伊勢神宮と能楽

伊勢神宮鳥居

住所:三重県伊勢市宇治館町1

 さて、伊勢旅行の最後に行ってきたのがこちら。いまさら紹介するようなところではないですが、伊勢神宮の内宮(皇太神宮)です。天皇の祖先神としてのアマテラスが祭られています。『日本書紀』に記された草創伝承によると、元は大和の宮中で祭られていたアマテラスを、崇神天皇の皇女・豊鋤入姫(トヨスキイリヒメ)が外に出し、次の代である垂仁天皇の皇女・倭姫(ヤマトヒメ)が各地を巡行しつつ、最後には伊勢の地に鎮まった、とあります。

 豊鋤入姫や倭姫というのは伝承上、斎王の祖とされており、そういう意味からも斎宮と神宮には切っても切り離せない関係があります。しかし、この時代の斎王伝承には史実性が認められておらず、実際には壬申の乱(672年)を契機として、伊勢に遣わされた天武天皇の皇女・大伯皇女(661-701)を以て斎王制度が成立したと考えられていますので、皇祖神としての伊勢神宮の成立もこの前後だと思われます。(もちろん、それ以前から伊勢の土着神を祭る宮はあったでしょうけれど。)


伊勢神宮本殿

 ところで、7世紀以降、変化はしつつも最高位の神社としてあった伊勢神宮ですが、意外にも能の現行曲で舞台となっている曲は2曲しかありません。『内外詣』と『第六天』です。『内外詣』が金剛流、『第六天』が観世流にしかない曲であり、稀曲なので、私は全く見たこともありませんけれど(苦笑) とりあえず、『能楽ハンドブック』『能・狂言事典』に載っているあらすじを紹介しておきます。

★『内外詣』
 伊勢大神宮参拝の勅命を受けた帝臣が新春の佳日、都を出発、大神宮に着く。そこへ神官と神子が現われ、神宮の威光を讃え、勅使は勅命参拝のことを告げて、祝詞の奏上を命じる。さらに神官は君臣の礼節をはじめ五常(仁・義・礼・智・信)の道を諄々と説く。感激した勅使の所望により、神子による神楽と神官による獅子舞をはじめ数々の神事が行なわれ、新春を祝福する。
★『第六天』
 解脱上人が伊勢大神宮に参詣すると、二人の里女が現れ、御裳濯川のいわれや、垂仁帝の御代にはじめて宮居の建ったことを語り、仏法の妨げをなすものがあるので夢に告げようといい、かき消すように見えなくなった。解脱上人が神前に通夜をしたその夢に、風雨雷電や大地の震動がおこり、仏法を破却する第六天の魔王が、陰魔・死魔・天魔などの眷属を引き連れて現れた。上人が合唱して仏を念ずると、たちまち素戔嗚尊が現れ、魔王どもを降伏するのだった。

 『内外詣』はとにかくめでたい曲なんだな、と分かるのですが、『第六天』の方は神社なのに仏法守護がテーマだったり、伊勢神宮なのに出雲系の神である素戔嗚尊(スサノヲ)が現れたりと、中世独特の神道の考え方があるように感じますね。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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