斎宮と能『絵馬』

斎宮絵馬辻

 さて、斎宮に行ってきたのですが、この斎宮。能『絵馬』の舞台となっていて、能楽とも関わりのある土地なのです。ワキの臣下が勅使として伊勢神宮に詣でるのですが、その途中で斎宮に寄ると、日照りを占う白絵馬を持った老人(シテ)と、雨を占う黒絵馬を持った姥(ツレ)に出会って能が始まるのです。

ワキ「急ぎ候ほどに。これははや勢州斎宮に着きて候。今夜は節分にて。この所に絵馬を掛くると申し候間。今夜はこの所に逗留し。絵馬を掛くる者を見ばやと存じ候

 実際、斎宮は参宮街道の途中にあって、平安時代には伊勢神宮へ行く勅使は斎宮にも立ち寄るのが例だったようです。参宮街道が斎宮の東端と重なるところに、かつて絵馬堂があって、大晦日にその絵馬堂の絵馬をアマテラスが掛け変えて明年の吉凶を占うという伝承があることは『伊勢参宮名所図会』にも載っています。


竹神社

 その絵馬堂があった箇所を「斎宮絵馬の辻」と呼び、南北にエンマ川という小さな水路が流れていますが、エンマ川の名は「絵馬」川が転じたと言われています。確か喜多流では能『絵馬』の曲名を「えんま」と読むという話を思い出しました。

 この絵馬堂の伝承の由来ははっきりしませんが、かつて斎王が伊勢神宮に参宮する際には斎宮の東端で祓をすることになっていました。もしかしたら、そのことが斎宮が南北朝時代に廃絶した後にも、東端が特殊な空間として伝えられるきっかけになったのかもしれませんね。

 絵馬堂自体は明治の終わりまであったそうですが廃され、後、建物が腐朽したため焼却されたそうです。中に掛けられていた絵馬は、近くにある竹神社に寄贈され、神宝として奉られているといいます。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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