめでとうございます。今年もたくさんのいい舞台に出会えますように。
こんばんは、本年もよろしくお願いします。
さて、私もこの会に行っておりました!
だいたいが「下掛り」の流儀が好きなもので、
元日のNHKに続いての金春の「翁」楽しみました。
忠三郎先生、素敵ですねぇ。「存在が狂言」という点では
千作先生と双璧だと個人的に思いますです。このお二人が
共演されると幸せな気分になります・・・。
★peacemamさん
新春早々ラッキーです。
最近、チケットがあたったとか少し増えてきて嬉しいばかりです。
今年もいろんな舞台を見ていきたいものです。
★三楽亭さん
下掛りがお好きなんですね。私はやはり観世流でしょうか。
もっとも流派で、というより、あくまで演者個々を好むって感じですけれど。
茂山忠三郎師、良いですよね~。
千五郎家みたいに派手ではないですけれど、
穏やかな雰囲気が大好きです。
狂言鑑賞ファンの一人です。
楽しい鑑賞記今後も待っていますね。
関東の「狂言の淵」になりたい太郎冠者より。
言い忘れてました。
今月の「文楽初春公演」。
第二部に「寿式三番叟」が出ています。
能「翁」を義太夫化してものです。装置は
すっかり能舞台です。
翁・千歳に三番叟が二人。
三味線の迫力、翁の荘重、千歳の颯爽そして
三番叟の躍動と、「翁」を見事に文楽に写し
ています。
是非ご覧下さい。
★春狂さん
初めまして。ブログ拝見しました。
正月からいろいろ見に行ってらっしゃるようですね。
(それは私も同じか(笑))
能と狂言と、600年の昔から一緒に発展してきた芸能ですし、
互いに影響もありますから一緒に楽しんだらより深いですよ(^^)
★三楽亭さん
文楽の『寿式三番叟』、もちろんチェックしてます(笑)
写真を見る限り、見事に『翁』そっくりですし、
『翁』好きな私にはたまりません。
余裕があれば見に行きたいと思ってます…という間に
あと1週間切ってますね。見るなら急がねば!
★七尾さん
コメントありがとうございます。
しかし、この記事に対するコメントというわけではないようですので、
勝手ではありますが、本館サイトの掲示板に移動させていただきますね。
http://funabenkei.daa.jp/bbs.html