布引の滝

 松風村雨堂を最後に須磨を離れ、神戸の中心地・三宮へ移動。実はこの後、神戸女子大学古典芸能研究センターへ行って、能や狂言の資料を物色するつもりでした。しかし、JR須磨駅に降り立った時に地図を見て「須磨浦公園の敦盛塚ってそんなに遠くないみたいだし、行こうかな?」と、良い天気にも誘われて行ったのが間違いの元。

 途中で安徳宮への案内を見つけたりと更に寄り道を重ね、三宮に着いた時には研究センターの閉館時間まであまり時間がないという状態になってしまいました(苦笑) 気ままな行きあたりばったりの行動はとても楽しかったですが、予定の行動がこなせないという代償もしっかり。というわけで研究センターはあきらめて、代わりに布引の滝へ向かったのでした。

 松風・村雨姉妹との恋話の主人公・在原行平。行平と神戸といえば、ほかに『伊勢物語』に布引の滝を訪れる話があったという記憶がかすかにあったのです。布引の滝は名前しか知らなかったので良い機会だと思ったのです。

 『伊勢物語』と同時に、『神戸在住』4巻収録の32話「夏でも秋でもないある日のこと」の冒頭、主人公たちが布引の滝を見下ろす茶屋で話してるシーンを思い出したってのもあるんですけれどね(笑) 私ってつくづくマンガ好きです。

 布引の滝は、新幹線の新神戸駅から裏側へ少し入ったところにあります。神戸の中心地といって良い場所なんですが、急に景色が変わって辺りは自然しか見えなくなります。下流から雌滝・鼓ヶ滝・夫婦滝・雄滝という4つの滝があって、その総称が「布引の滝」なのです。

 入るとサーッという水音が少しずつ大きくなってきます。雌滝までは平坦な道なのですが、その後、ちょっと急な階段を登ります。夫婦滝・鼓ヶ滝を横目に見ながら最奥の雄滝へ。

布引の瀧(1)

住所:神戸市中央区葺合町

 雄滝の前に出ると視界が開け、思わず圧倒されました。音も今までとは段違いに大きいです。例えて書けばドーッとかダーッなんですが…とにかく圧倒されました! 文章力がなくてすみません。せめて写真を載せておきます。

布引の瀧(2)
布引の瀧(3)

 思わず『翁』や『安宅』にある「鳴るは滝の水」という謡を思い出しました。ああいった演目のスケールの大きさって、人の及ばないところにある自然の大きさから来ているのかな、なんて思いました。続く「日は照るとも。たえずとうたり」の「とうたり」も滝の音に由来するなんて話もありますが、この雄滝を前にすると納得してしまいそうです。

 雄滝の水は六段に折れながら滝壷に落ちてますが、その段ごとに、水がえぐった穴が開いています。その穴には乙姫が住んでいて、龍神となって海へ出かけ、多くの船を守ったという言い伝えなども。布引の滝が白く見えるのは、乙姫様の着る衣が水にさらされているからだともいわれ、多くの和歌に詠まれています。

在原行平歌碑

 雄滝の近くに行平の歌碑もありました。

 こきちらす滝の白玉ひろいおきて 世のうき時の波だにぞかる

 『古今和歌集』の922「布引の滝にてよめる 在原行平朝臣」という和歌です。『伊勢物語』には「我が世をば今日か明日かと待つかひの なみだの滝といづれ高けむ」とあり、どうも行平にとっては布引の滝は身の不遇を連想するものだったようですね…。

 在原氏は平城天皇の孫という高貴な血筋ですが、政治的には藤原氏の躍進の時期でもあり、不遇でした。そのことが反映しているのかもしれません。一説には須磨での松風・村雨姉妹との別れを述懐する和歌という話もありますが…私は後になって作られた話のように感じます。

 滝はレナード現象といって、マイナスイオンが大量に発生しているんでしたっけ? 詳しいことは分からないですが、とても気持ちの良い場所でした。また来たいものです。今度は上の方にある布引ハーブ園も合わせて。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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2件のフィードバック

  1. さおり より:

    はぁ~、気持ちよさそう!
    マイナスイオンが、こちらにも伝わってきています(笑)
    神戸シリーズ、とても楽しく読ませて頂きました。
    ほんとに、地元のことなのに全然知らないことばかり。
    「おもしろいこと」って、案外近くにゴロゴロ転がっているのだなぁーと思いました。
    私も神戸能楽ツアーしてみようかな♪

  2. 柏木ゆげひ より:

    布引の雄滝は良かったですよ~。
    マイナスイオン云々はてきとーですが、
    気持ちいいのはホンマです。
    圧倒されながら、かなりの時間ゆっくりと浸ってました。
    地元って、いろいろあっても当然になってしまって
    魅力に気付き難いですよね。実家を離れて、地元のよさが
    ちょっと分かってきた気がします。
    さおりさんもぜひ神戸能楽ツアーしてみて下さい。
    狂言関連は何かないものなんでしょうか?
    『夷毘沙門』のえびっさんは…西宮ですね(苦笑)