勝手神社

勝手神社

住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山

 最近すっかりどこかへ行くと、その近くの能ゆかりの場所を訪ねるのがクセになっています(^^;) というわけで吉野で行ってきた場所です。金峯山寺蔵王堂は前に行ったことがあるので、今回は勝手神社。

 勝手神社は金峯山の入り口にあるため「吉野山口神社」とも呼ばれる古社です。能でも『嵐山』などで、「子守勝手」と吉野水分神社(=子守明神)と何度も並び称されていますが、「勝手」という名前から分かるように、戦勝祈願の神として信仰を集めていたそうです。

 勝手神社の背後の山を袖振山といいますがこの名前は、壬申の乱で吉野に逃げ籠もった大海人皇子(後の天武天皇)が勝手明神に戦勝を祈りつつ琴を奏でていると、背後の山からにわかに五色の雲が湧き、天女が現れて衣の袖を振って舞を舞ったという故事に由来します。後に、宮中で舞われた五節舞は天武天皇が吉野で見た天女の舞を元にしたといわれ、ここから芸事の神ともされ、吉野猿楽による奉納もよく行われたようですね。

 能でいうと『国栖』の後ツレの舞ですね(子方・浄御原天皇=天武天皇)。ちょうど、「しかも所は月雪の。三吉野なれや花鳥の。色音によりて音楽の。呂律の調め琴の音に。嶺の松風通ひ来る。天つ少女の返す袖。五節のはじめ・これなれや」と謡にありますし。


勝手神社舞塚

 また、義経と別れた静御前が山中でさまよっているところを、追手の吉野山の衆徒に捕らえられ、この勝手神社の社殿で舞ったところ、衆徒たちを感嘆させたという言い伝えがあり、その名残だという舞塚が境内にあります。少し話は違いますが、『吉野静』の話だと考えて良いと思います。

 同じ静御前関連の能である『二人静』も、勝手神社の若菜摘神事から始まりますし、さらに静の舞装束が勝手神社に納められているとありますから、静御前と勝手神社の縁は深いようですね。

 こう見ると、勝手神社は、吉野猿楽による奉納もあり、また『国栖』『吉野静』『二人静』と舞台となっている能の曲も多く、関わりの深い神社なんだな~と感じますね。境内に謡曲史跡保存会の立て札もありましたし。五節舞の故事から『吉野天人』の謡曲史跡としてでしたけれど。観世流にしかない曲ですが、能『吉野天人』は天女が五節舞を再現して舞うという筋立ての能です。

 ところで、この神社の社殿はかつては「豊富秀頼」(豊臣?)が改修したものだったそうですが、江戸時代に二度焼けてしまい、その後の再建となっていたそうです。しかし、2001年9月27日になんと放火され焼失、現在社殿がない状態となってしまってます。

 …歴史やっている人間として、こういう人為的な文化財の破壊って許せないです。現在は神体だけを隣の吉水神社に移してあり、そちらで再建の寄付を募っています。もし吉野を訪れられる方は是非。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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6件のフィードバック

  1. peacemam より:

    そちらは「ゆかりの地」が多くていいですよねえ。お能だけでなく歴史も豊かですし。私は若い頃から「歴史を絡めた」旅行が好きでしたが、京都の友だちなどは「ちょっとお出かけ」でそういう場所がたくさんあるので実に羨ましいと思っています。

  2. 勝手神社のトラックバック、有り難うございました。
    吉野の国宝を訪ねてでは、好天気に恵まれ、また交通も
    予定していた吉野群芳園バス停に戻らずに、下り一方で
    済み、高齢者一同80名が楽をできました。

  3. ★peacemamさん
    京都や奈良周辺に住んでいたら、もっと
    気楽に出かけることができるのですけれどね。
    でも、逆に近いと出かけないのかも、と思って
    小旅行で行ける範囲にたくさんの「ゆかりの地」が
    あるのは嬉しいことだと考えています。
    ★なべちゃんさん
    コメントありがとうございます~。
    吉野には、ほかにもいろいろな国宝などがあるのですね。
    もっと見てみたいものです。

  4. ι より:

    吉野 勝手神社

     奈良県吉野郡吉野町にある吉野山には、役小角、大海人皇子、南北朝の歴史、太閤の花見などの他に、義経関係の史跡も少なからずあります。
     この鳥居は、中千本にある勝手神社の鳥居です。ここは、義経というよりはその愛妾であった静御前という方が舞を舞った事で知

  5. 暇人 より:

    近く吉野へ行く予定です。
    勿論、勝手神社を参詣し『二人静』を感じたいと思います。
    ところで、『嵐山』の子守勝手は分かりますが、蔵王権現は如意輪寺の金剛蔵王権現でしょうか。
    それとも、金峯山寺本尊の蔵王大権現でしょうか。

  6. 柏木ゆげひ より:

    暇人さん、こんにちは。
    コメントありがとうございます。
    蔵王権現に関してですが、具体的にどこの寺にある像で
    あると限定する必要はないのではないでしょうか。
    仏像はあくまで仏の像に過ぎないわけで、
    仏自体は一体でしょう。
    それでも、敢えてどの寺の蔵王権現像がふさわしいかと
    考えるのでしたら、子守の神とされた吉野水分神社は
    かつては修験道の霊場のひとつであって、
    金峯山寺に属していたと聞きますから、
    金峯山寺の蔵王権現像がふさわしいのではないでしょうか。
    3体ございますけれどね(^^;)