『平家物語』は楽しい

4061583514 平家物語(1)
杉本圭三郎
講談社 1979-03
by G-Tools

 本館サイトの掲示板で、花兎さんが能『祇王』に関して「祇王といえば、平家物語には菩提寺は六条御所・長講堂となっています。知ったとき、祇王寺じゃなかったの?とびっくりしました」と書き込んで下さったのがきっかけで、「それは確かめてみたいな」と『平家物語』を読み始めました。(確認は掲示板でしました。)

 私、前に『平家物語』を読んだことはあって本棚に並んでいるんですが、7巻~11巻だけなのです(『平家物語』は全12巻)。なんで真ん中だけあるのかというと、私、URLに”funabenkei”と入れているように『船弁慶』好きで、特に後シテ・平知盛ファンなんですが、その平知盛が『平家物語』に登場するのが7巻の「聖主臨幸」、そして「見るべき程の事は見つ」と言って壇ノ浦に入水したのが11巻の「内侍所都入」なんです。つまり知盛が登場している部分だけを読むという邪道をしていたというわけで(笑)

 今回きっかけとなった「祇王」は1巻ですので、「ついでに最初から読もう!」と思って読んでますが…面白くてスイスイ読み進んでしまいます。『平家物語』は舞台となった時代の異例さを示すために前例を引くのが好きなので、平安時代の小話も多いですし、注釈や解説で物語と史実とを対比して見るのも楽しいです。

 能には『平家物語』ネタが多いので、知っている話が出てくると、これは!と思ってしまいますし。能楽師コミック『花よりも花の如く』2巻「とうとうたらりたらりら」で、憲人さんが妹の彩紀ちゃんに勧めたくなる気持ちは分かりますね。

 ところで、1巻「額打論」で、奈良興福寺と比叡山延暦時との争いが描かれていますが、興福寺の僧兵二人が延暦寺の額を散々に打ち割って「『うれしや水、鳴るは瀧の水。日は照るともたえずとうたへ』と囃しつつ、南都(奈良)の衆徒の中へぞ入りにける」という話がありました。

 書かれているのは中世に寺院で演じられた「延年」の歌詞です。能楽にも『翁』の詞章に取り込まれてます。『安宅』にもありますが、弁慶が「鳴るは瀧の水」と謡って舞うのも、「額打論」に現れるような僧兵と延年の繋がりなんでしょうね。「元より弁慶は三塔の遊僧。舞延年の時の若」(能『安宅』)ですものね。

 あと、文楽で『卅三間堂棟木由来』を見ていると「平忠盛が家臣進ノ蔵人」「我ら進ノ蔵人家貞」「都に三十三間堂を建て」といった言葉がありましたが、『平家物語』1巻「殿上闇討」を読んだばかりでしたから、「しかるを忠盛備前守たりし時、鳥羽院の御願、得長寿院を造進して、三十三間の御堂を建て」とか「其上忠盛の郎等…左兵衛尉家貞といふ者ありけり」とかを踏まえているんだなぁ、と思いながら聞いてました。『平家物語』で鳥羽院のところが『卅三間堂棟木由来』では白河法皇となっているという違いはありますが…。

 ちなみに現在”三十三間堂”の通称で知られる蓮華王院は、この時建てられた得長寿院に倣って、後白河法皇が平清盛に命じて作らせたものです。

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柏木ゆげひ

大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜→現在は会社員しながら能楽研究の勉強中。元が歴史ファンのため、能楽史が特に好物です。3ヶ月に1回「能のことばを読んでみる会」開催中。能楽以外では日本史、古典文学などを好みます。

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