美貌の果実

美貌の果実 川原 泉 白泉社 1995-09 by G-Tools

　『のだめカンタービレ』のことを書いたところ、同じ作者による『GREEN』の話になりましたが、農業系まんがといえば、と思い出したのが、この川原泉さんの『美貌の果実』。本棚からひっぱり出し、ついつい読んでしまいました(笑)

　ブドウの収穫とワインの仕込みを目前にして、秋月家の母娘は途方にくれておりました。なぜなら、突然の交通事故で父と兄を一度に失ってしまったからです。気をとりなおして働き始めた二人を陰ながら助けるために、葡萄の精が現れて──。軽快な中にほんわか優しさとせつなさが残る、川原教授の愛と家畜と作物の感動物語!!!　3部作「愚者の楽園」「大地の貴族」「美貌の果実」他「架空の森」「森には真理が落ちている」「パセリを摘みに」の3作を収録。

　川原泉さんは中短編まんがが多い方ですが、この『美貌の果実』の文庫本にも表題作ほか6作が収録されています。上に引用したあらすじでは、ブドウ農家を兼業する秋月ワイナリーを舞台とした表題作『美貌の果実』のことが書かれていますが、ほかに『愚者の楽園』はトロピカルフルーツを栽培する園芸農家を、『大地の貴族』は畜産農家を舞台にしています。

　基本的に川原作品はどれも好きですが、敢えてこの文庫本の中で選ぶなら、私は『美貌の果実』が好きですね～。七実ちゃん(5歳)の愛らしさと、ブドウの精との下りにはちょっぴり涙腺が刺激されたりして。…最近涙腺が刺激されっぱなしですね、私(笑)

　農業系3作以外では『森には真理が落ちている』。ふとした弾みにカメになってしまい、クラスメイトの生活を覗くことになる女の子の話なんで、どこがどうというものでもないのですが、「主様にっこり笑うだけ」という終わり方など大好きです。ひっそり屈託なく生きているけれど、実は両親を亡くして独り暮らしという、ヒロインの雪村霙も良いですよね。…川原作品には、主人公格の人物の両親または片親が亡くなっているという設定が多いですね。でも、みんな屈託がない辺りが救いです。

　川原作品全体に共通する特徴ですが、「軽快な中にほんわか優しさとせつなさが残る」という煽り文句はそのまま同意したい言葉です。軽快で親しみやすい絵柄ですが、扱っている内容には深いものがあります。ストーリー性とコミカル性のバランスが取れてるんですね。うんちくも多くて、私は大好き。

　そういえば、国文学の講義で、どういう話の流れだったかは忘れましたが、教授が「もし講演があったら話を聞きたい小説家とまんが家」というアンケートを取った時、私はまんが家に「川原泉」と書いたところ、「シブいね」と言われた思い出があります。渋いかなぁ？(^^;)

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