なんて素敵にジャパネスク(1)

なんて素敵にジャパネスク(1)
氷室 冴子
集英社 1999-04

by G-Tools

 平安時代ファンには有名すぎる小説です。

 時は平安。名門貴族の娘である瑠璃姫は幼い日々の初恋を胸に生涯独身を誓う16歳。しかし、世間体を気にする父親の策によって無理やり結婚させられそうなところを助けてくれた、幼なじみの高彬と婚約することに。高彬の和歌が下手という障害も超えて、めでたく初夜を迎えるが、コトが成る前に弟・融が野盗に襲われ事態は一変。騒ぎの収集がつくまで結婚はお預けになってしまう。早い新婚生活を夢見て、事件に身を投じる瑠璃姫だが…

といったストーリーの、好奇心たっぷりな主人公・瑠璃姫をめぐるコメディ小説です。しかし、コメディでも背景設定などは本当にしっかりしていて、平安時代文学の世界観をつかむための教材ともなり得るほどです。

 高校生のころに一度は読んだことがあるのですが、前にblogで「人妻編以降はあまり好きじゃない」と書いたところ、価値観などに敬意を払える友人から、いやそうじゃない、是非読み直してくれ、と言われたのでその気になって読み直してます(笑) まずは一巻目。

 私は原作よりも山内直美さんによるマンガ版の方が親しみがありますが、小説は文字だからこそ、マンガ版では書ききれなかった細かい部分がありますね。例えば衣服についてだとか、高彬は琵琶が得意だとか。作中に高彬が琵琶を演奏してるシーンがあった覚えはありませんけど…ってよく見たら、マンガ版でもさらっですが触れられていました(^^;)

 他には左馬頭にスケベそうな目でじろじろ見られた時に、「とうさまや融や高彬の他に、男にじろじろ眺められたことがほとんどない」というのも貴族の姫君ならでは。でも、マンガでは単なるスケベな目線にぞっとする瑠璃となってます。まあ、マンガで書くと説明的になりますからね。

 読んで改めて思うのが、それぞれの人物の感情の自然さ。例えば最初の初夜未遂(?)の時、瑠璃姫が「結婚仕度の調度がなにもないのよ。大和絵の屏風や、蒔絵の櫛箱や、螺鈿の鏡台や、真新しい黒塗りの髪箱や……何ひとつないわ!」とゴネますよね。それに対して高彬は「吹き出し」「そんなもの…後でいくらでも揃うじゃないか。ぼくだって、後でいくつか届けさせるから」と答える。

 マンガだと視点になっている瑠璃姫に入れ込んで、高彬は気が利かないヤツだなんて思ってましたが、今読むと高彬の反応は、彼の性格と切羽詰った状況から言って、至極当然なんですよね。私も男ですし気持ちは分かるぞ、高彬(笑) マジメで有能と理想的なようでいて、堅物で恋愛には不器用な面がしっかり書かれてます。

 高校生のころに好んで読んだ小説、特に少年少女向けのものは今になって見てみると、登場人物の感情が綺麗過ぎて深みがなく、そんなんじゃないよ、と感じてしまったり、恥ずかしくて読めないようなものもありますが、『ジャパネスク』はそんなことは全くなく、むしろ平安もの小説として一つの頂点を成す作品ではないかと、改めて感じました。

 あと、あとがきで作者の氷室冴子さんが「もし今の私が、ジャパネスクのようなものを初めて書こうとしたら、情があって惚れっぽい女の子が、毎回、新しい男性となにかのご縁で出会い、うまくいきかけては、なぜかダメになる物語をイメージしたかもしれません」と書かれているのは、なんだか分かりますね…。高校生のころは全っ然分からなかったのですけど。私の恋愛観も変化したんですね~(少し遠い目)。

 あ、ちなみに今回私が読んだのは1999年に出版された新装版です。下の画像も新装版のものですし、あとがきも新装版のものです。元々は1984年に出たものですが、新装版の時に挿絵が変わり、言い回しなども多少変えられたそうです。できれば旧版を読みたいのですけれど、(1)と(2)、『ジャパネスク・アンコール!』『続アンコール』までは高校生のころに手に入れたものが自宅に残っていたので新装版で。人妻編以降は手放してしまっていたので、古本屋で旧版を手に入れました~。1冊100円で楽に(笑) あと(6)だけ手に入ってないので、探さねば!!

 blogでこんな長文を書くのは久しぶりです。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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4件のフィードバック

  1. ノン より:

    柏木さん、こちらでは初めまして(^^)
    原作を読み直されたのですね。
    私も「なんて素敵にジャパネスク」の原作は大好きです。
    マンガ版では「何か物足りない・・・」と感じていたのは
    そうか・・・いくら山内直実さんがとても頑張られて
    おられても、マンガでは限界がある程、氷室冴子さんが
    登場人物の性格の細かい性格設定、さり気ない仕種に
    その人物の心理描写が推し量れるような緻密な文章表現を
    原作の小説にふんだんに散りばめて書かれているからだな~
    と柏木さんの感想を読んで改めて気づき、思い出しました。
    今また新たに山内さんは「ジャパネスク」を連載されておられ
    ますが、本当に最初に「ジャパネスク」のマンガ版を読んだ時
    「惜しい!!お上手に「ジャパネスク」の世界を展開されて
    いらっしゃるのに、ここの人物の心理描写をもっと目立つように
    描いていただかないと、マンガだけ読んだ人にはこの人物の実は
    とても深~い微妙な気持ちが伝わんないよ~(>_<)」
    とか思いましたっけ。
    私はマンガ評論家ではないのにエラそうです(^^;)
    原作があってのマンガ化も、ドラマ化や映画化するのも
    大変難しいものですものね。
    でも柏木さんのおっしゃるとおり、本当に原作は大人になって
    から読み返すとわかったキャラの気持ち、考え方、など奥深く、
    私などはどの人物からの目線で読むかと目線を変えながら
    もう小学生の頃に買って以降、今(もうすぐ三十路?)まで
    ずっと、思い出してはまた何度も何度も読み返してしまう
    そんな小説です。

  2. こんにちは、ノンさん。コメントありがとうございます。
    小説とマンガという表現形式の違いだとは思います。小説の方が説明的な文章が自然に入れられますし、緻密にいろいろな要素を入れ易いですよね。逆にマンガは、目に見えるという意味で、小説ではやりにくいことができるという利点もありますし。
    マンガ版は『ジャパネスク』ファンを広げる、という意味でとても大きな働きをしたことは間違いないです。世に多い「違う!」とされる「マンガ版」とか「小説版」などに比べると、よほど忠実でうまくマンガ化されてますよね。
    小説・マンガ・映画・ドラマなど、メディアをまたぐことは珍しくないですけれど、表現形式が違うのですから、上手く移しかえるというのは難しいことだと思います。
    ところで、年齢が上がってから読んでも、また違う発見があるような小説って良いですよね(^^) そういうのが質の高い小説かもしれませんね。

  3. 2005年9月、あの「ざ・ちぇんじ!」がミュージカルになって帰ってきます。男が男に恋をして・・・女が女に恋をした!?ドタバタコメディーを忠実に舞台化しています。興味のある方は是非当方ブログにお越しください

  4. コメントありがとうございます。
    大阪で演じられるのですね!
    また都合が良ければ拝見させていただきたいと思います。
    練習頑張ってください。
    平安ミュージカル『ざ・ちぇんじ!』
     於:森之宮プラネットホール
    9月17日(土) 19:30開演
    9月18日(日) 13:30開演 17:30開演
    前売:1,500円 当日:1,800円
    http://www.geocities.jp/sodtushin/KATUDO.HTM